60.微笑みの裏②
レイアの部屋を後にしたセオドアは、その足で産まれたばかりの娘の居る部屋へと向かった。
娘の部屋はレイアがすぐに会えるようにと、彼女の部屋の続き部屋の隣にあった。
ノックもせずドアを開けると、乳母が窓辺の椅子に座り、娘をあやしていた。
乳母は突然あいたドアに目を向けると慌てて立ち上がり、娘を抱えたま頭を下げた。
「陛下、気付かず申し訳ありません」
「よい。娘の様子はどうだ」
「はい、それがあまり乳を飲まなくて、時間を掛けて少しづつ飲ませております」
セオドアは乳母の方へ歩き、その手に抱かれた娘を見下ろした。
セオドアが娘をきちんと見るのはこれが初めてだった。
「陛下、お抱きになりますか?」
娘を凝視していたセオドアに、乳母が微笑みながら尋ねる。
「いや、いい。明日、娘の魔力を測らせる。支度しておけ」
「か、かしこまりました」
セオドアは一度もシェリルに触れること無く部屋を出ると、部屋の前で待機していた執事のジルに
「フェルディナを呼べ」
と、一言告げて執務室へと戻って行った。
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「陛下、フェルディナ・ノイラート様のお越しです」
「通せ」
入室して来たのは、腰までの白髪と胸下までの白髭の老人で、フード付きの漆黒のローブに身を包み、己の身長程の杖をついていた。
老人は執務室に入るなりセオドアに恭しく頭を垂れる
「陛下、お待たせして申し訳ございませぬ」
この白と黒の老人は、代々皇家にのみ仕えている魔術士の家系であるノイラート家の現当主で、歳は124歳。
ローブ越しでも枯れ木のような細さの見た目とは裏腹に、動きは機敏で若々しい。
「よい、そこに座れ。今日はお前に内密に話がある」
セオドアに言われ、テーブルの向かいの椅子に腰を下ろしたフェルディナは、長い髭を擦りながら答えた。
「陛下の為であればなんなりと」
「フェルディナ、先に聞いておきたいことがある。そなたが知る古の魔法の中に、魂を糧として生命力に変えるというものはあるか」
セオドアの問に、フェルディナは目を瞬いた。
「陛下、どこでそれを・・・?」
「・・・あるのだな?」
「はい。我が家に伝わる魔法書に載っております魔法の一つですじゃ」
「それは、己の魂しか使えぬのか?」
「陛下が仰るのは、他人の魂を削り、自分の命を伸ばす、という事ですかな?」
「いや、己の魂を削り、他人の命を伸ばせるのか、だな」
「それであれば、可能ですじゃ」
「そうか・・・お前はゆうに100を超えておるが、それを使っておるのか?」
「いいえ、陛下。陛下の仰る魔法はかなりの魔力が必要。私が何年もの寿命を増やす為にそれを行使しようとすれば途中で魔力が足りなくなりますじゃ。私が長寿なのは身体強化と内臓強化で無理くり生きながらえておるのですじゃ」
「なるほど、な。通りでその形でキビキビと動けるわけだ。フェルディナ、これから話す事は誰にも話してはならぬ。守れるか」
「勿論ですじゃ。心配であれば誓約を結びますぞ」
「よい、そなたを信じる」
セオドアは、レイアの出自と行使した魔法についてをフェルディナに話して聞かせた。




