セピア
「私は彼に何ができたのだろう」。
すべてはあの、セピアの光景にて鍵をにぎる。
俺の名前は新垣健二。ある出版社で「作家」という仕事をしている。そして俺には彼女がいて、名前は橋爪葉子といった。葉子には作家である俺の身辺の世話をしてもらっている。彼女は俺より俺のことを知っているし、決して足を向けて寝れない存在だ。
「しかし、最近の社会は何だ!まるで俺という人間が必要ない、とでも言わんばかりにどどんどんコトが進んでいきやがる!」
俺は、いつものように社会に対して不満を爆発させていた。
「あなたはそんなに社会が自分を中心に進んでいくとでも思い込んでるの?」
彼女が諭すように言う。
「「時流」というモノが存在するんだよ。時代に乗れないことは、作家やお笑い芸人にとっては「死」を意味する。俺はそこから取り残されていくように感じるんだ。」
「でも私はあなたを愛してるわ」
「フッ、そんな気休めは要らないさ」
そしてある日のセピアの光景ーー。
冬の寒々とした海辺を歩く二人。
健二は言った。
「葉子とこうしていられるのもあと少しだな...」
「どうして?」
「それは僕はとても、とても重い病にかかってるからさ」
葉子はそれ以上訊くのをためらったが、勇気を出して訊いてみた。
「どんな病気?」
健二はフフッと少し自嘲気味に笑いながら言った。
「この世にある全ての「時流」の歯車から、僕は取り残されてしまったように感じるんだ」
「思い過ごしじゃない?」
空の青は少し雲の体積に侵食されて、影が薄く見えた。
「だから、僕はここで君とサヨナラする。。。じゃあな」
と言いかけた瞬間、彼はピストルの銃口を頭に向けて、トリガーを弾き、撃った。
......。
しかし何も起こらない。
「む、なんでだ?確かに弾は入れておいたはず...」
健二はまるでパニックにおちいっていた。
「あなたに自殺願望があることくらい、当にわかってたわよ。だからこっそりあなたの隠してたピストルの弾を抜いたの。創作の行き詰まりの様子、ニヒルなムード、どれをとっても自殺志願者のそれよ」
健二は涙した。
「おれは、、、生きてていいのかな?」
葉子は彼をそっと抱きしめた。
「いいに決まってるでしょ?」
紅に染まる夕日が二人を照らしていた。
影と影が二人を映し出す。それはまるで映画のワンシーンのようだった。
そして私と彼はいっしょに住んでいるアパートでセックスをして、一晩を共にした。
そして、翌朝。
目覚めると、彼はいなくなっていた。
そして、置き手紙が...。
「自分がこの時代、時流に取り残された違和感は消えないままだ。本当に愛してるのは過去の僕の作品と、君だけだ。
君が生きてていいと言ってくれたから、僕は生きるよ。ただ、この「違和感」、「時流に乗れないこと」を内包して生きるには、少しばかり時間が必要だ。だから僕は君のもとをしばらく立つけど、愛してる、じゃあな」
彼女は彼が、健二がとりあえずは生きていく道を選んでくれたことに心から安堵し、涙した。
そして、昔の作家、音楽家にしても、「創作」にたずさわる者にしか垣間見えない「何か」があるんだろうなぁ、と、想像を膨らませた。
END