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死にたい。
最初の人生はそう思った。
死は、幸せの継続を望む人にとっては恐怖だが、不幸の終了を望む人にとっては救いであったから。
***
貴族は十六歳から貴族学園に通う事になる。
オーウェン殿下は私と同い年で、シャルは今年入学したばかりだった。
「まあ!シャル様と殿下は今日も微笑ましいですね」
「本当にお似合いですわ!」
シャルとオーウェン殿下は学園でも仲の良さを隠そうともせずにいつも一緒だった。
そのため、彼女達はお似合いで仲の良い恋人と噂が広まり、私はその一方で関係を壊す邪魔な存在となった。
何故…何故オーウェン殿下は私を見てくれないの?
どうして彼はシャルにそんなに優しい、熱のこもった眼差しを向けるの?
どうして、どうして、どうして?
あっ、そっか。
「あはは、あははは!そっか…やっと分かったわ!そう言うことだったのね」
きっとシャルがオーウェン殿下を誘惑したのよ!
それしか無いわ!あはは!
私は狂っていた。それ程にもオーウェン殿下を深く愛していた。
私は…シャルを虐め始めた。
「辞めて下さい、お姉さま!」
彼女は強かった。私の弱い心とは違い。
貴方はいつもそうだった。全てを持って生まれた、恵まれた貴方が嫌いだった。
知ってる。知ってるの。私の心が醜いことくらい。
「シャルロッテ。どうして彼を私から奪うの?」
嗚呼。涙は嫌い。自分の弱さが分かってしまう。でも、それでも私の眼は溢れる涙は止まらない。
「ッ、お姉さま……」
私は今でもシャルの苦しそうな顔を覚えてる。
***
事件が起きたのはその一週間ほど後だった。
突然のシャルの死だった。
しかし、家に引き籠もっていた私は呑気に過ごしていた。
夜になったら入浴して、しばらく本を読んで、瞼が重くなってきたら眠る。それが私の習慣だった。
その日、私はいつも通り本を棚に戻し、電気を消した。
瞬間、部屋の窓が大きな音を立てて割れた。
「きゃあっ」
パリンと砕ける音と共に全身に黒い布を纏った人が侵入してきた。
「君が、君がシャルを殺したのか?!」
侵入者は荒げた声で叫ぶ
「…は?」
この声は…殿下?
何でここに?
いや、そもそもシャルが…殺された?
突然すぎた状況で肯定も否定も出来ずに腰の力が抜け、床に崩れ落ちた。
ガラスの破片が食い込み、突き刺さるが痛みは感じない。
シャルが…死んだ?あの…シャルが?
頭の中はそれだけでいっぱいだった。
沈黙と私の行動を肯定と受け取ったのか彼は床に落ちた尖ったガラスの破片を拾い、殺気と共に私の方へ歩いてきた。
「ははは…最初からこうすれば良かったんだ」
私の聞こえない声量で、ぼそっと彼は何かを口にした。
瞬きをする間もなく、彼は私の前に居た。私の喉元に凶器を突きつけて。
「いや、すぐに殺してしまうのは面白くないな。どうせなら最後の最後まで苦痛を味わってもらわないと」
え?誰?私の前にいる人は誰?
こんな雰囲気を纏うオーウェン殿下なんて知らない。
「う゛」
上品とは言い難い声と共に激痛が胴体に走った。
「どんな風にお願いしても殺して上げないよ。最後まで苦しみながら痛みを感じて死ぬと良いよ」
彼は驚くほど無邪気な笑みを溢す。
その後の事はあまり覚えていない。
恐怖で思い出したくないのかもしれない。
私の最初の人生は余りにも呆気なく終わった。