57.古の妖精
息子を見送ったレイアは、何も無い空間に向けて小さく息を吐いた。
先程、ハーレイに渡した紙には、何の効力も無い。
通常であれば皇帝のサインか、皇帝が認めた代理のサインが必要だが、ハーレイに渡した紙にはレイアの名前だけしかないし、そもそもレイアは死んだことになっている。
それでもレイアは母として、娘とその番の婚姻を認めるという事を、娘の番に伝えたかった。
「ここまで、長かった・・・」
一人呟いたレイアは、遠い記憶に思いを馳せた。
レイアは、古の時代に妖精界に意識と存在を得て生まれた。
妖精は妖精界、精霊界、たまに『外』と呼ばれる人間界で気ままに生きてきた。
元々が戦闘種族でもない為、滅多に死ぬことは無い。
しかし500年ほど生きていたレイアは、妖精界に迷い込んだ魔族に存在を消滅させられてしまった。
妖精は、存在が消えても意識は残る。
そして時が来るとまた、その意識が存在を得て、記憶、容姿、すべて元通りに生まれ直す。
妖精はそれを繰り返してきた。
レイアも、初めての消滅から200年ほど後に生まれ直していた。
レイアが初めて自身の意識と存在を得てから、3000年がたった頃。
精霊界へ向かっていたレイアは、森で一人の人間を見つけた。
その人間は血まみれで、折れた剣を握ったまま木に背中を預けている。
死んでいるのかと近付くと、微かな呼吸が聞こえ、
レイアは回復魔法でその人間を助けた。
その人間が、当時19歳のセオドア・フォン・シャウゼンであった。
その出逢いから2年、2人は出逢った森で逢瀬を重ねていた。
そして2年前に出逢った日と同じ日に、レイアはセオドアから求婚された。
レイアは迷った。セオドアは皇太子で、自分は妖精。
妖精である事は話してはならないとされていて、
もちろんレイアもセオドアには隠していた。
妖精が人間の伴侶を得る場合、妖精には、選ばなければいけない事がある。
妖精は所謂、精神体のようなもの。
意識すれば触れたりは問題なく出来るが、きちんとした肉体と人間のような魂はない。
故に、子供をもうけることが出来ないのだ。
どうしても子が欲しい場合、精神体のような体を人間のそれへと変化させ、同時に魂を得る必要があった。
しかしこれを一度行うと、元の存在には戻れない。
そして人間と妖精の娘の様に、寿命が人族の平均よりも極端に短くなる。
それに妊娠出産でも寿命が減る場合もある。
妖精としての存在のまま伴侶と二人で生きるか、
伴侶との子供を得るために人間の肉体と魂を得て、短い時間を生きるか。
セオドアは皇太子で、子供は必ず必要。
そう考えたレイアは後者を選んだ。
そしてレイアはこの事を隠したまま、セオドアと結婚して皇妃となり、翌年ハーレイを産んだ。
※妊娠出産で変化する寿命
妊娠出産が人それぞれなのは他種族とかわりません。
なので、人化した妖精の場合、相手の魔力との相性や夫婦の魔力量、赤子が親から引き継いだ魔力等、様々な要因で、妊娠出産後の寿命がほぼ変わらない者もいれば、がっつり減る者もいます。




