67.調査①
レイアがセオドアに不安を抱きながら眠った翌日。
レイアは一番信頼している侍女のイヴを部屋に呼び、その他は誰も入らないようにと厳命した。
レイアは皇妃になるまで魔の森の中の邸に住んでいた。
(実際はその邸は幻影で、妖精界と人間界を行き来していたのだが)
イヴはレイアが妃として城に来る前に、準備の為にセオドアからその邸に送られた侍女だった。
その時偶然レイアの背中に現れた羽を見てしまい、その美しさと神々しさに敬服し、今はセオドアではなくレイアを主として仕えてくれている。
レイアは無詠唱でいとも簡単に防音結界を張ると、椅子に座ったままイヴを見上げ、問いかけた。
「イヴ、陛下の今日のスケジュールを教えて」
聞かれたイヴはきょとんとレイアを見つめた。
その顔は、わざわざ防音結界を張り、さらに他の侍女を下がらせてまで聞いたのが陛下のスケジュールな事が理解できない、という顔をしている。
「イヴ」
再度呼びかけると我に返ったのか、慌ててポケットから小さな手帳を取り出した。
「あ、失礼致しました、陛下の今日のスケジュールは午前中にフェルディナ様と謁見、執務を挟んでその後、先日の豪雨で橋が流れたレント川の視察となっております」
「そう・・・橋が流れたのは王都を出て一時間程の所だったかしら?」
「はい、あそこの橋が壊れるのは二度目なので、新たに違う場所に橋を掛けるか、同じ場所にするかの視察だそうですので、お帰りは遅いかと思われます」
「ならちょうどいいわね」
レイアの独り言に近い呟きに、イヴは首を傾げた。
「レイア様、ちょうどいい、とは?」
「陛下を探るのよ」
レイアはそう言うと両掌を上向きに胸の前に出し、何も無いその掌を見つめた。
するとズズズッと黒い粒子が生まれ、やがてそれが二体の精霊の形を成した。
レイアが呼んだのは闇の中位精霊達で、どちらも黒いローブを着た小人に藍色の蝶の羽が生えている。
二体はさほど違いもなく、双子のように見えた。
闇精霊は闇と言うだけあって、隠れるのが上手く、見つからないように探るには適している。
レイアは膝に座る二体の精霊に隠蔽を掛けると、探る相手を端的に告げた。
「あなたは陛下、あなたはフェルディナよ。さぁ、お願いね」
その瞬間、かろうじて感覚共有で感じていた気配が消えた。
「イヴ、フェルディナはもう来てるの?」
「いいえ、あと一時間後の予定です。・・・あの、レイア様」
「陛下とフェルディナの何を探るのかって?」
「はい」
「陛下が私のために何か良くない事をしている予感がするのよ」
「レイア様の為・・・『荊の祈り』に関する事でございますか?」
「そうよ。そして陛下がそれを相談するならフェルディナでしょう?」
イヴは少し険しい顔で頷いた。
「私が見逃したり聴き逃したりしないように、貴方も一緒に見ていて欲しいの」
「かしこまりました」
レイアは目を閉じると、自身とイヴと、二体の精霊の感覚を共有させた。
途端に視覚が4つに割れる。
右目にはフェルディナの視覚、左目には陛下の視覚、
右耳にはフェルディナの声、左耳には陛下の声が聞こえるようになった。
基本的に感覚共有は一体と行うもので、それ以上は慣れていないと酔いそうになる。
イヴは感覚共有をするのはこれで三度目だが、やはり気持ち悪いのか顔が歪んでいた。
「イヴ、二人が同じ部屋になれば片目、片耳を塞げばマシになるわ。それまで貴方は陛下の方だけ見ていて。私は邸にいるフェルディナに集中するから」
「はい、お任せを」




