69.調査③
イヴはすぐに、シェリルを抱いた乳母のジェーンを連れてレイアの部屋に戻ってきた。
「姫様の部屋の侍女にはレイア様の元に連れていくとそのままお伝えしました」
「ありがとう、イヴ。ジェーン、シェリルをこちらに」
ジェーンはレイアの様子に少し戸惑いながらも、シェリルをレイアに渡す。
レイアは腕の中のシェリルのくりくりとした目を見ながら、耳を澄ました。
レイアの目と耳はまだ、セオドアとフェルディナと感覚共有している。
二人は先程別れた為、声は聞こえてこない。
フェルディナがシェリルの部屋に着く前に間に合った事にふぅ、と安堵の息を吐くと、ジェーンに視線を向けたレイアが口を開いた。
「ジェーン、貴方、フェルディナから何か指示をうけているのかしら」
レイアに問い掛けられたジェーンは、段々と顔を青くしていく。
それを見れば答えなくてもわかる。
「そう。受けているのね」
「皇妃様、その、申し訳ありません・・・」
膝をガクガクと震わせたジェーンは、やがてその場にへたりこんで泣き出した。
その時ちょうど、シェリルの部屋に着いたフェルディナが、侍女に姫様はどこかへ?と聞いている声が聞こえた。
侍女はイヴに言われた通り、妃殿下のお部屋におります、と伝え、フェルディナはそうか、とだけ言うとそのまま部屋を出て城の門の方向に歩き出した。
レイアはそれを見届けると、一度感覚共有を切った。
「ジェーン、何を指示されたか話して頂戴」
床に蹲って泣いていた乳母は、少し顔をあげ、ポツポツと語り出した。
「フェルディナ様から、姫様が病にかかっているから、その進行を遅らせる為に時折眠らせるが、皇妃様には病気の事を内緒にするようにと・・・。ですが一度私が隣室で姫様の着替えを用意していた時に、姫様の部屋に陛下と二人でいらっしゃったのです。その時、病気という偽装は上手くいっているか、という会話を聞いてしまいまして・・・皇妃様にお話するべきでした」
言い終えたジェーンは、またさめざめと泣き出した。
「貴方はその偽装が陛下の指示と解ったから、私に言えなかったのね」
「はい・・・っ、申し訳ありません!」
「フェルディナはシェリルを眠らせる以外に何か魔術を使っていた?」
「私はあまり魔術に詳しくはありませんが、二度ほど、眠った後の姫様が熱を出された事がありました。それも偽装だったのかもしれません」
「・・・そう。ジェーン、貴方はまだシェリルの乳母を務めたい?」
レイアに聞かれたジェーンは、顔を上げると少し驚いた声を上げた。
「まだ私に、続けさせて貰えるのですか?」
皇室の乳母となるのは、貴族ではかなりのステータスとなる。
当然辞めさせられるものと思っていたジェーンは、出来ることなら続けたいはずである。
「今後、貴方がシェリルを守ってくれるのならば、このまま貴方にお願いするわ」
「はいっ!それは勿論でございます!」
何度も首を縦にふりながら応えたジェーンだが、ですが・・・と弱々しげに呟いた。
「問題はフェルディナにどう対応するか、ね」
「はい・・・私ではフェルディナ様に意見など・・・」
「眠りの魔術だけならば問題はないのだけれど、熱を出したりそれ以外の症状は許せないわ。今後はフェルディナが来たら、その後すぐにシェリルを私の所へ連れてきて」
「かしこまりました、必ず!」




