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ドラニン  作者: 須方三城
5/6

5,星空からのドラゴンスレイヤー


 日が完全に沈んでしばらく。

 当然、辺りは静寂に包まれている。


 俺と委員長とタツオの三人は、街灯のみが静かに照らす夜道の中、帰路に就いていた。


「ゲームセンターからカラオケをハシゴし、ファストフード店で駄弁って解散……まさしく高校生のあるべき姿ですね!」

「ええ。まさしく高校生だったわ。充実した学生感……学充ね。私達は今、学充だわ」

「そうなのか」


 何が基準になっているのかわからんが、そうらしい。


 ゲームセンターでは三人揃って想定以上に散財し、カラオケ店では全員が室内の機器の一切の使い方がわからず前半の時間を完全に浪費し、ファストフード店ではタツオが口を滑らせまくって一〇回以上もタツオの悲鳴を聞く事になったが……

 まぁ、思い返して見て、後悔する記憶では無い。むしろ前向きな感情を向けられる記憶だ。

 要するに、楽しかった。


 中学の時はボロが出ない様に、余り学校外での付き合いには参加しなかったからな……

 友達とブラブラ遊び歩く事が、ここまで楽しめるなんて知らなかった。

 やはり、友達と言うモノは良いモノだ。


「良いモノね、学生らしい生活」

「はい。ここまで楽しめるとは」

「委員長達も中学時代、こういう風に遊び歩いたりはしなかったのか?」

「友達を作ろうなんて発想が無かったわ。不必要に関係を広げるのは、秘密がバレるリスクの向上でしかないから」

「それでよく生徒会長になろうと思ったな」

「【最も権力を持つ生徒】……と言う立場が欲しかったのよ。それに候補者がいなかったから、立候補すれば当確と言う据え膳状態だったし……役員共や教師達とは最低限の付き合いしか持たない様にしていたわ」


 要するに、リスクを負う事は承知していたが、これだけは我慢できなかった、と。

 本当に支配欲が強い様だ。


「生徒総会で舞台上から見える景色……どれだけ爽快か、わかる?」


 自分の眼下に、数百人の生徒達が整然と並び、待機している光景……か。

 更に、その生徒達が自分を生徒会内での最高権力者と認めており、スピーチ…発言を待っている状態。


 ……俺には支配願望が無いので、共感は難しいが……

 なんとなく、その光景に恍惚とする委員長を想像する事はできる。楽しそうに笑ってら。


「晴屡矢高校の生徒数は全学年全科合計で一〇〇〇人超……ふふ……楽しみだわ」


 俺が想像していた通り、本当に楽しそうに笑っている。


「では、この辺でお別れですね」

「ああ、委員長達はそっちなのか」

「ええ、この先にあるボロ借家を根城にしてるの」

「雨市さん、あんなに良心的な価格で貸してもらってるのに、ボロって……」

「事実でしょう」

「まったくもう雨市さんは……あ、そうだ。茶助くん、ウチに寄っていきませんか?」

「む?」

「友達を家へ招く……それも学生の醍醐味だと思いませんか?」

「ふん、あんたにしては名案。確かにそうね。歓迎するわよ、忍ヶ白くん」

「そうか。うむ。では、邪魔させてもらおう」


 高校入学に際して門限は撤廃された。今の俺は朝帰りさえ許される身分だ。

 爺ちゃんは最後まで門限撤廃案に反対していたが、婆ちゃんが通してくれた。


 歓迎してくれると言うのなら、伺わせてもらうしかないだろう。


「あ、でも、今ウチには茶菓子とか無いわ」

「大丈夫ですよ、ふふふ、こんな事もあろうかと僕の秘蔵ポテチが……」

「だから無いと言っているでしょう? あんた馬鹿なの?」

「食べちゃったんですか!?」

「ヒモのモノは私のモノ」

「うぅ……割と正論だから何も言えないよ……」

「では、何か買ってから行くか」


 丁度近くにコンビニもある。


「そうね……じゃあ超絶、忍ヶ白くんと買い出しお願い。私は先に家に向かわせてもらうわ」

「あ、うん。ちょっと散らかってるもんね」

「む? 別に気にしないが……」

「忍ヶ白くん。私は一応乙女な訳。身内には見られても構わないけど、客分に見られると困るモノがあるの」

「まぁ、要するに、いつもリビングに脱ぎ散らかしてる下着とかエロ本とか…どぅぶるふぁっ!?」


 タツオの巨体が宙を舞った。

 今日一日で随分見慣れた物だな……


「本当に、あなたはもう少し人間の持つデリカシーと言う文化について理解を深めるべきだと思うわ、鈍感爬虫類」

「ご、ごめんなさい……」

「そもそも、諸悪の根源は、私が脱ぎ散らかした傍から片付けるくらいの誠意を見せないあなたのそのヒモとしての自覚の薄さにある」

「委員長、流石にちょっと待て。ヒモは奴隷とイコールではないはずだが……」

「……茶助くん、割とそうでもないよ。現実は非情さ……」


 そ、そうなのか……



   ◆



 と言う訳で俺とタツオ、そして委員長はそれぞれ別行動。

 コンビニに着き、買い物を終え、俺は店の外で買い物袋を片手に待機していた。


 待機の理由は簡単。

 タツオが急に腹痛を訴え、トイレへ行ってしまったので用を足し終わるのを待っているのだ。


 カラオケのドリンクバーでやたらガバガバ飲んでいたからな。腹が冷えてしまっていたのだろう。


 余り人の事をこう言ってはアレかも知れないが、タツオは少々間抜けな部分が目立つな。少し改善した方が良い気もする領域で。


「やれやれだ」


 悪い気はしない。やれやれと呆れた様に言いつつも、少し笑ってしまっている事は自覚している。


「……む?」


 不意に、妙な感覚がした。


 何かこう、ぞわっ、とする様な……

 この感覚は、確か昔にも味わった記憶がある。


「【空間移動の術】……!?」


 異母兄妹の妹が、俺を殺すために用いた術。【空間移動の術】。

 空間を歪めていわゆるテレポートに近い事を行う、厄介な技だ。


 あれで空間が歪む時に感じた感覚と非常によく似ている。


「……上か!」


 妙な感覚の出処を突き止め、空を見上げる。

 すると、


「!」


 何かが落ちてくる。

 あのシルエットは……人だ。服装や髪の長さから女性的要素を感じる。

 だが身長や髪色から判断するに妹ではない。


 と言うか、あの落下姿勢は……着地を考えていない、ただ落下している様に見える。

 そして動く気配も感じられない。


「まさか、気を失っているのか!?」


 唐突過ぎてよくわからない。

 だが、よくわからないからと言ってスルーする訳にもいかない。


 菓子が詰まったレジ袋を放り投げ、俺は落下してきた少女を全力で受け止め態勢を取る。


「ッ、がっ……」


 な、ご、ぁ……!! 中々勢い付いてたなこの……!!

 ちょっと腕折れた。足の筋肉もヤバい。まぁ、治癒に集中すれば一〇秒くらいで完治させられるから良いが……


「おい、大丈夫か?」


 俺の推測通り、少女は気を失っていた。


「……?」


 しかし、落ち着いて眺めてみると妙な服装だな。

 洋服……にしても、何か浮いている。あまり見ない系統の服だ。民族衣装、だろうか。中世くらいのヨーロピアンな絵画に登場する貴族風な何か感じる。

 そして、服の端々に切れ目が入っていた。デザイン……では無く、刃物で斬りつけられた様な切れ方だな……


 む、腰のベルトから下がっているこれは……剣だな。どう見ても。


「おいおい……そんな堂々と持ち歩いていて良いのか……?」


 この国には銃刀法と言うモノがあったはずだが。


「ん……」

「お、気が付いたか」

「う……わ、たし……は……」

「大丈夫か?」

「ッ!」


 俺と目が合った瞬間、何故か、少女の顔は大きく目を見開き、驚愕と焦りが入り混じった様な表情を浮かべた。


「は、放せ!」

「む? ああ。わかった」

「きゃあっ!?」


 ぬ、そのまんま地に落っこちてしまった。

 放せと言ったから、放しても問題ない準備ができているモノかと思ったのに……


「お尻打った……!」

「すまん、放せと言ったからてっきり……」

「ひっ、ち、近寄るなぁ!」

「お、おう」


 手を貸そうかと思ったんだが……何か迫真の顔と声で「近寄るな」と言われては、離れるしかあるまい。数歩後退する。


 気絶していたからちょっと心配だったが、あれだけ声を張れるなら問題は無さそうだな。


「っ……ここ、どこよ……私確か、憲兵団に捕まって……そうだ、いきなり変な歪みが……」


 何やら独りでブツブツと言っている。

 そして、不思議そうな顔で周囲をキョロキョロと見渡し始めた。


「……まさか、ここが異世界って奴なの……?」

「異世界だと?」


 異世界なんて言葉、普通は口にする機会など滅多にない。

 それを口にしたと言う事は……


「まさか君は、異世界から来たのか?」

「………………」


 む、何やら警戒されている目だ。不本意である。


「……あんた、何? 雰囲気的に、憲兵ではないわよね?」

「何……か」


 随分と漠然とした質問だな。


「俺は忍ヶ白茶助。普通の高校生を目指す一般人だ。積極的に誰かと敵対関係を築く様な事はしない主義だ」


 むしろ友達募集中だ。なのでそんなにも警戒される謂れは無い。


「君は?」

「……私はタツミヤ・リューナ」


 少女は全く警戒態勢を緩めずに最低限の名乗り。

 まぁ、良い。身の上を喋りたがらない者を無理に問いただす趣味は無い。


「そうか……リューナ、落ち着いたか?」

「ええ……ねぇ、あんたさっき異世界がどうこう言っていたわね。……【オーランズ帝国】と言う国に聞き覚えはない?」

「オーランズ……? 無いな」


 世界地理に特別造詣が深いと言う訳でもないが、欠片も聞き覚えのない国の名だ。オランダなら知っているが。


「……オーランズの存在しない世界……少なくとも、オーランズとは離れた国……」


 急に、少女の全身から力が抜け落ちた。

 彼女の中でピンと張っていた何かが、急にたるんだ。

 何かに安堵した様子だ。


「私……助かったんだ!」

「何か知らんが、良かったな」

「うん、最高よ! 本当に最高! ザマァみろって話よ! 最後まで諦めずに生きてりゃ、こう言うどんでん返しもあんのよ! 私は生き残った、勝ったのよ!」


 凄まじくテンションが上がったな。


「すみません、お待たせしました」


 俺が急にお祭り騒ぎ状態になった少女の扱いに困っていると、タツオがコンビニから出てきた。


「え?」

「? どちらさまですか?」

「タツミヤ・リューナと言うらしい」


 しかも聞いて驚け、お前と同じ異世界から来た奴らしいぞ。

 そう、タツオに言おうとした時だった。


 リューナが剣を抜き、タツオに斬りかかったのは。


「ほあぁぁあああぁ!?」


 リューナの袈裟懸け状の一閃を、タツオはギリギリの所で躱す。


「ちっ……!」

「え、えぇぇええ!? ちょ、何かいきなり斬りかかってきたんですけど!?」


 見ればわかる。

 だがわからん。

 どういう事だ。


 訳がわからんが、とりあえず袖口からクナイを取り出し、キャップを外して構え、タツオとリューナの間に割り込む。


「……何でそいつを庇う訳?」

「決まっている、友人だからだ。君こそ、何故にいきなり……」

「ドラゴンを殺すのに、理由が必要な訳?」

「!」

「なっ……僕の事、ドラゴンに見えてるんですか……!?」

「当然でしょ」


 剣を水平に構え、リューナの瞳の内に、殺意と憎悪の色が躍る。


 それだけじゃない、その腕や、皮膚の所々が変色していく。

 炎の様に紅く煌く、鉄片の様な―――


「鱗……!?」

「私はタツミヤ・リューナ……【ドラゴンスレイヤー】よ!!」



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