表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人間が創ったニンゲン

作者: 縋 来冬

 ある日、地球にはロボットだけが暮らしていました。ロボットとは言っても、彼らをロボットと呼ぶのは今日のわたしたちだけです。

 彼らは自分たちのことを「ロボット」とは呼びません。彼らは人間につくられ、人間のふりをして、人間がつらいことを代わりにやってくれていました。だから彼らは自分のことを「ニンゲン」と呼びます。

 彼らは一生懸命に人間の真似をしました。

 人間は火山が苦手でした。溶けてしまうからです。だからニンゲンは代わりに火山を調査しました。

 人間は深海が苦手でした。暗いし、冷たくて熱くて、広くて狭いからです。だからニンゲンは代わりに深海を調査しました。

 いつの日からか、ニンゲンも歌を歌うようになりました。人間は一人が一度に出来ることが少ないからです。ニンゲンは歌うのが好きになったし、人間はニンゲンの歌う歌が好きでした。

 ニンゲンは俳優や声優もやりました。人間と違って、いろんな国の言葉が話せるし、いろんな仕草を再現出来るからです。ニンゲンだけの映画、ニンゲンだけで作ったアニメやなんかもありました。

 そうして、ニンゲンは精一杯人間の真似をして、人間は精一杯ラクをしました。

 そうしていたら、いつのまにか人間がいなくなっていました。ニンゲンはそのことに気付きませんでした。

 それからずっと経ちました。もうニンゲンは人間に創られたのだということを誰も覚えていませんでした。

 ニンゲンは言葉を一つにしました。いちいち翻訳するのが面倒になったからです。

 ニンゲンは地球を半分で分けました。半分は緑の部分、半分は鉄の部分です。ニンゲンも動物ももう互いを必要としていないのに同じ場所に住むのがおかしく思えたからです。人間が動物の大半を滅ぼしていたので、引っ越しは楽でした。

 緑の大地は動物に任せました。動物ではないものが動物の世話をしたって意味が無いことはもう知っていたからです。

 鉄の大地は海の上に作りました。数本の太い柱で海中に固定したので流れる心配はありません。海も残っています。キカイを壊すだけの水は必要なかったので、海も動物に任せました。でも、人間が汚した部分はちょっとだけ綺麗にしました。

 ニンゲンはニンゲンを少し減らしました。住む場所が少し狭くなったからです。さらにニンゲンはニンゲンを増やすのをやめました。増えすぎたら良くないことになると知っていたからです。

 ニンゲンの世界は完成しました。地球の自然はじゅうぶん残っています。特に難しいことをしなくても、鉄の大地がさびないように修理するだけで住む場所は崩れません。

 ずっと同じヒトが同じ事をして、同じ物を見て、同じ楽しみを覚えて、同じ毎日を繰り返します。

 飽きないのでしょうか? 飽きません。必要で無い記憶を一日ごとに消すことにしたからです。そうすればずっと同じ物を見るだけで、初めて見た感動を何度でも覚えられるからです。

 しかし、いつの間にか動物は随分と変わっていました。ときおり鉄の大地に乗り込んで、キカイを壊すようになりました。その度にニンゲンは動物を殺さなければいけません。動物は言うことを聞いてくれないからです。それでも動物はいっこうに減りません。どうやらものすごい数に増えていて、緑の大地ではもう狭いようでした。

 ニンゲンは不思議でした。どうして動物は緑の大地で満足しないのだろう? どうしてニンゲンたちのように一つの大地で効率よく暮らせないのだろう? 鉄の大地は動物には不向きなのに、どうしてわざわざ乗り込んでくるのだろう?

 ニンゲンたちは考えました。皆ひとつになって、ずっと考えました。

 ふと、ある疑問が浮かびました。

 動物たちが増えようとするのは当然としてみる。理由は分かりませんが、とにかくそういう風に仮定しました。

 ではなぜニンゲン達は生きようとするのでしょう? ニンゲンたちは鉄の大地で満足しています。同じことを繰り返して、鉄の大地の外には一切触れないで、どこに行くのでも無く、ずっと同じ事を繰り返してきました。記憶を消してしまったので分かりませんが、映画もアニメも歌も、たぶんもう何百年も前から同じ物を見て聴いてきました。

 ずっと、鉄の大地を壊さないようにして、誰一人として変わらず、何一つ新たな物を生み出さず、ずっと、ぐるぐるとそこに居続けました。

 今、ニンゲンが唯一いつもと違うのは、鉄の大地に乗り込んでくる動物を殺すようになったことです。いつの間にか、ニンゲンはただ動物を減らすだけのものになってしまっていたのです。でも、そもそも動物が増えてしまったから、緑の大地が足りなくなってしまったのです。ニンゲンたちのように、緑の大地だけで満足していれば、増えることもしなければ、鉄の大地に乗り込む必要は無かったはずなのです。それなら、ニンゲンたちも動物を殺さずに済むのです。

 ニンゲンたちは悩みました。このままでは自分たちは動物を殺すだけのキカイです。ニンゲンたちは苦しみました。ずっと楽しいことをしてきた。自分たちの大地を守ることしかしてこなかった。これまで動物を殺すこともしなければ、鉄の大地を広げることもしなかった。なのに今は、動物たちに鉄の大地を壊され、それを守るために動物を殺さなければいけなくなった。どうしてこうなってしまったのでしょう?

 ニンゲンたちは、自分たちが人間たちに創られたものであることを思い出しました。そして人間たちに助けを求めました。人間たちが残した、映画やアニメや歌を、調べたのです。自分たちの何がいけなかったのか、よくよく知ろうとしました。

 それらの中の人間たちは、いつもどこかに行こうとしました。同じ事を繰り返すのを避けようとしました。記憶を消せないので、常に新しい物を求め続けました。生きるために動物も殺します。動物に殺されることも珍しくありません。さらには、人間同士で殺し合うこともしました。いつも何かを求め、その度に痛みを受けてきました。

 ニンゲンたちは悩みました。どうしてこんなにも無駄なことをするのだろう? どうしてこんなに理不尽にしか生きられなかったのだろう? そして一つの答えを出しました。

 それが生き物なのです。生まれ、生き、死ぬ。それまでの間、理由も分からない情動にかられて、何かを求め、必死にもがき、自らの代わりを生み、種を増やし、そして死んでいったのです。たとえ理不尽でも、無駄でも、動くことをやめません。同じ事を繰り返しているようでいて、いつも新しいことをしてきました。悲しい思いをしても、痛みを受けても、その次の日に笑えれば幸せでした。それが生きることだったからです。生きていると辛い思いをしますが、生きていれば幸せになれました。

 ニンゲンは、自分たちに足りなかった物を知りました。人間たちは、常に生きようとしました。生きると言うことが何なのかも分からず、ただがむしゃらに生きようとしました。しかしそれ故に、人間は滅びました。

 ニンゲンは苦しみました。自分たちに足りなかったのは生きようとすることでしたが、人間はそれを教えてくれませんでした。人間には人間以外の生き物を生み出せ無かったからです。それに、生きようとすれば人間のように滅んでしまいます。

 ニンゲンは緑の大地へ乗り込んでみました。そこに知っている動物はいませんでした。少し似ていても確かに違う動物や、まったく何にも似ていない動物までいました。ニンゲンはそれまで緑の大地に触れてきませんでしたが、そこにいた動物はほとんどが滅び、新たに生まれ、ずっと入れ替わりをしてきたようでした。

 ニンゲンたちは悟りました。もう、自分たちのいる理由はありません。もう自分たちを必要としてくれた人間はいないのです。動物たちは、最初から自分たちなど必要ありませんでした。動物は生き物で、ニンゲンはキカイだからです。

 ニンゲンは動物を殺すのをやめました。鉄の大地は動物に壊されてゆきました。ニンゲンは少し悲しみました。動物はニンゲンも壊しました。痛くはなかったので、これも少し悲しいだけでした。

 やがてニンゲンはいなくなりました。鉄の大地は錆びて、やがて緑が少しずつ覆いました。動物たちはそこで住むようになりました。

 地球は再び動物の世界になりました。人間が作った物と、ニンゲンが作った鉄の大地だけが、残り続けました。



 おしまい

「人間の代わりになりうるロボット」の登場を望む声を聞いて思ったことを書きました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ