30.記録②
しばらく3人で黙々と禁書保管庫の記録を読み進めていた。
シェリーが次の巻物を開き、読んでいく。
巻物は古語で書かれており、かなり古くて消えてる部分もある。
少し読み進めて、シェリーは声を上げた。
「セシル様、王太子様!」
「シェリー、なんかみつけた?」
「はい、これなんですけど」
私は古びた巻物を破かないように少し広げ、2人に見せる。
「だいぶ古い記録だね…物語みたいな書き方だな」
「ああ、これはかなり古いな、掠れてる上に所々消えてる。読めるのか?ええと…『王子の番の…姫は姫に恋をした邪龍の魔法によって魂に楔を打た…れ、魂の繋がりを絶たれた。その…く…さびにより王子…と番の姫の証は失われた。王子は…番を楔から解き放つ為…かい…ま…を作り、楔を解き放った』…何を作ったのかが読めん。かい…解除魔法、か?」
うーむ?と考え込む王太子様、かなり頑張って読んでくれたと思う。
「その楔?によって誓いの後でも証を消せるということか…証を意図的に消せるなんて初めて聞いた。もしかしたらシェリーの魂に今、何らかの魔法を掛けられてるのかも。例の力とやらを使わせるために必要なのかもしれない」
何処か怒りを含んだ様なセシルの瞳が、シェリーを見つめる。
視線が絡まった直後、その瞳が焦がれる様にチリチリと燃えて見えた。
それはまるでシェリーの中の奥の奥にある魂を欲し、必死に探しているかのように強くシェリーを見つめている。
シェリーに触れていないセシルの瞳の色は、穏やかな白銀のままなのに。
シェリーはそんな彼に、今すぐにでも魂を取り出して差し出したい衝動に駆られた。
私の魂は既に、セシルだけの物なのだと。
この衝動が番だからなのか、恋慕なのか、シェリーには分からないが、どちらでも良かった。
確かに夢で見た父らしき人物は、シェリーに何としても『あの力』とやらを使わせようとしていた。
夢の中の魔術師が、父に言われてシェリーの魂を何かの魔法か魔術で隠している可能性はあるだろう。
それは決して、シェリーのためではなく、『あの力』を使わせるまでの保護という意味で、だ。
まるでモノの様だな、と無感情に考えながら、シェリーはセシルに頷く。
「ありえると思います。そのせいで魂の繋がりを絶たれた状態、という事かもしれません」
「うん、それは夢でみた魔術師によるものかもしれないな」
「ん?夢?魔術師?」
「あ、えっと、夢で見た記憶で出てきたんです」
「ほう…後で詳しく聞こう。よし、他にこれに似た記述が無いかもう少し探すぞ」
「はい」
「そうだね」
それからは無言で読み漁り、またしばらく経った。
「セシル、これはどうだ?またもや古いが」
「見せて」
王太子様の手に有るのは手記のような物で、それをセシル様に渡す。
「…『王太子の番がノートルダム国の…と判明したが、第一…王子を推す…は…ばつの貴族が姫に魔法をかけた。それにより、王太子は齢…25で亡くなった』なるほど。先程の楔と同じような魔法を、事前にかけたのか」
こちらの方が、シェリーの状態には近いかもしれない。
「その王太子様ではなく第一王子様を王太子にしたかった派閥が、番を見つけられなかった場合の弊害を利用して、王太子様を亡き者にする為に、ですか?」
「そのようだね」
思わず眉間に皺を寄せてしまったシェリーを見て、レオナルドが眉を下げた。
「王家ってのは歴史が長い分闇も深いからねぇ。シェリー嬢、そんな暗い顔しなくて大丈夫だよ、今の王家はマトモだし、その手記も最低でも300年は前のだしね。ノートルダム国は300年くらい前に滅びてる」
たしかに、陛下にはお会いしてないけど、
王妃様も王太子様も優しくて立派な方々だ。
それにこの記録はリンデンバウムのものではない。
「結論としては、番と繋がりを持てなくする魔法があるということか」
セシル様が先程の私のように眉間に皺を寄せて呟いた。
「そのようだ。純粋な人族なら大丈夫だけど、亜人は種族によっては番がいないと短命なのに、酷いことするもんだな…。ここにはこれ以上の記録は無さそうだ。セシルは始祖の血を濃く継いだから他よりは短命ではないだろうけど、シェリー嬢は人族だろ?それならまだ調べる時間はあるか」
「いや…シェリーは多分亜人だ」
「え?」
そう、夢で魔法使いが言っていた。
『あの方』の子だから、私は短命だと。
「どの種族との亜人かは分からないけど、おそらく純粋な人族ではない。そして多分、寿命は…長くて20歳くらいだと思う」
「なっ…!…そう、なのか。今の年齢が分からないし、急いだ方がいいという事だな」
「ああ。1日でも早く、そんな制限時間なんて無くしてあげたい」
セシル様の顔が苦しそうで、私も苦しくなる。
「そうだな。セシル、この後魔法省に行くと言っていたな?レイに会うつもりか?」
「ああ。そのつもりだ」
「魔法省は今、来月の私の誕生日式典の準備で騒がしいはずだ。だからこれから私が直接レイを城に呼ぼう。そしたらゆっくり話せるはずだ」
「いいのか?」
「ああ。親友とその姫のためだ。それにさっさとシェリー嬢を助けて誓いを済ませてもらわないと、私が楽できないからね」
そう言って、カラカラと笑った。
セシル様の親友である王太子様は素晴らしい方だと思う。
重くなった空気を、和らげようとしてくれているのが分かる。
「レオ、ありがとう」
「王太子様、本当にありがとうございます」
そして私達は禁書保管庫を後にした。




