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番の瞳  作者: 言葉
第一章:出逢い
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2.瞳の魔力


それから毎晩、私は悪夢にうなされた。


眠りにつくのがほとんど同じ時間だった為か、悪夢を見るのは決まって夜中の2時から3時頃と、夜明け前の5時頃の2度だった。

私の部屋付きと紹介された侍女のクロエが、その時間になると様子を見に来てくれていたので、もし私がうなされ始めたら、私が叫び出す前に起こしてもらうように頼んだ。


目覚めた時には例の痛みと呼吸の苦しさに襲われる。

目覚める度に、クロエにセシル様がしてくれたように様に背中を摩ってもらっても、手を握って貰っても、それはおさまることはなく、セシル様の不思議な瞳を見つめないとおさまることはなかった。



-----------------------------



保護されてから1週間たった日の午後。


やっとベッドから起き上がれるようになった私は、ソファーでクロエに入れてもらった紅茶を飲んでいた。

少しづつ食欲の戻りつつあった私に、シュークリームはいかがですか?と、クロエが目の前で小ぶりのシュークリームをみせる。

極めて明るく接してくれるクロエに、毎晩迷惑を掛けているのが申し訳なくて、寝る時にいつもついてくれている感謝と共に、謝罪をした。


するとクロエは慌てて、


「そんな!私に謝罪なんて必要ありません。セシル様は瞳の魔力をお持ちですから、お嬢様の不安みたいな物をそのお力で解しているのだと思います」


そう言ってにっこり微笑んで、紅茶のおかわりを入れますね、とカップを持ち上げた。


「瞳の魔力…?」


「はい、クラウド公爵家は王家の血が入っております。リンデンバウム王家の元となったと言われる古の聖獣様が、瞳の魔力を持っていらしたそうです。勿論魔法の一つですので、攻撃というか…えーと、呪い?のような邪眼も瞳の魔力があれば使えるのですが、古の聖獣様は癒しの魔眼を得意とされたそうで、セシル様はそれを色濃く受け継いだ、所謂先祖返りと言われております」


クロエの話はなんとなく、聞いたことがあるような、不思議な感覚を覚えた。

記憶を無くす前の私が知っていたのかもしれない。


「そうなのね…いつもその癒しの魔眼を使ってくれてるのかしら…時折緑がかって見えるのもそのせいなの?」


何の気なしに聞いた私の言葉に、クロエは驚愕の表情で手にしていたティーカップをガシャンと落としてしまった。


私はなにか不味いことを聞いてしまったのか?それよりクロエに怪我はないのか?と、慌てて駆け寄ろうとした、その時。


ドアがノックもなしにバタンと開いて、慌てたセシル様が駆け込んできて「どうした!?」と私とクロエを交互に見て、クロエの足元の割れたカップに目を落とした。

その声に我に返ったクロエが、


「っセシル様!申し訳ありません、驚いてしまい…すぐに片付けますので!」


と慌て出したので、クロエは何も悪くない、私の言葉に何か驚いてしまったようだと伝え、さっきクロエに問うた事を再度セシル様に話した。


するとセシルもクロエ同様驚きを隠せないと言わんばかりの顔で、


「君には…私の瞳が緑がかって見えるのか?」


と、尋ねてきた。


「はい…今は白銀に見えますが…時折緑がかって見えます。セシル様が何か…魔法を使われると色が変わるとか、そういう事ではないのですか?」


セシル様は自分を落ち着かせるように一度息を吐き出し、さらに問いかけてくる。


「瞳の魔力を使っても、色が変わることは無い。その、緑がかって見えるのはどんな時か覚えている?」


セシル様の様子から、とても大切な事というのは充分察せられた為、ここに来てからの記憶を手繰り、答えた。


「えっと…いつも夜中に目覚める私をなだめてくれる時…でしょうか。セシル様が、目を見るようにと仰る時です」


それを聞いたセシル様は、少し逡巡してから、徐に「私の目をみて」と言った。


しかし見つめた瞳は変わらない。


「今は…変わっていません。他になにかきっかけがあるのでしょうか」


夜中との違いを頭の中で考えていると、セシル様が突然手のひらを私に向けてきた。


「…手に触れてみても?」


いつもは私をなだめる為なので、許可を求めることは無い。

改めて言われると少し恥ずかしいが、確かにいつも瞳が変わる時は手を握ってもらっている。


「はい」


私は小さく返事をして、差し出されたセシル様の手に自分の手を重ねた。


そして覗き込んだ瞳は、少し深い緑の絵の具が滲むかのように染まっていった。


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