38.王妃の話②
オリビアは息を飲んだ。
やはりあの頃流れていた噂はただの噂ではなかったのか。
「皇女とは話したの?」
「いいえ・・・それがね、ずっと眠っていたのよ」
「え?匿っている間ずっと?」
「そうなの。ひと月は居たはずなのだけど・・・1度も起きなかったわ。まるでシェリルだけ時が止まったようだった・・・思わず呼吸を確認したくらいよ」
「眠りの魔法かしら・・・?」
「わたくしもそう思ったわ。ほら、病気を患ってるって言われていたでしょう?だから、病気の進行を遅らせるために魔法で眠らせているのかしら?って」
マーガレットの話にオリビアは なるほど と納得した。
病気の中には治癒魔法が効かないものもある。
なぜ効かないのか判明はしていないが、
進行性の病気の場合は、眠らせて悪化を遅らせる場合がある。
治療薬が出来ることを信じて。
「レイア様は何か言っていた?匿う理由について」
「シェリルの病気の事も、病気のシェリルを連れて隠れている理由も教えてくれなくて・・・ただ一言、『私のせいよ』って。あの辛そうな顔は今でも覚えているわ」
「そうなの・・・」
「そういえば・・・8年前に見たシェリルは、肌は青白くて、魔力も不安定で、それこそ病人という感じだったけど、今日会ったシェリルはとても健康そうだったわね・・・」
リタが昔を思い浮かべている表情で呟いた。
「ええ、保護した時に医師に診てもらったけど、病気は無かったわ。傷だらけで少し痩せてはいたけれど、食事で気になる程ではなくなったわね」
「記憶を無くす前に完治したのかしら?・・・うーん、想像してるだけだとさっぱりね。それよりリビア、セシルとシェリルはどうなっているの?」
「!その話を聞いて欲しかったのよ。シェリーちゃんが、番を認識できない理由に関わるかもしれない記憶を夢で見たの」
オリビアはセシルから聞いた話を出来るだけ詳しく話した。
「ああ、レオナルドはそれで先程イースレイを呼んでたのね」
「あら?後で魔法省に行くって言っていたけれど」
「魔法省は立て込んでるのよ、ほら、来月レオナルドの誕生祝いがあるでしょ」
オリビアは、なるほど、と納得した。
誕生祝いには火魔法の花火や氷魔法で作ったオブジェなどを沢山使う為、式典が終わるまで魔法士は忙しい。
「イースレイなら助けになってくれるわね。番に関する事はセシルたちに任せましょう」
「そうね、それならわたくし達はセシルが無事にシェリル皇女と結ばれるように手助けすればいいのね」
「ありがとう・・・ごめんなさいね、リタ」
「何を謝っているの?」
「レオナルドの婚約者に、シェリル皇女を望んでいたでしょ?」
「あぁ・・・そうね。でも、レオナルドの婚約者がセシルの番だった、なんて事にならなくて良かったと思うわ」
「確かに。それもそうね」
「でしょう?もし婚約者になってたら、レオナルドもベタ惚れしてたと思うもの。息子が息子の親友と想い人の取り合いなんて、笑えないわよ」
そう言って、ふふふと笑った。
オリビアも釣られて笑ってしまったが、ふと思い出した。
「そうだわ、リタ。シュヴァルツヴァルト大陸の精霊の湖って、クラウド領以外にあるのかしら?」
リタは精霊を召喚出来る魔法士でもある。
精霊とはあまり相性の良くなかった私と違い、
その方面には詳しい。
「精霊の湖?そうねぇ、聞いたことは無いけれど、あってもおかしくは無いわ」
「そうなの?私、管理はしてるけど精霊についてはよくわからないのよね」
「精霊界への入口は、時折色々な場所に開くのよ。でもクラウド領の湖のように固定される事は少ないの。でも」
「少ないだけで、有り得るという事ね」
リタの言葉を引き継ぐと、リタはこくりと頷いた。
しばらく精霊の話を聞いてから一息ついて
ベランダの方に視線を向けると、空は既に夕闇を迎えていた。
リタもそれに気付く。
「かなり話し込んでしまったわね。ウィラ、レオナルド達はどうしてるかしら?」
「はい、しばらく4人で応接室におられましたが何かあったようで、殿下とウェイバー様は30分程前から禁書保管庫に、セシル様とシェリー様は応接室におられます」
ウィラはずっと部屋にいたはずだが、
何故か息子たちの様子を知っているようだ。
それが顔に出てたのか、リタはニコリと笑った。
「ふふ、リビアは知らなかったかしら、ウィラの精霊魔法よ。じゃあウィラ、それぞれに夕食を伝えてくれるかしら」
「かしこまりました」
「相変わらず、出来た侍女ねぇ」
「でしょう?」
二人は笑い合うと、部屋を後にした。




