62.荊の祈り
城から自宅へと戻ったフェルディナは、その足ですぐに地下の書庫へと向かった。
魔術で光と空調管理を徹底してある書庫には、代々のノイラート一族が作り出した魔術は勿論、自国、他国の魔術と魔法を記した書物が、所狭しと並ぶ本棚に隙間もなく並べられていた。
フェルディナは迷うこと無く目当ての書物がある棚に向かうと、そこから数冊の本を引き抜いた。
ここにある書物の背表紙に書かれているのはその内容を端的に示した単語。
フェルディナが手に取ったのは、魂・転生・記憶・命・再生・時間、などの書物だ。
例えば病気の人間の延命に関しては、今でも用いられている方法がある。
治癒魔術では治らなかった病気などの、体内の病巣の細胞の崩壊を緩やかにしたり、部分的に再生を促すというような魔術だ。
しかし皇妃様の場合は、そもそもの肉体が創り物である。
人間と全く変わらない肉体であれば、細胞の崩壊を遅らせるという点では有用かもしれないが、魔力で創られた肉体となると、内部は普通とは違う可能性がある、とフェルディナは考えていた。
陛下から皇妃様の話を聞いた時、表情には出さなかったが内心では皇妃様の魔法の才に驚愕していた。
フェルディナは魔法よりも魔術を得意とする。
それは帝国では当たり前の事だ。
しかし魔法にしか出来ない事もある為、フェルディナは魔法も学んでいた。
皇妃様は己の魔力だけで、ヒト一人の肉体と魂を作り上げたという事だ。
妖精とは精神体であり、存在そのものが魔力の塊であると言われている。
それをヒトの肉体に無理やり押し込めば短命なのは当然の事だろう。
おそらく魔力の質自体は妖精のままだと予想するが、見た目だけ人間なのか、内臓までも人間なのか。
そしてその創られた体の維持に魔力が常に必要なのではないか。
そして今回の懐妊、出産で、皇女殿下に大量の魔力を吸われた事で、維持に必要な魔力が足りなくなり、本来よりもだいぶ早く限界が来たのだろうと察せられた。
フェルディナは机に乗せた本一冊取ってペラペラと捲り、皇妃様が使ったと思われる魔法のページを探した。
「あった」
フェルディナはしばらくして、目当てのページを見つけた。
【荊の祈り】
・魂を糧として、生物の命を伸ばす古の魔法。
通常、糧とする魂は己の魂を使うが、他者が行う場合、命を伸ばす相手との血の繋がりか、あるいは魂の繋がりが必要。
それらがない場合は倍の魔力を必要とする。
・荊の祈りを複数回行うと、魂が足りず、転生が不可能になる。
フェルディナの眉間に深い皺が刻まれた。
「血の繋がり・・・妖精に親はおらぬと聞く・・・となると皇妃様の血族は皇子殿下か皇女殿下のみという事じゃ。魂の繋がりとは番の事じゃろうな。おそらく皇女様の魔力が安定するのは7歳前後・・・それまで皇妃様の体が持つのか・・・調べなくてはならぬな」
フェルディナは思考を整理するようにそう呟くと、また書物に視線を戻した。




