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その日から毎朝、その声を聞きに俺は中庭に向かう
勿論剣を片手に持ち身体を動かす事も忘れない
暫く素振りをしていると、決まって同じ時間にその声は聞こえてくる
そして直ぐに消えてしまう
何故かずっと聴いて居たくなる声
どうしてか、その声は助けてって言ってる様で酷く耳に残る声だった
いや、それだけじゃない
切ない様な、嬉しくなる様な、叫び出したくなる様なそんな声
その泣きたくなる様な声は麻薬の様で甘く甘く耳に残る
いても立っても居られず、毎日その声の出処を探す
有り余る体力を消耗し中庭を駆け回るも、その声が何処からしてるのか俺には分からない
中庭の造りも、いただけなかった
四方八方から反響して響くその声が中々捕まらず、時だけが過ぎて行く
その内、声だけでその声の持ち主の変化に気付く
少し掠れてる時は起きたばかりなのか声に張りがない
何か嬉しい事があった声のトーンは少しだけ高い時
花まで舞ってる様に感じる...まぁ、感じるだけだが
そうしてるウチに響いてる声に魔力が混じ、色が乗ってる事に気が付き、一人喜ぶ
俺だけが知ってる事の様で、俺だけの為に歌ってくれてる様で、酷く胸が痒くなる
悲しい時、切ない時、嬉しい時、ほんの少しだけの変化に俺は毎日耳を傾ける
だけどその声に胸が締め付けられる程の熱情をいつも感じる
そうすると胸がギュッと何かに縛られた様で苦しくなる
何を伝えたいのか分からないその声を聞いてると切なくて悲しくて今すぐ抱き締めたくなる
今日も声の主は捕まらなく、素振りを再開する
そうやって一年、また一年と過ぎて行く
妹は益々母に似て来る
俺は後、何年かしたら貴族の子息令嬢が通う学園に入る
そうすると、この声が聞けなくなると、毎日焦って居た
後何年かしかない短い時間
一ヶ月後は俺の誕生日だった
屋敷中が慌ただしくて俺は暇さえ有れば中庭に向かう
もしかするとあの声が聞けるかも知れないと思い...
だけど日中は声は聞こえない
やはり、その声は朝の早い時間帯でしか聞こえなかった
何度か朝の早い時間帯に使用人の男を見かける
声を掛けようか悩むも、父様に話しが行くと不味いと俺は声を掛けずに居た
その使用人は見た事が無い者だった
そう言う輩は何人も居て、俺は気にさえしない
けれど、何度かその使用人を見掛ける事で気付いた事が有る
その男を見掛けるとあの歌声は途切れる
一度、覚悟を決めて話し掛けた時、その男は酷く吃驚してる様だった
だけど、その男に話し掛けて良かったと思える事が幾つかあった
一つはその男と話してる間、歌声は途切れなかった事
二つ、その声は俺にしか聞こえないと言う事実
三つ、その男は何かを隠してるらしかった
確実に分かった事がある
声の主を、その男は知ってると言う事
俺はその日から男にバレない様に後を付ける
だけど、決まって途中で分からなくなる
もどかしい日々が続く
どういう訳か男を途中まではちゃんと把握してたのに、ある地点を過ぎるとフッと消えるのだ
そう、最初からそこに居ない様に忽然と消えるのだ
幻覚か幻影か、どういう仕組みなのかは分からないが、気が付くと目の前に居た男が居ない
それはある地点を通過した時に起こる
その日から俺はその付近をくまなく探す
すると響いてた声がまた少しだけ近付く
ドキドキと高鳴る鼓動、蒸気する頬
息苦しささえも感じるその感覚は、何時かの息苦しさと同じで居て、まったく違うモノだった
そうして時間だけが過ぎて行く
だけど、分かった事もまたあった
どうやら、その男は魔力は無いくせ、魔道具を持ってるらしかった
その魔道具が姿形を見えなくするのか、その声の主さえも隠してるのか、よく分からないけれど、後少し、後少しで何かが見えそうだった
そして俺は等々その声の出処が分かった
その場所は隠された様にあった
何故今まで気が付かなかったのだろうと思える位凄く近くにその場所はあった
何度も行き来して、通り過ぎたその場所には小さな窓があった
だけど、見付けた時はその場所は締め切ってあり、中は見えなかった
その場所は誰もが滅多に近付かない、手入れのされてない場所だった
草木が覆う雑草だらけの荒れた土地
中庭と言っても端の端に位置するその場所には小さな小屋が一つ建っていた
その中を確かめて見たけれど、何も無かった
そう、なにも無かったのだ
有るのは草木に隠された様にある小さな窓と古びた小さな小屋
今は使われてない古びた小さな小屋は今にも朽ち果てそうな程ボロボロだった
俺は落胆し溜め息を吐き出す
しかし俺は諦めが悪く
次の日も
次の日も
声の主を探す様にその場所へやって来る
そして等々俺は見付けた
朝の早い時間帯
何時もよりほんの少しだけ来る時間が早くて俺は急ぎ足でその場所へ向かう
明日は俺の誕生日だった
12歳の誕生日は俺に何の感情も抱かせない
代わり映えしない誕生日
上辺だけの世辞や媚びに俺の後ろに居る父の姿しか見えない者達に
家柄や財力、地位にしか興味を持たない者達との会話は酷く虚しく毎年毎年、誕生日が来る度息が詰まりそうだった
今年は婚約者候補も来るらしく、その熱の入れようにほとほと呆れる
どうせ今日も窓は開いておらず、落胆して帰るんだろうと言う俺の予想は外れる事となる
聞こえる声は相変わらず
今では耳を澄まさなくてもその声はスーッと耳に届く
ああ、やっぱり良いなと思った所で瞳を大きく開く
「開いて...る?」
一瞬立ち止まり、ゆっくり呟いた俺はハッとした様に駆け出す
開いてる...
開いてる!!!!
何度も願った窓
やっぱり思い違いかと何度も諦めようとしたあの声
それでもやっぱり諦めきれなくて、その声を探した日々
「やっぱり!!!」
ハァハァと息を吐き出し駆け出したのは今にも閉じてしまわないか心配だったから
小さな窓の一歩手前まで来て、俺は一瞬立ち止まる
そして耳を傾けなくても聞こえる声にゴクリと唾を飲み込む
だけど居ても経っても居られず、俺は再び一歩踏み出す
やっぱりこの声っ!!!
この声!!!
俺は間違えて無かった
ああ
「やっぱり、此処から聞こえる!」
小さな窓の縁に手を掛けゆっくり覗き込む
俺はそこに天使を見た...




