23.記憶の夢①
シェリーがベッドに入ると、セシルが部屋の灯りを消し、
ベッド脇に置いてある長椅子に座り、シェリーの左手を優しく握る。
それからシェリーが眠りにつくまで2人で会話をする。
これが最近の決まった流れだ。
「今日は馬車に長時間乗ったし、疲れただろう?」
「はい、でも有意義な時間でしたから、そんなに疲れませんでしたよ」
「それなら良かった。でも明日は王宮だから、今日はもう寝ないと。本当は1日くらいゆっくり休ませてあげたかったんだけど」
「いいえ、全て私の為というのをわかっておりますから。セシル様、ありがとうございます」
「いいんだよ。言っただろう?私のためでもあると。だからお礼など必要ない」
セシル様の少し低いけど優しい声が心地よくて
微睡んで目を閉じる。
「私の記憶を戻すのが、セシル様のため、ですか?」
「ああ。私の為だ。それに何よりこのまま記憶が戻らないのは、シェリーにとって辛いだろう?」
「辛い・・・セシル様のおっしゃる意味とは少し違うかもしれませんが、確かに辛いかもしれません」
「うん?記憶が戻らないのは不安じゃない?」
「なんて言うか、この間までは戻らなくても良いかなと思ってました。どうしても思い出したいという感情も一緒に無くしてしまってて。でも、その、セシル様から番のお話を聞いてからは・・・」
「記憶を戻したいと思ったの?」
「・・・はい。私がセシル様の隣にいさせていただくためには、それなりの・・・身分が必要なのではないかと・・・そう、思い至りまして・・・へっ?」
頬に一瞬の暖かな温もりを感じて閉じていた目を開くと
目の前に蕩けそうな二つの深緑が広がっていた。
頬に口付けされたらしいと気づくと同時に顔に熱が纏った。
「ふふ、ありがとうシェリー。かなり一方的な私の片思いかと思ってたけど、君が私の事を考えてくれてるなんて嬉しくて抑えが効かなくなりそうだ」
「セシル、様・・・」
「さぁ、そろそろおやすみ、シェリー」
段々と眠気に襲われた頭で、多分私はもう、この蕩ける瞳で私を慈しんでくれる彼が好きなんだろうと思った。
そして『記憶を無くす前の私』が、恋をした事があるのかはわからないけど、これが初恋だったらいい、そう思った。
「はい、セシル、さま、おやすみな、さ、い・・・」
セシルは小声で「おやすみ」と言って、額に口付けをした。
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夢を見ていた。
煌びやかな装飾がたくさんある部屋だ。
お仕着せの女性がわたしを抱き上げ
その部屋からどこかへ向かった。
どうやらここに居るわたしはかなり幼いらしい。
着いたのは装飾も何も無い部屋。
なんとなく前の夢で見た石造りの部屋に似ている。
少し待つと、薄い金髪に濃いめの空色の瞳をした男性と
白く長い髭を蓄えたローブの魔法使いのような老人が部屋に入ってきた。
「はじめてくれ。」
男性が魔法使いに言う。
魔法使いは私に水晶を翳して、空いてる手で私の顔を覆う。
その手はとても大きくて、少し怖い。
「では、はじめますぞ。──────────、──────・・・。」
魔法使いの言葉は聞こえるけど、理解できない。
呪文のようなものだろうか。
少しすると水晶が光った。
その水晶を覗き込んでいた魔法使いは少し顔を歪め
男性に水晶に浮かぶ何かを見せている。
「彼女の力は引き継げているな。しかし、これはどういう意味だ?・・・番?」
今、番と言った・・・?




