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ドラニン  作者: 須方三城
3/6

3,秘密の共犯取引


 とある世界。とある国。

 そこに置いて【ドラゴン】と言う生物は、希少な生物だった。


 その爪や鱗で作った装飾品は、宝石にも匹敵する資産価値を生む。

 骨を粉末状にすれば万病薬にもなり、その心臓を食えば寿命が延長されると言う信仰まで存在した。


 ドラゴンが強く、気高く、何より希少であったがために、ドラゴンは人間達に狙われる事になった。


 ドラゴンがその気になれば、人間を返り討ちにする事など容易い。

 だが、ドラゴン達は戦おうとはしなかった。元々が、非好戦的で温和な気性をしていたからだ。


 それが人間達を調子付かせた。


 どこまで逃げても人間達は追ってくる。

 その執拗さと狩人の数の力を前に、ドラゴン達はどんどん数を減らされていく事になる。


 これ以上仲間を失うのは耐えられない。

 平和主義であるドラゴン達も、流石に我慢の限界だった。

 そしてドラゴン達は蜂起し、人間と、種族間での全面戦争に発展した。


 だが、ドラゴン達は思い知る。


 蜂起するのが、遅かった。


 人間を、野放しにし過ぎた。


【ドラゴンスレイヤー】


 それは、ドラゴンの臓器等を己に移植し、それに見合う様に肉体を機械やドラゴン素材で加工した装備で改造した、狂気の狩人達。

 そのドラゴンスレイヤーによって編成された兵団による部隊展開を受け、元々戦慣れしていなかったドラゴン達は大敗を喫した。


 この敗戦から、ドラゴンと言う種族の歴史は暗黒の時代へと突入する事になる。



   ◆



「戦争を起こした事で、ドラゴンは完全に人間の敵とされ、人間はドラゴンを滅ぼすための法律まで制定しました」

「私達【魔女】も、同じく人間から迫害を受ける身。他人事じゃなかった」

「だから、ドラゴンと魔女は手を組んで、共に異世界へと疎開したんです」


 魔女の魔法で異世界へと逃れ、ドラゴンの能力を活かして新天地にて生活基盤を築く。

 そう言う共存契約の元、ドラゴンと魔女は手を組んだらしい。


「……もっとも、この世界じゃドラゴンは大して役に立たなかったけどね。今の生活に必要な者は大体私が魔法で調達したもの」

「へ、平和で良いじゃないですか……」

「結局、私が一方的にこのドラゴンを助けてるだけ、って訳」

「……はい、僕はヒモです……」


 タツオが泣きそうである。

 高校生の身空でヒモ宣言をせざるを得ない境遇、そりゃあ涙もちょちょぎれるのだろう。


 ……にしても、中々エグい話だ。


「……異世界の話とは言え、同じ人間として申し訳ないな……」

「茶助くんが罪の意識を覚える事ではありませんよ」

「にしても、結構あっさりと信じてくれるのね。もう少し、懐疑的になっても良い話だと思うのだけど」

「辞書に【想像上】の生物と書かれていた【ドラゴン】が、現に目の前にいる。さっきの錠破りに付いても、通常の手段であそこまで迅速に開錠できるとは思えない。【魔法】とやらを使えれば別だろうがな」

「ドラゴンも魔法も、目の当たりにした以上、疑う余地は無いと?」

「そうだ」


 今の話の通りなら、タツオ達がわざわざ異世界からこの世界へやって来た理由も「ごもっとも至極」と納得できる。

 疑う要素が無いだろう。


「【突拍子が無い】とは、思わないの?」

「妙な事を言うな、委員長。人生とは何事も突然だ」


 むしろ前フリがある事の方が少ないはずだ。

 突然爺ちゃんの稼業のライバルに拉致監禁されたり、受験の時にヤマが外れる事だってある。

 今までひとりっ子だと思っていたのに実は腹違いで同級生の妹がいて、しかもそいつが自分を殺しに来るなんて事すら起きる世の中だ。あの時はマジでビビった。


 だが、それでもだ。

 驚愕し、動揺はしても、現実は受け入れるしかない。否定した所で起きてしまった事象は無かった事にはならない。

 更に今回の件については、納得の行く説明もされた。「突拍子が無いぜおい」なんて理由でそれを否定する道理は無い。


 何事も冷静に受け入れ、対処を検討し、実行する。

 それが人生を上手く生きるコツだと思う。


「で、共犯にすると言っていたが……俺はどうすれば良い? お前達の事を黙っていれば良いのか?」

「それと、学校や公共の場ではこれからも普通に接して欲しい。ドラゴンや魔女の関連ワードは基本NG」

「この世界でも【異端は排除される傾向】にある様なので……ドラゴンや魔女である事がバレると、面倒な事になってしまいます」

「……【異端は排除される傾向】……か」


 確かに、その通りだな。その事については、俺もよく知っている。

 だからこそ、世間一般で言われる【普通】であるべく努力しているのだ。


「わかった。お前達の特異な点については今後一切触れないし、当然公言もしない」

「信用できない」


 マジかよ委員長。


「あなたは……何かがおかしい。普通、こんな話を突然聞かされて、そんな整然としていられるはずがない」

「……この対応はおかしいのか……では、疑う。今の話は本当か?」

「本当よ」

「そうか。疑って悪かった。信じよう」

「……馬鹿にしているのかしら?」


 何の話だ。


「信じても不服、疑っても不服……俺は一体どうすれば良いんだ?」

「そうですよ、雨市さん。そんな対応をしては、茶助くんが困ってしまいます」

「腑に落ちない、あっさりし過ぎてる。もっと動揺するモノでしょう、普通」

「ぬ……そうなのか。しかし、すまない。生来、こう言う性分なんだ」


 それと、表に出すのを堪えていただけで、タツオに関しては充分に激しく動揺させてもらった。


「それにお約束の展開と言うものもあるでしょう? ここは『秘密をバラさない代わりにグへへへ……』と私や超絶の肉体を要求しエロ同人的展開に持っていくモノじゃない?」

「…………?」


 何だ……? 委員長が何を言っているのか全く理解できない。

 お約束だ展開だと言っているが……何か異世界特有の様式美的な文化についての話か……?


「ドラゴンを【掘る】機会なんてそうそう無いわよ。男を見せなさい忍ヶ白茶助。カメラの準備はできている。ふふ、こんな事もあろうかと奮発した一眼レフのデジカメよ。この世界の映像記録系の媒体って本当にもう高画質過ぎて控えめに言っても大好き」

「ごめんね茶助くん、雨市さん、最近ちょっと変な趣向に目覚めちゃって……スルーしてあげて」

「スルーしていいのか? よくわからない話題だから詳しく話を聞くべきかと思ったのだが……」

「確実に後悔すると思うからやめとこう」

「超絶、ヒモなんだから私の好奇心のためにその身を捧ぐべきだと思う」

「そんな事を要求されるくらいなら、僕は元の世界に送還される覚悟もある」


 元の世界って、ドラゴンが迫害されてる世界だろう。

 何かよくわからんが、凄まじい覚悟だな……


「委員長、話の内容はよくわからんが、そこまでの覚悟を決めてでも拒否する様な事を強制するのはどうかと思うぞ」

「……ちっ、意気地なしめ。がっかりよ、忍ヶ白くん」


 何故俺は罵倒され呆れられているんだ。納得がいかない。

 ……まぁ良い、美人に罵倒されるのは嫌いな方では無い。


「とにかく、私は口約束では信用できない。私達に何かしらの見返りを要求しなさい」

「……成程、口約束ではなく【取引】にしたいのか」

「話が早いわね。その通りよ。そうして、私達と正真正銘の共犯関係になってもらうわ」


 ドラゴンを助ける魔女……その存在を知りながら、自らの利益のために秘匿する。確かに共犯だ。


「良いだろう」


 犯罪と言っても異世界の法であり、それも理不尽なモノだ。

 この案件に関して共犯になる事に、迷う要素は無い。


「で、あなたはどんな見返りを望むの? 私の魔法の力で何かしら望みを叶える? それともやっぱりここは超絶の体?」

「しつこいですよ、雨市さん」

「この好奇心は止まらない」

「何の話をしているか知らんが……」


 見返り、か。

 ふむ……そんな事を言われても、特に今、どうしても欲しいモノは無い。

 しかし率直にそれを伝えても委員長は納得してくれなさそうだ。


 どうしたものか……


「……そうだな……なら、今日の昼食の代金を負担してくれ」


 それくらいが妥当かつ無難だと思う。


「そんなモノならお安い御用ね。超絶、財布を出しなさい」

「え、僕?」

「あなたのその所持金は、誰が捻出したモノかしら?」

「うぅ……ヒモの辛い所だね……」

「……何かすまない」


 ……可哀想だから、昼食は安めの奴を選ぶとしよう。


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