55.深紅の女
12/3 少し内容修正しました。
時はセシルがシェリーと出逢う少し前に遡る─。
シャウゼンの帝国城がある敷地の一角に、石造りの塔が二つ並んでたっていた。
二つの塔は一階部分と中程に、塔を繋ぐように橋がかけられている。
その片方の塔の中に、簡素な部屋があった。
壁も床も石造りで本来高級品であろう絨毯は、古ぼけて元の美しさは消えている。
その部屋の石壁には、大きな古めかしい鏡が掛けてあり、その鏡の前にやたら豪華な造りの、真新しい椅子が置かれていた。
その部屋に似合わない女性が一人、現れた。
深紅の髪を緩く結び、切れ長の濃い赤の瞳。
形は寝衣だが、派手な濃い紫で、至る所にゴテゴテとした装飾がついている。
女性は真っ直ぐ鏡の前に向かい、豪華な椅子に座り、誰かの名前を呼んだ。
「サウル」
すると鏡が波打ち、映像が浮かびだした。
鏡に映るのは赤い目の男だった。
その男に女性が話しかける。
「サウル、いつになったら見つけてくるのよ!」
その声は苛立ちを顕にしていた。
「申し訳ありません、一度見つけたのですが逃げられてしまいました」
「早くしなさい!セオドアが帰ってきてしまう!
早くあの女を見つけて来なさい!」
「はっ」
男が返事をすると、鏡は元に戻った。
女性はスっと立ち上がると、後ろを振り返り数歩歩いて壁の前に立ち止まる。
女性が目の前の石壁に手を触れると魔法陣が浮き上がり、どこかの部屋を写し出した。
そこには一人の美しい少女がいた。
感情を失ったかのような瞳で、粗末なベッドに腰掛けている。
少女からはこちらは見えない。
「全く、忌々しい」
女性はそう吐き捨てると石壁から手を離し、出入口へ向かう。
そこにある魔術陣から、また姿を消した。
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翌朝、扉の向こうから声がかかった。
「皇妃様、アリア様がお会いしたいそうです」
皇妃と呼ばれた女性は扉をあけ、
「わかったわ、部屋に呼びなさい」
と言うと、声をかけてきた侍女と共に寝室を後にした。
彼女は皇妃アリシア。
帝国シャウゼンの皇妃である。
「お母様!」
自室に戻ったアリシアに、濃い桃色の髪にダークブルーの瞳の少女が駆け寄った。
アリシアの娘の第二皇女アリアである。
「アリア、待たせたかしら?」
「わたくしも今来たところです!」
アリシアはアリアをソファーに促すと、隣に座った。
「アリア、今日はどうしたの?」
「お母様、レオナルド様の誕生日プレゼントを買いたいの」
レオナルドというのは娘の婚約者で、隣国リンデンバウムの王太子である。
アリアは一目惚れしたレオナルドをいたく気に入っていた。
来月、そのレオナルドの誕生祭が行われる。
その招待状が昨日届いていた。
「そうね。何か差し上げたい物はあるの?」
するとアリアは頬を赤らめてモジモジして言った。
「お母様、アリアはどうかしら?」
「・・・どういうこと?」
「お誕生日プレゼントに、アリアがお嫁にいくの」
「アリア、結婚はあなたが学院を卒業してからと言っているでしょう」
「もうすぐ15歳です!なぜ卒業まで待たなければならないの?」
「帝国の成人は16歳なのは知っているでしょ?あと1年と少しじゃない」
そう言うと、アリアは口を尖らせて不満顔になる。
「1年くらい、いいではありませんか・・・」
「アリアはそんなに母と離れたいの?」
「ち、違いますわ!でも全然レオナルド様に会えないのだもの!毎日レオナルド様にお会いしたいの!」
レオナルドは王太子の為、結婚する場合アリアがリンデンバウムに嫁ぐことになる。
「アリア・・・」
「そうだわ!お母様、いい事を思いつきましたわ!」
「なにかしら?」
「レオナルド様に、結婚を機に帝国に来てもらえばいいのだわ!」
アリシアはアリアの言葉にどう返答するか迷った。
実の所、アリシアはアリアを次期女帝にしたいという願いがあった。
帝国は跡を継ぐ皇子がいない場合、皇女が皇帝になる事は認められているからだ。
しかし今の所、後を継ぐのは前皇妃の息子である第一皇子のハーレイ。
アリアを女帝にしたいのは、単に元皇妃レイアの息子を、愛するセオドアの跡継ぎにしたくないから。
それ以外の理由など、アリシアにはない。
「アリアがレオナルド王子を婿に迎えると?」
「レオナルド様にシャウゼンに来てもらえるのならどちらでもいいわ!」
アリアに我儘な所があるのはアリシアも理解しているが彼女にとっては唯一の娘。
娘の我儘を聞いてリンデンバウムの王太子をシャウゼンに呼ぶのはおそらく、いや、確実に不可能だ。
アリアが女帝になる為には、レオナルドを諦めさせなければ…。
しかしアリアは認めないだろう。
今はまだアリアには言えない。
「アリア、考えてみるからもう少しだけ待ちなさい」
「ほんとう!?お母様大好きよ!」
そう言ってアリシアに抱きついてきた。
「アリア、わたくしもよ」
そうして機嫌の良くなったアリアは、アリシアの部屋を後にした。




