25.確信
時刻は朝方。
目を覚ましたシェリーは、呼吸を整えながら今の夢を振りかえる。
おそらく今のは記憶だ。
重要な事をたくさん言っていた。
忘れてしまわないうちに彼に伝えなければ。
「セシル、さま、見ました、わたし!」
「シェリー、落ち着いて、大丈夫だ、呼吸を整えてからで大丈夫だから、ね?」
セシルに言われて深呼吸を繰り返し、震えも治まってようやく落ち着いた所でシェリーは改めて話だした。
「記憶を、見ました。とても大事な記憶です」
そう言って、今見てきた記憶を語った。
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シェリーが全てを話し終えた頃、空には既に日が昇っており、閉じられたカーテンの隙間から光がさしていた。
シェリーの話を聞きながら昨日の両親の話を思い出していたセシルは、改めて彼女がシェリルである事を確信し、それと同時に、シェリーから語られた寿命の短さに血の気を無くしていた。
薄らと射す光ではその変化は見えず、シェリーに悟られることは無かった。
「…シェリー、ありがとう。今の話を両親に伝えるから、君は少し休んで。クロエを呼ぶよ」
動揺を隠し、震えるシェリーの額に口付けると、セシルはベルを鳴らす。
侍女は既に起きている時間で、呼ばれるのを待っていたらしく、呼ばれたクロエはすぐにシェリーの部屋に来た。
クロエはすぐにいつもと様子の違うセシルに気付いたようだが、ベッドで瞳をさ迷わせて震えるシェリーに息を飲み、駆け寄る。
「お嬢様、大丈夫です。落ち着くまでクロエはここにおります」
クロエはそう言いながら、震えるシェリーの手を握った。
シェリーの部屋を出たセシルは白くなるほど握りしめていた自分の拳に気付き、それをときながら大きく息を吐き出した。
何度か呼吸を繰り返しても、シェリーの寿命についての衝撃は全くもって無くならず、心臓が軋みそうだ。
それでも呼吸と共に指先に血が巡ったのか、僅かに指先に体温が戻った気がした。
セシルは王都の邸の執事長であるスティーブを呼び、おそらくもう起きている両親の居場所を尋ねた。
両親は昔から早起きで、早朝2人でよく庭を散歩する。
「お二人は庭に居られます。お呼び致しましょうか?」
そう答えたスティーブに、
「父上の書斎でシェリーについて大事な話がしたいと伝えてくれ」
そう頼み、一度自室に戻って着替えを済ませた。
書斎に行くとちょうど両親が戻った所で、テレサがテーブルにコーヒーと紅茶を並べていた。
書斎のソファーに掛けた母が、セシルの顔を見てほんの一瞬瞠目したのがわかった。
「何かあったのね?シェリーちゃんがまた記憶を見たのかしら?」
やはり察しのいい母にはセシルの動揺など隠せなかったようだ。
ひとつ息を吐いたセシルは、2人にシェリーに聞いた話を聞かせた。
話し終えたセシルは、無言で考え込む両親を見ながら
冷めたコーヒーを一口飲んだ。
いつもは心地いいはずの苦味が、煩わしく感じた。
しばらくして、セシル同様顔色を無くした母の隣で考え込んでいた父が、ゆっくりと口を開いた。
「レイア皇妃が人外というのは初耳だが、それでもやはりシェリー嬢はシェリル皇女のようだな」
前皇妃のレイアが人外というのはオリビアもセシルも聞いた事はなかったが、リンデンバウムはそもそもの王家が聖獣の血を引いている人外である。
その血を引くオリビアやセシルも当たり前だが人外なわけで、何の忌避もないし、ジェフも薄くはあるが獣人の血を引いている。
リンデンバウムは純粋な人族の方が少ないのだ。
「そうね…。セシルの番であるのは間違いないけれど、その力とやらを使った為に魂が削れている。そのせいでセシルとシェリーちゃんは番の繋がりを感じれない・・・のかしら」
「ああ。おそらくセシルが普通にシェリー嬢に会ったとしても、お互い触れなければ気づかなかっただろう。2人にとって番と気づけたのは本当に幸運な事だったのだな」
セシルは父の話を聞いて、あらためて自分の幸運に感謝した。
「ええ、本当にその通りだと思います。…しかし少し気になる事が」
「何かしら?」
「まだ今の、確かな魂の繋がりはない状態で儀式で誓いを結んだとして、通常通り切れることの無い魂の結び付きになるのか、そして、弊害を乗り越えれるのかが疑問です」
弊害を乗り越えなければ、始祖の血を濃く引くセシルはともかく、シェリーの寿命は数年なのだから。




