三次元ヒロインのターン(告白)
放課後、校庭の裏に隠れてスマホのエロゲーいじってたら、学年ナンバーワンの美少女に告白された。こんなことは、そうそう起こることではない。おそらく、スマホエロゲー史はじまって以来の快挙だろう。
「ましろさん。わたしは、あなたのことがすきなのです」
左手に握ったスマホ越しに俺が見上げる先には、黒髪ロングの正統派美少女。うるませた瞳は不安げに、俺の表情を読み取ろうとしている。
いやいやいやいや。なんだこれは。
エロゲーに没頭していたので、まだこの状況に頭がついていかない。まさかエロゲーやってる最中に、こんなイベントが発生するとは……。
どうしたものか、まったく検討もつかない。
俺は思わず、エロゲーのように会話の選択肢が画面の下部に現れてくれるのを待った。しかしこれはゲームではなく、三次元のイベントだった。選択肢は自分で作り出すしかない。
いったん深呼吸して、心を落ちつけようとする。
しかし、女の子と話すのは久しぶりな上に、相手はあの鴎沢カモメ。緊張しないわけがない。
彼女は誰からも好かれる、誰にでもやさしい、明るくてクセのない優等生キャラだ。エロゲーなら、メインヒロインに抜擢されやすいタイプだ。
いっぽう俺は、二次元好きの陰キャ。エロゲーなら分かりやすいオタクキャラとして、デブでメガネで、二世代前の萌え絵のTシャツを着せられるタイプだ。語尾が『デブ』になるのは、もう避けられない運命だろう。
カモメちゃんは、心配そうな面持ちでこちらを見つめている。俺が何も喋らないから、不安になったのだろう。
彼女は、冗談を言っているようにも、罰ゲームをしているようにも見えない。
そもそも、カモメちゃんは、美少女なうえにめちゃくちゃ性格がいい。人の傷つくことを面白がってするタイプではない。
カモメ「……ねえ。ましろさんには、すきな人がいますか?」
なんだこの状況は……。
突然のことに、頭がまったくついていかない。
無意識にスマホ画面の中の女の子に助けをもとめる。
……しかし画面の中では、青髪の女の子が俺に向かって微笑んでいるだけだ。
そして……その画面を……。
よりによって、カモメちゃんに見つかってしまう。
カモメ「へえ。ましろさんは、そういう女の子がすきなんですか?」
カモメちゃんは目を細めて、呆れた顔をしている。
ましろ「え、いや……」
カモメ「髪が青かったり、セクシーな服装だったり」
ましろ「え、いや……」
カモメ「おっぱい、おっきかったり」
ましろ「う……」
カモメ「でもね。三次元だって、もっと素敵なんですよ?」
ましろ「な、何言ってるんだよ」
カモメ「三次元の素敵なところ、ちょっぴりお見せします、と言っていますよ?」
カモメちゃんは微笑んでから、静かに目をとじる。
それから俺の手をそっとにぎる。
……やわらかい。
……そして、あたたかい。
カモメ「……どう……ですか?」
……カモメちゃんが、手をぎゅっと強くにぎってくる。
ましろ「やわらかくて、あたたかいです……」
カモメ「そう。二次元の女の子が、いかに美少女でも、いかにセクシーでも、いかにおっぱいが大きくても、三次元の女の子のぬくもりには敵わないのです!」
ましろ「うう……」
カモメ「どうですか? わたし、かわいいでしょう? わたしのこと、すきになってくれました?」
ましろ「は、はい……!」
カモメ「では、そんな二次元の女の子なんかすててしまって、わたしと一緒に楽しい学校生活を送りましょう!」
ましろ「はい……! お願いします!」
カモメ「れっつら三次元です!」
カモメちゃんは立ち上がり、改めて俺にその手を差しだしてくる。
……クラス一の美少女にこんな風にされてしまっては、誰だって抗うことはできない。
俺はスマホを置いて、彼女の手をとろうとする。
いざゆかん! 三次元の世界へ……!!
しかし、そのとき……。
俺のスマホが振動した。
そして……。