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亀更新です!そんなに長く無い...と思います。



静かに





静かに....





生をまっとうする筈だった




薄暗い地下の小さな部屋の中




私はそこに居た




高い所にある小さな窓から差し込む光が筋の様に真っ直ぐ伸び薄汚れた床を淡く照らす



その窓が開けられる時刻は決まって朝の六時丁度だった



この屋敷の者達が活動する時間は少し遅く、あと一時間は静かな時間だ



勿論使用人は主人達がまだ夢の中でも活動を開始する


換気の為開けられた窓を見上げながら今日も小さく口ずさむ



誰とも話す事の無い私が唯一言葉を発する瞬間だった



この時間だけは誰にも咎められる事も無く、私は何時ものメロディーを今日も奏でる



限られた時間の中でそれだけが私の楽しみだった



そして10分もしない内に窓は閉められ、同時に階段を降りてくる人の足音が響く



カツンカツンとゆっくり近付いて来る足音は丁度31歩で私の部屋の前に辿り着く



ガチャンと大きな音を鳴らし開かれる扉




その扉には大きくて頑丈な錠前



幾十にも掛けられた術式の痕が雁字搦めに固定され私を此処に閉じ込める



別に鍵など無くても、私は何処にも行かないし、何もしないのに



なんて心の中で呟く



「そ、そこから一歩でも動いたら母ちゃんが酷い目見るからな!?」



何時もの台詞を言いながら見張りの男が部屋に入ってくる



まだ何処か幼さの残るその風貌はまだ若いのかも知れない



けれど私にはどうでもよく、言われた通り此処から一歩も動かない



味気ないスープに一切れの林檎、そして固くなってパサパサした小さなパンを乗せたトレーを置くと見張りの男は警戒心顕に去って行く



勿論ガチャンと大きな音を響かせ錠前をしっかり掛ける事も忘れない



私は此処に11年間閉じ込められてる



それが悲しいなんて...もう忘れた



ただ、朧気だった母の顔が日に日に薄らいで行くのが少し寂しい



活動する時間が遅い屋敷の住人の中で見張りの男は朝が早い



決まった時間、決まった事を真面目にやる真っ直ぐな性格で、すごく臆病な見張りの男



ソバカスが散った顔をグニャリと歪め、見張りの男は忌々しいと言わんばかりに小さく呟く



「っ...魔女が!!!」と


きっと私の良くない噂でも聞いたのだろう


どの噂かは分からないけれど、昨日まではビクビクしてたのに、少し怒ってる様にも見える事から私が人を呪い殺したとか



誰かを破壊したとか



聞いたのだろう



100%嘘とは言えない


だから私は何も言わず静かに瞬きを落とす



すると見張りの男は何時もの定位置に腰を落とす



入口横、扉の横の椅子に腰掛け一日を過ごす



私が変な動きをしないか、此処から逃げ出さないか見張ってるのだ



ちょっとでも変な動きをしたら報告される


だけど、朝の日課の事は何も言われない



そう、私は声に魔力を乗せて歌ってるから、魔力の無い見張りの男はその歌声に気が付かない



魔力のある者だけが聞き取れる音



それが私の歌だった



此処で私の歌を聞き取れるのは魔力持ちの父様位だろう



歌を歌った位で咎められはしない



継母に魔力が無くて本当に良かったと思う瞬間はこういう時だろうか



だから私は朝から気兼ねなく口ずさむ


「ま、まま、魔女なんて怖いくないっ!!!!だ、大丈夫!俺は臆病者じゃねぇ!ケインの言う事は嘘ばっかっけ!!!」



独り言の多い見張りの男がブツブツと呟く


そう、此処での私の呼び名は魔女



自分の名前は覚えているけれど、もう誰も呼ばない



思考も、嗅覚も味覚も聴覚も視覚も、日に日に衰えて行く様だ



ボンヤリと感じ取る光りと小さな小鳥の囀りに顔を上げ、ゆっくり立ち上がる



味気ないスープと甘くない林檎を齧りその日も何時もの様に時間が過ぎて行く



少し時間が経ち、使用人の元気な声と走り回る音が響き渡る



どうやら最近産まれた私の腹違いの妹の話題で持ち切りだ



その妹の五歳上の兄...正確に言うなら私の腹違いの弟は最近、魔法を開花させたらしい



風の加護だと屋敷中が大喜びだった



きっと、私とは違う幸福な人生を歩む事だろう



弟にも、妹にも会ったことは無いけれど、きっと可愛らしいに違いない



このまま時間だけが過ぎて行き、私は誰に知られることも無く朽ちていく



それで良かった



そう、それで良かったんだ




心残りは私の所為で母が囚われてると言う事



最後まで私を守り、庇ってくれた母



その母だけが気がかりだった




けど、私が此処で大人しく何もしなければ、母に危害は加えないと約束してくれた



最後の母の記憶が私を此処に縛り付ける



涙を流し必死に手を伸ばす母の姿は酷くボロボロで、それが私の所為でそうなったと思ったら、胸が、心が痛かった



ああ...願わくば




最後に一目、母に会いたい




それが今の所の私の願い...




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