56.ハーレイとレイア
帝国の皇城の一室。
その部屋の主は今日も執務に追われていた。
その主が部屋に張っている結界に、反応があった。
それと同時に、目の前に美しい蝶が現れる。
「この魔力は・・・シェリル?」
蝶を見つめるのは帝国シャウゼンの皇太子、ハーレイ。
その蝶はゆっくりと彼の指に止まり、開かれるのを待っている。
魔力を送ると蝶は一通の手紙へと変わった。
そこには間違いなく『お兄様へ』と書いてある。
念の為通常の結界と防音の結界を貼り直し、手紙を開いて読み進めた。
「リンデンバウムの王城からか・・・」
手紙を読み終えたハーレイは、首にかけているペンダントを握ると呪文を唱えはじめた。
直後、ハーレイは眠りに落ちた。
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『ハーレイ、いらっしゃい』
「母上、よかった、会えた」
ペンダントは母上に貰っていたもので、呪文を唱えると母上の空間に呼んでもらえる魔法具である。
必ず呼ばれるわけではなく、母上が呼べる時にしか会えない。
『シェリルから接触があったのね』
「はい。今手紙がきました。母上はシェリルに会えたのですね」
『ええ、私の魔法が解けたから、呼んだの』
「番に出逢えたと書いてありましたね・・・良かった」
『ハーレイには迷惑ばかりかけてごめんなさいね』
「いいえ、私は皇太子です。それにシェリルは大切な妹ですから」
母上は柔らかく微笑んだあと、すぐ真面目な顔になった。
『セオドアはどう?』
「必死に母上を探していましたが、窶れて・・・今は城で伏せっています」
『そう・・・』
「母上は・・・あとどれくらいですか」
『そうね、間も無くここから出るだけの力は戻りそうよ』
「その時が母上との別れの時という事ですね・・・」
『ええ、そうね・・・。でも、シェリルには私のようになって欲しくないもの。あの子の為なら私はこの生を終わらせる事に迷いは無いわ』
「母上が父上に会わなければ・・・っ」
『あら、会ってなければ貴方にもシェリルにも会えなかったわ。だから私は後悔はしていない』
そう言って、満足気に笑った。
私は唇を噛み、頭を降って話を変える。
「母上、シェリルと番のクラウド卿から、婚姻の許可を求められると思うのですが、父上には話せません・・・父上にとってシェリルは母上に生きてもらう為だけの存在ですから」
『そうね・・・それについてだけれど、考えがあるの』
「聞いても?」
『私が守りきれなかったせいでシェリルの記憶が欠落してしまった。だからシェリルが皇女だと言う事を知らないフリをして、婚姻しまえばいいと思わない?』
「そ、それは・・・」
確かに妹は母上にそっくりではあるが、妹は幼い頃からノイラートの魔術で幽閉に近い環境に置かれ、あまり表に出ていない。
母上は10年前に亡くなった事になっている為、
2人が母娘と気付くのはリンデンバウムでは王家の一部と、シャウゼンと付き合いの深い貴族くらいだろう。
貴族の令息令嬢の年齢なら、知らない人が殆どのはずた。
『番が別れれないのは周知の事実だし、婚姻しちゃったもん勝ちだと思うのよ』
ポジティブな母上らしい言葉に、ハーレイもそのような気がしてくる。
「あちらの王家はもうシェリルに気づいてるのに大丈夫ですかね」
『マーガレット様は私の友人だから大丈夫よ。全て終わったら、あちらの王太子へのお礼にアリアとの婚約は破棄してあげたいわねぇ』
「その事ですが、アリシアとアリアの調べが終わりました。母上の想像通りでした」
『やっぱり・・・そういう事なら、シェリルが婚姻を結んだ後に正しい形にしましょう』
「わかりました」
母上は掌に紙を出し、魔力で何やら書いている。
『ハーレイ、これをクラウド卿にお渡しして』
私に手渡された紙には、シェリルと番のセシルの婚姻を認めると書かれていた。
勿論、母上の・・・レイア・フォン・シャウゼンのサイン入りである。
「必ず」
母上は一度私を抱きしめると、ゆっくりと姿が見えなくなった。
眠りから醒めたハーレイの手元には、先程の紙が握られていた。
「手紙で送るのは危険か・・・あちらに行く時だな」
そう呟いて便箋を取り出し、急いで手紙の返事を書くと魔力を込め、窓から飛ばしたのはオレンジ色の虎。
シャウゼンの紋にもある虎である。
それがハーレイの手紙の形だが、ハーレイは些か美的センスにズレがあり、誰がどう見てもオレンジ色の猫であった。
「無事、妹へ届けよ」
すると猫の形の虎は姿を隠し、消えていった。




