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ドラニン  作者: 須方三城
4/6

4,友達は多い方が良い


「何で……こんな事になってんのよ……!?」


 彼女達は、国のため、世界のため、皆のために戦ったはずだった。


「何で私達が、こんな……!」

「……いつの世も、こんなモノだ。敵がいなくなれば、英雄は殺戮者でしかない。兵器は異物でしかない」

「そんな悟った様な話が聞きたい訳じゃあない!」

「……認めたくない気持ちは、わかるがな」

「……? ちょっと待ってよ……あんた、何よそれ」

「【毒薬】だ。先日撃破した憲兵隊の兵が所持していた。【俺達】への使用を想定した逸品だ。効果のほどは充分だろう。お前も要るか?」

「ッ……!?」

「奴らに捕まれば、抵抗する力をもぎ取られ、【浄化の儀式】だなんだと嬲り殺されるだけだ。特にあの下衆共の事……女のお前は、そう簡単には死なせてもらえんぞ」

「ふざけないでよ! 何もかも諦めて、せめて楽に死のうって訳!?」

「その通りだ」


 男は、あっさりと答えた。


 もうこんな世界に未練などない。

 薬を口へ放り込む動きに、迷いなど欠片もありはしなかった。


 男がただの肉塊に変わるまで、二秒もかからなかった。


 男の手から滑り落ちたいくつかのカプセルが、女の足元に転がる。


「ッ……誰が、死んでやるもんか……!」


 転がって来たカプセルを、全力で踏みつける。踏み潰す。磨り潰す。

 死を否定する。生にすがりつく。その堅い意思を示す様に、何度も何度も。


「私は……!!」


 その時、遠くで何かが破壊される音が響いた。


「ッ」


 ドアか壁が蹴破られた音だろう。

 つまり、見つかった。


「……私は、絶対に生き残ってやる……!!」



   ◆



 高校生活が始まって三日。

 俺が多少の奇異の視線を覚悟して和装で登校しても、クラスメイトが余りどよめかなくなってきた頃。


「……わからん」


 高等学校教育とはよく言ったものだ。

 先程の数学の授業、何がなんだかサッパリだった。


「僕もお手上げです……」


 隣席でタツオが力無く笑う。


「情けない」


 ポツリとつぶやいたのは委員長。まぁ委員長は委員長だし、見た目通り勉強もできるのだろう。


「数学なんて社会に出れば何の役にも立たないと聞く。そんなものの出来で一喜一憂するなんて馬鹿らしい」

「……その言動、まさかと思うが委員長も……」

「ところで忍ヶ白くん、次のHRでは学級委員を決めるそうだけど」


 話を逸らされた感がするのは気のせいだろうか。


「委員長委員長と散々呼んできた以上、責任を持って私を委員長に推薦してくれるのよね?」

「ん? まぁ構わないが……」

「よろしい」

「委員長は、そんなに委員長になりたいのか?」


 普通、学級委員なんて率先してやりたがる物では無いだろう。

 俺が普通を語るのもあれかも知れないが、そう言う物だと認識している。

 何故ならば、今までの学校生活で凄惨な委員長の座の押し付け合いを散々目にしてきたから。


「私はね、人の上に立つのが好きな性分なの。支配願望、と言うのかしら。この学校でも必ずや生徒会長にまで登りつめてみせる」

「雨市さん、実は昔、世界征服とか企んでたんですよ。勇者を名乗る人達に全力で阻止されたらしいですけど」

「超絶、人気のある所で昔の話はしない」

「あ、ごめんなさい」

「……まったく……」


 昔……委員長達が異世界とやらにいた頃、か。

 ……あれから異世界やら魔法やら色々と調べてみたが、どれも【想像上の代物】と言う一文が混ざっていた。

 この二人、実は俺以上に異端と言う奴なのかも知れない。


 まぁなんだ、世間に溶け込む努力をする者同士、激しめの親近感を覚える。

 これからも上手くやっていけそうな予感がする。


「む……」


 そう言えば……委員長達の他にも、異世界から来た奴はいたりしないのだろうか。

 そいつは十中八九、委員長達と同じく世間に溶け込む努力をする同類だろう。仲良くなれそうだ。


 人に限らず、大概の生き物は独りでは生きてはいけない。

 深めの関わり合いを持てる相手は多い方が良い。


 もし他にも異世界から来た奴がいるなら、ちょっと知り合っておきたい。


「委員長、少し聞きたい事があるんだが、後で聞いていいか?」

「何で後でなんですか?」

「わかったわ。じゃあ放課後に屋上で」

「あ、成程、僕たちの秘密に関係すr…ゲボァッ!?」


 何だ、今、俺の目の前を【見えない何か】がすごい速度で通り過ぎていった気がする。

 そして直後、タツオが脇腹を抑えて机に突っ伏した。


「相変わらず……あなたは口にローションでも塗りたくってるのかしら……? 腐れ縁だと辟易していたけど、同じクラスで助かった」

「ご、ごめんなさい……」


 どうやら、委員長が魔法とやらでタツオをシバいたらしい。


 しかし、よくもまぁタツオがこれだけ口を滑らせまくる中、今まで正体を秘匿し続けられた物だな。



   ◆



「……私達の他に、異世界から来た奴がいないか?」

「ああ」

「いないと思う」


 即答だった。


「ええ、可能性としてはかなり低いと思います」


 タツオも委員長と同様の見解らしい。すぐに同意してきた。


「そうなのか? 言い切る根拠は?」

「異世界は可能性の数だけ無限に増殖していく。今この瞬間にも……この世界の人口約七〇億人…それだけじゃない。あらゆる生物のあらゆる一挙手一投足によって世界は分裂し続ける」

「ここで僕が尻尾を振るうか否か、振るったとしてその振り幅によって、未来は微塵程ですが変化します。その変化の可能性だけ、世界は増殖する訳です」


 そう考えると、一秒間で一体どれだけの数の異世界が誕生しているか……人間が持つ数字的概念では数える事もできないだろう。


「そして私達は、転移先の異世界を自由に選べる訳じゃない」

「成程……理解した」


 広大な海を漂流していたとしよう。

 その海域には、島々が半無限と表現できる程に存在する。更に島の数は現在進行形で爆増中。

 そんな中で、他の漂流者と偶然にも同じ島に漂着する可能性は、限りなく低い。


「もしも、疎開先の世界で元の世界の住人に巡り合えたなら……相当運命的な繋がりがあるのでしょうね」

「運命的、か……」

「ところで、何故急にそんな事を?」

「個人的な事だ。友達になれないか、と思ってな」

「友達?」

「ああ、世間に馴染もうと苦労する同志として、仲良くなれそうだと思ってな」

「同志って……茶助くんも?」


 ああ、そう言えばタツオ達には話してなかったな。


「俺は、やや世間からズレているらしくてな。一時期疎外されていた時期もある。俺だって人の子、寂しいのは御免なんだ」


 だから、俺はもう二度と孤立しない様に尽力しているのである。


「故に、親しめる友達は多いに越した事はないと知っている。だから聞いてみたんだ」

「ふぅん……ところで、その理屈でいくと、私と超絶も【親しめる友達】にカウントされているのかしら」

「当然だろう」

「…………」

「……? 嫌なのか?」

「違いますよ、茶助くん。雨市さんのこの感じは照れてるんで…ぶるぼっ!?」


 透明な何かがタツオを強襲した。

 しかも男的にはかなり痛い位置だ。おぉう……


「ま、まぁ、思わぬ対応に動揺した事は否定しないわ魔女は同族同士でも馴れ合う習慣がないから正面から友達認定なんてされたの初めてで虚を突かれたそれだけの事なのわかるかしらよくいるチョロインじゃあるまいし自分の正体を知った上でそれを丸々と受け入れられた程度で照れる訳ないでしょうまぁ先にも言った通り驚いた事は否定しないし驚いただけであって決して悪い気はしてないのだけどだから誤解は持たないで欲しいと言うかまぁあれよ……よろしく」

「委員長、よくわからんが落ち着け」


 目が泳いでるし、急に口調が早くなった。早くなったと言うか最早矢継ぎ早だ。句読点が仕事できてない。明らかに落ち着きを失っている。

 しかし、自分で宣言してから動揺するとは、斬新である。


「シンプル素直に嬉しいって言えば良いのに……」


 ポツリとつぶやいたタツオが、見えない何かにぶん殴られ、派手に宙を舞った。


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