少女と変態
「俺はな、世界を狙っている!!」
「…突然何よ」
彼の言葉に、私は冷ややかな視線を向ける。だって、そうでしょう?彼はどこにでもいるような、普通の人間―ううん、普通じゃないわ、訂正する。変態なんだから。
「驚かないのか?世界だぞ、世界!」
彼はそう言って胸を張るけど、だから何?って感じ。どうせ彼の言う事だから、オタク的な何かでしょうし。正直、関わり合いになりたくないわ。
「…まぁいいか、とにかく聞いてくれ!俺、手先器用だろう?」
また突拍子のない事を言っている。でもここで突っ込むとまたうるさくなりそうだし、そのまま黙っておくことにする。
「それで、この前フィギュアを作ったんだ!これ!」
彼はそう言って、目の前にスマホを突き出してくる。仕方なしに、何やらじゃらじゃらと女の子のストラップが大量にぶら下がるその画面を覗き込む。
「……これが、何?」
そこには、あられもない姿をした少女の模型が幾つも映っていた。しかもいやに精巧に出来ている。
「何、……って……これ見て、何も思わないのかっ?!全員俺の手作りだぞ、この子達!!」
この子達、という表現に吐き気を催したわ……本当に気持ちが悪い。けれど彼は興奮冷めやららぬようで、息を荒げながら肩を掴んでくる。
「ちょ……っ触らないで、!」
不覚にもドキッとしてしまって、私は思わず乱暴に彼の手を振り払う。
「あっ……悪い」
すると彼は流石にやり過ぎたと思ったのか、慌てて手を引っ込ませた。……元は白熱して勝手に手を出してきた彼が悪いのに、何だか気まずい。
その沈黙が、何だか怖い。
「……そ、それで?その画像がどうしたのよ?」
そんな空気を払拭するように、私は彼にそう尋ねた。
「……そ、そう、この自作フィギュアで、世界を狙おうと思うのだよ!」
……あぁ、想像通りだったわ。聞くんじゃなかった。……でも、彼らしいと言ったら、彼らしいわね。全く共感出来ないし、したくもないけど。
「そ、それで!これは相談なんだが……」
「……何よ、急に改まって」
珍しく彼が、どもっている。何時も嫌になる位べらべらと聞いてもいない事を喋り続ける癖に、何だか調子狂っちゃうわ。
「これが世界に通用したら、俺と付き合ってくれ!!」
「………はぁ?!」
思いもしなかった言葉に、呆然としてしまう。付き合うって……買い物とかかしら。
「あ、付き合うって、もちろん買い物じゃないぞ?!」
けれど言おうとしていた事を先に言われてしまって、私は口を噤んだ。
「……それじゃ、何?」
「何って……本当にわからない?」
じと、と、責めるような瞳で見つめられて、う、と閉口する。もしかして……本気、なのかしら。そう思うとかぁあ、と頬に熱が集中して、私は思わず俯く。
冷静に考えるとすっごくバカな事言ってるのに、こんな気持ちになるのはきっと、私の男性経験が足りないからいけないんだわ。じゃなきゃこんな変態男に告白されたって、何とも思わないはずなんだから!
「……た、」
「えっ?」
「……楽しみに、待ってるわ」
私はそう言って、少しだけ照れ隠しに微笑んだ。今はこれが、精一杯。
「……あ……」
彼が何か言いたそうにぱくぱくと口を開け閉めするけど、それを無視してすたすたと歩きだす。不思議と、心はすっきりと晴れ渡っていた。