第二話「秋山」
◆◆◆秋山和寿
「4日連続居残り残業かー」
秋山和寿は警察官の愚痴をこぼしながら、パソコンとにらめっこをしていた。もちろん、なりたくてなった警察だったがここまで厳しい職業だとは全く聞いていない。
「お前だけじゃないさ。新人はみんなこんなものだよ」
隣りにいる田中悠馬も口を開く。
どちらも、入社してまだ1年弱。新人と呼ぶのにはこれ以上ないほどふさわしい23歳だった。しかし、入社して3年かそこらの先輩は「今日は合コンだ」と言って早々に帰っていった。
「良いな合コン」秋山はそう言わずにはいられなかった。すると、隣の田中は「なんだって」と言うものだから「なんでもねーよ」と言い返すだけだった。
そのあとは、しばらく沈黙が続いた。お互い言うことなどないので、わざと、パソコンのキーボードを打つ音を大きくしてみたり、そういうふざけた遊びが続いた。
「外見ろよ。まだ明るいぜ。日も長くなったな」いきなり田中が口を開くものだから、秋山の口が相当開いていたに違いない。秋山は渋々窓を見る。明るかった。もう6時過ぎだというのに、まだまだ太陽は元気なようだ。
「やけに明るいとよ、これから嫌なことでも起こるみたいに思えちまうんだよな」何だよコイツ、と思ったのは夕日が窓から差し込んで、目に入り「眩しい」と思うより、だいぶ早かった。秋山はただただ黙っていると、「こういう『眩しい』って思っている時、今はもう何をしているのかすらわからない人も、同じ夕日を見て、『眩しい』と思っているかもしれないよな」とまたしても不可解なことを言うものだから、さらに驚いたに違いない。
しかし、この時今もう何をしているのかすらわからない人が、明るい夕日を見て「眩しい」と思い、これから嫌なことをする、というのは秋山は全く予想していなかった。
「お前、変なものでも食べた?」
「自炊の食べ物かもわからないものなら食べたさ」
「あぁ、それのせいだな」
「何がだよ」
二人でくだらない話を続けていると、残業だの、合コンだの、そんなことはどうでもいいように感じた。そのうち、二人は眠くなって、寝ていた。




