共に歩く為に 【月夜譚No.117】
地につきそうなほど長い髪に、思わず目を奪われた。緩やかな波を描いて風に広がるそれは鮮やかな紅で、まるで空気中に燃える炎のようだった。
通りを行く彼女は当然目立って、その場にいる全員が視線を向ける。にも拘わらず、彼女はそれを意にも介さずただ行く先を見つめていた。
その真っ直ぐな瞳を忘れることなどできなかった。燃えるような髪よりも濃く、それでいて澄んだその赤い瞳。
だから、二度目に彼女と対面した時、彼は素っ頓狂な声を上げてしまった。また会えるなんて思ってもみなかったのだ。
そんな彼に、彼女は数秒ぽかんとしてから、クスクスと肩を震わせた。初めて見る笑った顔は、予想に反して子どものようにあどけなかった。
あれから、もう一年が経つ。初めて会ったのがまるで昨日のことのようなのに、彼女は当たり前のように彼の隣にいた。そのことが未だに信じられないと思うのは、彼女に失礼だろうか。
前を歩く紅の髪に、彼は目を細める。本当の意味でその隣に立てるように、まだまだやれることは沢山あった。