プロローグ
ここにはもう、見慣れた景色なんてない。
太陽の熱を遮る手段を失ったこの星は乾いてしまった、過去栄華を極めた人間の文明も今ではその全てが文字通り灰燼に帰した。
威容を示す太陽の下では人類は汗腺を強制労働させる事を運命付けられる。
乾燥した風が砂埃を巻き上げては肌に張り付き不快感を加速させていく。
それでも男は歩くのを辞めない。
短く散文的に息を吐きながら、確かな意思を滲ませた瞳ははるか地平の先を見つめている。
やがて日は傾きはじめ、夜には著しく気温が下がり、今、男にとってそれは命に関わる。
昼間歩くための準備はしていても夜の寒さに耐える準備をしてこなかった、いや、準備がなかった。
だから……
………男は焦る。
早く。
夜を凌げる場所へ。
今目の前に見える、あの街へ。
男は走る。必死だった。膝はとうに限界を越えていた。疲労が重量になり、痛みに変わり、激痛へ発展しても男は走る。
体の水分が枯渇する、反吐が出そうだ、だけどもうなにも吐くものなんてない、胃が痛い。
喉がへばりつく。乾燥のしすぎで痛みと共に鼻血が出る。
もう、ダメだ、どうして、どうしてあんなに近くに見えるのに!
街は男から逃げるように、走っても走っても距離が縮まらない。
「な……んで……」
男は倒れてしまった、全身の痛みが激しくなったように感じる、乾きが命を蝕んでいくのを感じる。
「もう……動けない…」男は諦めてしまった。
目を瞑ると頭から力が抜けていく、音が姿を消す、血液が全身を流れるのを感じる。
心臓が静かになりを潜めていく。
男は蜃気楼の街を追って力尽きた。
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「んばっ!はー、ぁゔぁ…はぁ…はぁ…はぁ」
男は荒く呼吸をしながら大げさに上体を起こして頭を抱える。
「ひどい汗だ、あっったま重っ、また寝落ちか…」
僕の名前は【松陰羊一】松陰と言う苗字から吉田松陰を連想して松陰の〝夢なき者に成功なし〟だかって言葉になんかいい感じにインスパイアされて
「夢………ドリーム………違うな、成功……サクセス?名前っぽくないなぁ、夢………羊………シープ………よう……いち!よういち!」
だそうだ、夢といえば羊、どうせなら一番!
両親への謎が深まるエピソードだ。
まぁ、松陰ドリーム君とか松陰サクセス君なんて名前にならなかっただけ両親の良心に感謝しよう、しかしなぜ最初に英語に変換するのか、二人共純血の日本人なんだけどね。
まぁ何はともあれ、そんなハッピーな頭脳の両親から生まれた息子の羊一君は羊の字が脳みその活動を邪魔する、つまりは漫画を読みながら寝落ちするのが趣味の名前の如くなのんびり屋さんに育ってしまった訳だけど、最近の悩みはその趣味の事、今日みたいにやたらと描写がリアル(おそらく直前まで読んでた漫画の影響)な夢を見た後必ず汗だくで頭おも〜い!ってなって起きちゃう訳、まぁそれだけなら良いさ、シャワーを浴びればいい話、なんだけど
「うわ、やっぱり、なんだよどうせならあの金のネックレスが良かったよ…。」
顔を洗おうと鏡の前に立つと、顔中に砂が付いてる。
今日のはちょっとエグいけどいつもはもっとライトな感じだよ?例えば夢の中で持ってたボールペン、そうそう、そのテーブルの上のやつ!それとか持ってきちゃったりとか。
とにかくなぜか夢から覚めると夢の中の何かを現実世界に持ってきてしまうんです、物が選べたら最高なんだけどなかなか人生甘くないみたい。
それが僕の最近の悩み、って言っても誰も信じちゃくれないよね。
ってわけで説明してる間に準備も終わっちゃったし、学校でも行きますかね!
「いってきまーす。」
毎朝出かける前に必ず言うんだけど、流石に誰もいない家で変かな?
でも小さい頃からの癖みたいなもんだしルーティン的な?
あ、因みに両親は健在ですよ、ただ僕が登校する時間には二人とも仕事だったりなんだったりでいないってだけ、心配かけてごめんね!
んじゃま、今日も元気に、いってきまぁ…すって、さっきも言ったんだった。あぁ、寂しい。
くそぉ!僕は思春期だぞー!ほったらかしにしてるといつのまにか僕から俺になっちゃうぞー!