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番の瞳  作者: 言葉
第二章:レイアの過去
101/641

101.無理難題②


ハーレイと、相変わらず青い顔でソファに座る宰相の前に、侍女のミランが紅茶を置いて執務室を下がった。


「ラングストン、まずはお茶でも飲んで落ち着いて」


ハーレイが務めて穏やかに紅茶を勧めると、ラングストンは一度ハーレイを見つめ、おずおずと従った。

少しして、ようやく顔色を戻し始めたラングストンが、徐に話し始めた。


「実は・・・先程陛下から、明日、殿下の立太子の儀を行うと言われました」


ハーレイは少し驚いた顔を見せてからすぐに真顔に戻り、手に持ったカップを見つめながら答えた。


「僕の立太子の儀を終えたら、父上はすぐに母上を探しに行くんだね」


ラングストンはハーレイの言葉に目を見開くと、しだいに顔を歪ませてゆく。


「陛下には兄弟もおられぬ上に、殿下以外で皇太子の候補となる方もおりません・・・」


前皇帝の子供はセオドア以外は皆魔物討伐で亡くなっていたり、他国へ嫁いでいる。

前皇帝は一人っ子だった為、セオドアには叔父などもいなかった。

現実問題、今の帝国の政務を皇帝以外で行えるのは、ハーレイしかいないのだ。


「うん、僕しかいないのは分かるよ・・・でも僕はまだ10歳だ。臣下が認めるだろうか」


「殿下は人柄も能力も充分に帝国の臣下から認められておられます。殿下がまた10歳であっても、立太子される事自体は反対する者はいないでしょう。しかし・・・」


「父上と母上への反感は凄いだろうね」


ラングストンは唇を噛みながら俯くと、ゆっくりと顔を上げ、ハーレイを見つめた。


「殿下は・・・」


「うん?」


「殿下は皇妃様が姫様を連れて居なくなられた理由をご存知なのではありませんか?」


ハーレイはラングストンの強い視線を見返し、しばしお互いがそのまま見つめ合った。

やがてふっと、ハーレイが緊張を解くと、ラングストンもようやく溜息と共に緊張を解いた。


「ご存知なのですね。もしかして、行方も?」


「ああ、知ってるよ」


幼さを無くしたハーレイの顔と声色を眺めたラングストンは、「そうですか」と一言だけ言うと、温くなった紅茶を飲んだ。


「詳しい理由と行先は話せない。僕は妹を守りたいからね」


今回のレイアとシェリルの失踪は、セオドアからシェリルを守る為に、6年前から決められていた計画である。

レイアが城から逃げたくて、シェリルを連れて行った訳では無い。

しかし詳しく話すとなると、レイアの出自などを明かさなければならなくなる為、ハーレイは話せないのだ。


「姫様を守る為・・・」


詳しく話せないと言いつつも、ハーレイの言葉には本当の理由が込められている。

ハーレイの言葉は、ハーレイがラングストンを信用していると伝えるには充分だった。


「ラングストン、明日立太子の儀を行うとして、間に合いそうなのかな?衣装とか、帝国民への通達とか」


「あ、ええと、ここに来る前に急いで指示は出したのですが・・・どう急いでも、式典は明日の夜になりそうです」


「夜に立太子の儀なんて、過去には無かったよね?」


「ええ、通例では昼間に皇城前に帝国民を集めて、立太子の儀を行い、その後顔見せのパレードの様なものを行っておりました」


「うーん、それならせめて、昼間は祭りで、夜は花火とか?」


「はい、花火は手配しました。昼間はとくに何もしなくともお祭り騒ぎにはなるかと思いますが・・・」


普通、皇室のイベントは帝国の経済を潤わす事も目的であり、事前に通達しておくものだ。

帝都に皇太子を見ようと他の町からの人も増え、経済が回る。


「勿体ないね・・・。衣装はいつもの形式通りの物なら、過去のでもいいけど」


「いえいえ、殿下に合わせて作ります!それに陛下が立太子されたのは15歳でしたので、サイズが合いません」


「あ、ははっ、確かにそうだね。無理させたくはないから、そんなに立派なものにしなくていいよ。どうせ夜だ」


「殿下・・・」


「あとは母上とシェリルの代わりをどうするか、か・・・」


ハーレイの言葉に、ラングストンがキョトンと似合わない顔をした。


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