75.妖精界①
時は現在に戻り、妖精界。
巨木を潜った先は一面の花畑がひろがっていた。
周りは霧に覆われているのか、先は見えない。
後ろでギギギっと入口が閉じる音がして、シェリルがそちらを振り向いた。二人と並んでいたイヴもつられて振り返る。
「お母様、入口が消えてしまいます」
少し慌ててレイアの手を引っ張ったシェリルの前に、レイアがしゃがみこむ。
「大丈夫、また戻れるわ。でも貴女の事を狙っている人がいるから、安全になるまでしばらくここで過ごすのよ」
「狙ってる人・・・?」
「ええ、お城にいたら危険だったの。詳しくは話せないのだけれど、母が貴女を護るからね」
自分が狙われていると聞いて少し怯えた表情をしていたシェリルが、弱々しくだが笑って頷いた。
「わかりました。あの、お母様、ここはどこなのですか?」
「ここはね、妖精界よ」
レイアの言葉にシェリルがきょとんと目を瞬かせた。
「お母様の産まれた場所が妖精界ということは、お母様は妖精なの?」
「ええ、元、だけれど」
レイアの曖昧な言葉にシェリルが首を傾げるが、レイアは立ち上がってイヴを見た。
「行きましょう、こちらよ」
それから三人で花畑を20分程進むと、段々と霧の向こうが見えてきた。
そこには森がひろがっていて、足元の花畑は森の中にも続いているようだ。
「この森の中にお母様のおうちがあるのよ」
手を繋いで歩くシェリルに、レイアがそう言って笑いかける。
すると森を少し進んだ先に、白いレンガ造りの小さな家が現れた。
人の気配はしないが、家の壁も真っ白で、花壇も荒れる事なく綺麗に花が咲いている。
それを見たイヴが、疑問を投げかけた。
「誰かお住いなのですか?レイア様がお戻りになるのは久々なのですよね」
「そうね・・・以前、知り合いの妖精と暮らしていたから、その子が今もいるみたいね。私がここを去る時、好きな所に行っていいって言ったのに」
するとその家のドアがばんっと空いて、中から何かが飛び出したかと思うと、レイアの頭にぱふっと乗っかった。
シェリルとイヴがレイアの頭の上を見ると、そこには羽の生えた・・・猫?のようなモノが乗っかっている。
「レイアー!おかえりにゃー!」
「ただいま、ノア」
シェリルが「・・・ねこさん?」と呟くと、ノアと呼ばれたソレがシェリルを見下ろした。
「あれ?きみ、レイアの子供?」
シェリルがこくん、と頷く。
「やっぱり!レイアそっくりでかわいいにゃあ」
そう言いながらノアはレイアの頭からシェリルの頭へと飛び移った。
「この子は妖精のノアよ。ノア、娘のシェリルと、侍女のイヴ。しばらくここに住むわ。それにしても、あなたまだ居てくれたのね」
「ボクはちょっと前に戻ってきたにゃ。1年くらい?前かにゃ。レイアが戻る夢をみたにゃ。だから掃除して待ってたにゃ」
シェリルの頭の上にバランス良く座り、手で顔を洗いながらノアはご機嫌に答えた。
「ノア様も夢の魔法が出来るのですか・・・可愛いのに凄い・・・」
イヴがボソッと呟くと、ノアが顔を洗う手を止め、後ろ足で立ち上がると腰に手をあてた。
「レイアに夢の魔法を教えたのはボクだからにゃ!」
えっへん!という感じのドヤ顔も、見た目は猫なのでひたすらに可愛いだけだった。
「とりあえず、入りましょう。シェリルも疲れたでしょう」
レイアは慣れているのかノアをスルーして家に入って行った。




