49.手紙
「シェリー、ハーレイ殿下に手紙を書いたらどうかな」
セシルの言葉に我に返ったシェリー嬢が、顔を上げた。
「そうですね!・・・あ、でもレターセットが」
「ああ、それなら、このレターセットを使うといい。私がいつも使っているからハリーならすぐ私が関わっているのが事実と分かるだろう。そういえばシェリー嬢の手紙は何の形なんだ?」
手紙は通常の紙とペンで書くが、魔法で相手に届ける際の形は変えることができる。
手元にある手紙を魔法で何かの形に変え、相手の魔力を通すと元の手紙に戻るのだが、その形は人それぞれ違う。
その者の性質や好み・・・簡単にいうと男性なら性格を表す動物、女性なら花や蝶などが勝手に具現化される。
それをあえて別の形にするには魔力を多く使う上に手間な為、わざわざ変える人は少ない。
「私、まだ手紙を飛ばしたことがなくて」
「シェリー、試しに私に飛ばしてみたら?」
「やってみます」
そう言ったシェリー嬢が、レターセットではない紙に魔力を通すと、
その形はピクシーだった。
女性でもこれはあまり無いだろう・・・少なくともセシルもレオナルドも初めて見る形だった。
「これは・・・あからさまだな」
レオナルドの口からぽろっとそんな言葉が出てしまう。
「あはは、です・・・ね・・・」
シェリー嬢も苦笑いをうかべている。
「可愛いけど、他の・・・無難な形にした方がいいかもしれないね。シェリーには手紙に消費する魔力くらいたいした量じゃないし」
手のひらにピクシーを乗せたセシルが言うと、シェリー嬢が頷いた。
「やってみます」
そう言っていくつか作ったうちから、蝶の形に決めたようだ。
セシルの元には、小鳥、魚、リボン、ウンディーネ、そしてあれは龍か?・・・色々な形の手紙がふよふよと浮いている。
無難とは・・・?
「これ、勿体なくて開けたくないなぁ」
「でも開けないと、ずっとセシル様についていきませんか?」
「それはそれで面白くない?」
「ふふふ、だめですよ」
なんだこの空間。私の執務室のはずなのだが、私が邪魔者みたいではないか?
「君たち、イチャつくのは帰ってからにしてくれ」
「あ、すまない」
「すっすみません」
「くっくっ、まぁこんなセシルは珍しいから良いけどな」
シェリー嬢はレターセットを受け取ると、手紙を書き始めた。
セシルは少しその様子を眺めていたが、こちらを向いて
「レオ、執務を手伝う」
と、セシルが有難い事を言ってくれたので書類を半分渡す。
執務室には、しばらく三人分のペンのカリカリという音だけが響いていた。
しばらくすると、セシルが体を起こして息を吐いた。
「レオ、終わった」
「は?もうか?・・・相変わらず早いな」
私はまだ半分なんだが。
「セシル様は優秀なのですね・・・」
ちょうど手紙を書き終えたらしいシェリー嬢がセシルをキラキラとした目で見ていた。
「ああ、セシルは才色兼備だよ、まったく。他の側近を必要としていない理由はこいつの優秀さのせいでもある」
「何を言っている。残りもやるから渡してくれ」
「いいのか?」
「レオはシェリーの手紙を確認してあげてくれ」
「ああ、なるほど。わかった」
私の事も書くようにとシェリー嬢に言ってあるから、内容を見ろという事だろう。
私は執務机からソファーに移動した。
「王太子様の事はこの辺に書きましたが、どうでしょうか?」
手紙を受け取ってぎょっとした。
シャウゼン語で書かれていたからだ。
しかしシャウゼン出身だからおかしい事ではないし、私もシャウゼン語は問題なく読み書き出来る。
シェリー嬢の書いた内容も問題無かった。
「この内容で大丈夫だ。シャウゼン語で書いたのだな」
「あ、はい。お兄様宛なのでその方がいいかなと思ったのですが」
「いや、その通りだ。君はシャウゼン出身だから当たり前なんだが、流暢にリンデンバウム語を話しているから」
「そう言えば・・・シェリーは最初からリンデンバウム語だったな」
私達のやり取りを聞いていたセシルが、
顎の辺りにに指を当てて呟いた。
「言われてみれば・・・シャウゼン語も話せるのになんででしょう。自分の事なのに所々分からないのってなんだかモヤモヤしますね・・・お母様が、『シェリルが記憶を無くしたのは私のせい』って言ってたので、なにかの魔術の反動とかかもですが」
「その辺もハリーが知っているといいね」
「はい・・・王太子様、この手紙飛ばしてみてもいいですか?」
「ああ。そこの窓から飛ばすといい」
私がそう言うと、シェリー嬢は窓際に立ち、手紙に魔力を込めて蝶の形にした。
さらにそこに、手紙を送る相手にしか見えなくなるように、隠蔽の魔法をかけて見えなくすると、手の中の手紙が消えた。
シェリー嬢が微笑んだのが見える。成功したようだ。
隠蔽が使えるのであればピクシーのままでも良かったのでは?と口にしそうになったが、先程までの楽しそうな2人の様子を思い出し、レオナルドは言葉を飲み込んで微笑んだ。
「上手くいったようだな」
「はい!」
「レオ、こちらも終わったぞ」
「もうか?やれやれ、私が無能な気がしてくるよ。いっそセシルが王になるか?」
「勘弁してくれ。執務が出来るのと王の器は別の話だ」
侍女を呼んで紅茶と菓子を用意させ、しばらく三人で休憩していると、侍従が来た。
「殿下、王妃様とオリビア様がサロンでお待ちです」
苗字と合う名前を思いつくままに付けてたら、似たような名前が多い事に気付きました・・・今更変えれない・・・
※評価、ブクマありがとうございますー!




