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「これで君も終わりだね、ユリア・ローゼンハイム。いや、今はもうただのユリアか」
嘗て、私が愛した男が憎悪を秘めた目を私に向け、告げる。
嗚呼。まただ……
「これ」が永遠に終る事はないーー
今度こそ…今度こそ私は幸せを味わいたい……
***
「…ね…ま?お姉さま?どうかされましたか?」
不安そうに私の顔を覗き込む。私の2歳下の従姉妹、シャルロッテ・シュワルツだ。
「お姉さま…?」
そうか…これで私が繰り返すのは五十回目だ。
「ははっ…」
私の口から苦笑が漏れる。
「もう辞めて!!私を解放してっ!!」
誰からも聞こえない脳裏で叫び散らす。
この世界で私は発狂してはならない。無闇に発言してはならい。
私のなんともない行動が死へと導くから。
「ごめんなさいね、シャル。少し体調が良くないみたいなのでお茶会はまた後日にしてもらえないかしら…?」
いつも通りを演じながら「いつも通りの言葉」を発する。
ーー分かりましたわ、お姉さま。お大事になさってください
「分かりましたわ、お姉さま。お大事になさってください」
頭に浮かんだ言葉が一言一句当たっている。
ええ、と私は頷き、心配した彼女をその場に置いて、部屋へと踵を返した。
***
生きる為には、誰も信用してはならないーー
ぼんやりとベッドに横たわり、熟考する。
私は、死ぬ度に同じ時間を繰り返した。ある人はこの事を「転生」と呼び、ある人はこの事をただ「ループ」と呼ぶ。
そして、このループは今度で五十回目だ。
四十九回もどうして未来が分かっていた私が毎度死に陥ったのかと疑問に思う人もいるだろう。何度も人生を経験してきた私は毎度、死を回避しようと必死になった。しかし、こうすればああ死に、ああすればこう死んだ。つまりどんな手段を取っても悲惨な死は回避できなかった。
具体的にどうして、そしてどうやって死んでしまったのか四十九回も繰り返した私には全て思い出せない。しかし覚えている事はある。
前世、前前世、そして更に前。全ての死因は、私の従姉妹、シャルロッテ・シュワルツが基となっていた。
幼い頃からずば抜けた美貌を持った、シャルは親から花よ蝶よと育てられてきた。雪のように白い艶のかかった肌、綿飴の様な薄い桃色がかった髪、そして宝石の様に輝く水色の瞳。誰からしても彼女は天使だった。天使の様ではなく、天使だ。そんな風に甘やかされて育った彼女は傲慢に育……った訳でもなく、純粋で心優しい女の子に育った。
私は当然そんな彼女に嫉妬した。
自分で言うのもなんだが、私は決してシャルの美貌には衰えていなかった。しかし彼女の甘味のある桃色の髪とは違い私のは……墨染色。要するに黒。そして真っ赤な瞳を持って産まれた。
この国、ベルノア国では黒い髪や瞳は不吉と伝わっており。そんな黒い髪をしていた私は沢山の人に恐れられ、嫌われ、または嘲笑われていた。
親にも嫌われていた私だったが、シャルは怯え、薄気味悪がる事もせず、私に接触した。彼女を遠くから眺めていた頃は嫉妬心しか芽生えなかったが実際に接してみると彼女は確かに天使であった。
いつからか彼女は私をお姉さまと呼び始め、私は彼女をシャルと呼んだ。
シャルとの時間はとても心地良く、彼女のことを家族の様に愛していた。
しかし永遠の愛と言うものなど存在しない。
気持ちという物は簡単に変わり、どんなに深く愛していてもいつかは変わってしまう。
そう。私は再び、彼女に嫉妬で狂う事になるーー