鴎沢カモメのターン(帰宅)
カモメ「あ………………………」
カモメちゃんに突き飛ばされる。覚悟はしていたが、それでもきちんと痛い。俺は、Dスポが終わってしまったことをさとる。
カモメ「あれ………やだ………、えっ………」
ましろ「……………」
カモメ「えっと………え…………」
ましろ「いいんだよ。巻き込んでごめんね」
カモメ「………………ごめんなさい………」
ましろ「いいんだ。もともと俺は、スマホでエロゲーをしてただけだから。全部夢だったと思うことにするよ。カモメちゃんも早く忘れて」
そう言いながらも、心は痛む。
俺はすでにカモメちゃんのことが、好きになってしまっていたからだ。
―――好かれたから、好きになったくせに。
頭の中で、誰ががそうののしる。たしかにこれは、昨日まで存在していなかった「好き」だ。
こんな好きは、おそらく間違っている。でも。それでも好きは好きだ。失えばまっとうに苦しい。
ましろ「家に帰れる?」
カモメちゃんはうなだれながら、こくり、とうなずく。
カモメちゃんもまた、カモメちゃんにしか分からない苦しみを抱えているに違いない。
ましろ「本当は送っていったほうがいいんだろうけど、なんていうか……」
カモメちゃんは、ふるふる、と顔を横にふる。
さっきまでは自分のことを好いていてくれた女の子との間に、とてつもない距離を感じる。
カモメちゃん、君のことが好きだ。
そんな告白をする妄想が、どうしても頭の中に浮かんでしまう。そしてそれを、理性が全力で打ちくだく。
そんな気持ちは、伝えるべきではない。こんな汚い好きなど、こんな間違った好きなど、誰が受け取るものか……。
ましろ「気をつけて帰って……」
カモメ「……ありがとう、ましろさん」
カモメちゃんは背中を向けて、校門に向かって歩いていく。その背中を見送りながら、この気持ちはなかったことにしよう。……そう決意する。
しかしそのとき。
背中をふんわりと押すものがあった。
……それは、誰かの手のひらのようにやわらかくて、あたたかくて……それでいて、力強い『風』だった。