64.先読みの水晶②
先読みの水晶は、読んだ相手の名前、魔力量、属性、そしてその者の『これから先の未来に起こる一番重要な事柄』を表示する魔道具である。
しかしこの魔道具は、今では作れる者もおらず、シャウゼンで現存しているのはノイラート家に伝わってきたこの一つだけ。
それも、何時の時代の物なのかも分からない程はるか昔の魔道具であり、表示が古代文字な上に、いささか古風な文章で示されるので、読み取り辛いという欠点がある。
現代風に改良しようにも、分解しても直せる保証がない為、作られた時のままだ。
それにしても今回のような文章は初めて見た。
確定した未来ではなく、どちらを選ぶかで未来が変わるという事だ。
一先ず自身の思考は置いておき、陛下の問に答える。
「番と言うのは古の聖獣と呼ばれる龍族、獣人や魔人やエルフのような人と人ではない何かが混じって生まれた者が、生涯を共にする相手の事をいいますじゃ。そして将来姫様は何者かと番になるという事のようですな」
「あぁ、書物で読んだ気はするな…続けよ」
夫婦になる事を『番う』と言うが、この場合の番は別だ。
「シャウゼンは亜人は少ないですからな。番というのは魂の繋がりでわかるものですじゃ。互いを認識した瞬間に分かるようですじゃ。しかし姫様の力は魂を削るもの。その魂は力を使う程完全では無くなる・・・ですので番と出会っても認識は出来ず、番の誓いを持てぬという事やもしれませんな」
扉というのがよく分からないが、姫様が番を見つける前に皇帝陛下が姫様に魔法行使をさせた場合、番とは出会えないだろう。というか、出会ってもお互い認識出来ないだろう。
逆に、番と魂の繋がりを確立してしまうと、その繋がりに強く守られた魂を糧にする事はおそらく不可能。
「しかし娘には力を使ってもらわねば困る。番を認識出来なくなる事が娘になにか害があるのか?」
「人族以外がその番と出会えない場合、殆どが短命とされておりますじゃ。姫様が純粋に人族であればさほど気にせずとも問題はないのですが…あのお方のお子ですし…」
「…あぁ、なるほど、な」
陛下は昨日の話を思い出したのだろう。
皇女殿下はそもそもが短命なのだと言っていた。
例え姫様が番と出逢えても、姫様の寿命がどれほど伸びるのか定かでは無いが、長くはないだろう。
おそらく、伸びて数年。
妖精と人族の子となると、皇女殿下の今の状態としては今の皇妃様と同じような状態なのか?
いやしかし、シャウゼンの皇家の血は人族では長命だ。それを考えると通常よりは持つかもしれない。
今思えば皇子様の寿命はどうなのだ?同じように危険なのでは?と次から次へと浮かぶ疑問に、フェルディナが埋もれかけた時、皇帝陛下が問うた。
「短命とは、どれくらいだ」
「一概には言えませぬ。が・・・姫様の場合早くて15、遅くとも20歳くらいですかな。後の魔力量にもよりますじゃ」
今目の前でウトウトし始めた、健康そのものに見える姫様の様子を見ながら答えた。
産まれたばかりの赤子の状態でのこの魔力量からして、かなり大きな魔力の器になるだろう。
幼子の魔力が安定していないのは通常の人族でも同じ事で、成長と共に安定していく。
龍族や魔物に近い魔族など、人族とかけ離れた種族な上に人族の血が混ざっていない者は、そもそもの寿命が長い為、番えないと短命と言ったところで数百年は余裕で生きる。
逆に何代も前に一度混ざった場合などは血が薄まり、その上で番を必要とした場合は短命だが、純粋な人族以外と人族が数回混ざった程度の亜人は、本来であれば長命なのだ。
フェルディナは家系に魔族の血が何度か入っているのと、ノイラートの魔術があるからこそ100を超えて生きながらえているが、人族の寿命などよくて80かそこら。
そこから短命となればどれほど短い事か。
「そんなにすぐなのか…しかし彼女はもう…」
「もしかしたらもっと早いかもしれませぬが、先読みの水晶ではそう言った危険は出ておりませぬ。姫様が力を…例の魔法を使えるようになるのは早くても6、7歳からですじゃ。それまで姫様に、水晶に出た事象が起こらなければ大丈夫ではないかと…それまでは皇妃様に無理をしないようして頂くしかないですじゃ」
「そうか、そうだな」
皇帝がフェルディナの言葉に頷く。
その顔は少し険しさが薄れたように感じられた。




