⑤⑨
時の流れというものはとても残酷なものだ。
残酷だからこそ人はその時を赤子を抱くように愛おしく大切にしなければならない。
改めてそう感じたのは園原さんと別れて4日目の事だった。例のスクラップ工場で5人の死体が見つかったと夕方のニュースで知ったからだった。
最初、死体の数を聞いた時、自分の耳を疑った。あそこにあった死体は4人だった筈だ。
それが5人と報道されたと言う事は……
まさか、と私は思った。園原さんが殺された?そんな疑問を抱きながら私はニュースに釘付けになった。
画面には規制線が張られ多くの捜査官が工場内に出入りする映像が流されている。
中継するリポーターの口から園原さんの名前が出され4人を殺害した後、自殺を図ったと思われると語っていた。
続けて警察は自殺した園原さんと殺害されたその4人との間に何らかトラブルがあり、それによって4人を殺害したと思われ怨恨による殺害事件として捜査を進めている模様だと声早に語った。
私はテレビのチャンネルを変えた。どの局も一斉に園原さんのニュースで持ちきりだった。だが私は自殺だとはとても信じられなかった。
園原さんはあんなに元気だったし、産まれたばかりの孫に会えた事を心から喜んでいた。
そんな人が自殺を図るなどあり得ない。考えられなかった。なのに何故?ひょっとしたら園原さんは自殺ではなく何らかの理由で死に至った。
それを隠したいが為に警察による隠蔽と報道規制が引かれたのかも知れない。その1つとして駒形の首切り死体がある。
あれを報道させるわけにはいかない事くらい私にでもわかる。猟奇的なバラバラ殺人よりも、怨恨殺人の方が聞こえがいいからだ。
そしてもう1つは園原さんの自殺。これは明らかに警察が隠したい事がある為だと私は思った。
自殺として処理しておく方が警察にとって都合が良い、何かしらの事があの場所で起きたのかも知れない。
例えば警察官による銃の発砲。威嚇射撃であれば隠す必要はない筈だ。けれどそれが偶然にも園原さんに当たり…もしくは園原さんが反撃に出て射殺されたとすればそうはいかない。私はそう睨んだ。
だからといって私がのこのこと出かけて真相を明らかにする為に調査をするわけには行かなかった。
絶対に火の粉に触れるような真似はしてはならない。真相を知りたい気持ちは確かにあった。
が、そう出来ない立場に私達はあるのだ。調べる事により、警察の目にとまるような事は避けなけれならない。そんなほんの僅かな綻びから私達の存在に繋がるかも知れないからだ。
だから私はテレビを消した。ただ今はジッとしてことの成り行きを見守りながら堪えるしかない。そうすればいつか会社から園原さんの情報を得られるかも知れないからだ。焦って調査に赴いたりしたら墓穴を掘るだけだ。
会社も私と園原さんが会っている事は認識している筈だから、恐らく向こうから連絡が来るだろう。私はスマホを持ってソファから立ち上がった。胸の中がざわざわし落ち着かなかった。
こういう時は無心になれる事をすればいい。私は小屋に行き掃除をしようと思った。
掃除の最中、圭介が手斧を持ってやって来た。
元あった場所に戻そうとしたらしい。
だが、余程その手斧が気に入ったのか、刃のカバーと腰に付けるための道具まで用意するほどの熱の入れようだった。そんな姿をみたら、さすがに戻せとは言えなかった。
私は綺麗に研がれたその手斧を圭介に返し、持っていなさいと話した。
圭介はそれが余程嬉しかったのか、見たことないほどの笑顔を見せた。最近、圭介は感情を表情で表すようになって来ていた。その事は私と妻を喜ばせてくれた。
元々、泣かない子供だったから、そのせいで感情の起伏も失われてしまったのではないかと思っていた程だ。
高校生になってしばらくしてから徐々に変わっては来ていた。だが特に最近は顕著にそれを表す様になっていた。ひょっとしたら良い友達や好きな子でも出来たのかも知れない。
死体処理のおかげとは万に一つも考えられなかった。初めてだったとは言えその時はほとんど感情を表さなかったからだ。
だから最近の楽しそうな圭介を見ていると、処理人の仕事はさせるべきではないような気にもさせられた。
だがこれは圭介自身が望んだ事であるから、圭介が辞めたいというまでは、続けさせようと私は思ってもいた。
そもそもまだ高校1年生だ。手伝うのは夏休み期間中だけの話だ。冬になれば又、やりたいとは言わなくなるかも知れない。そう願う私も少なからずいた。が、それ以上に後を継ぐ圭介を私は望んでいた。
圭介が手斧を持って小屋から出て行くのを見送った後、私のスマホに1本の電話があった。
会社からだった。
内容は当然、園原さんの事だった。私はありのまま真実を話た。自殺なんてするわけがないとも付け加えた。
会社はしばらくの間、私に仕事を依頼はさせられないといい一方的に電話を切った。
要するに5人もの死体が発見されたスクラップ工場は会社の物だから色々と捜査が入ったのだろう。最悪、工場を潰すつもりでいるのかも知れない。
それとほとぼりが冷めるまで不穏な動きをさせたくないというのもある。
だからもしこの街の誰かを殺害する予定があるとするなら、恐らくそれも延期とされる筈だ。
つまり私はしばらく仕事がないという事だ。
まぁ。給料は出るから良いのだが、問題は鰐の餌だった。
魚ばかりやるわけにはいかない。かと言って鰐の為に大量の肉を購入するのは難しい。スーパーなどの肉を全部買い占めても足りないくらいだ。
私は何処かに死体が落ちてないか?とろくでもない事を思った。冷たい麦茶を飲みながら圭介にもそろそろ小屋の合鍵を渡してもいいかもしれないと、頭の隅で思いながら、ぼぅっと画面を眺めていた。
お爺さんの入院が2日ほど早まった。どうやらベッドの空きが出たらしい。お爺さんは予定より早くなった入院に対して渋い顔をしていた。
「残り2日の予定を組んでいたんだぞ?」
と予定の事は何一つ話さず憤っている姿勢を私達に見せつけていた。それでも空きが出たのだから直ぐに入った方が良いですよとお婆さんに説得され、渋々、身支度を整え始めた。
「2日早ければ2日早く退院できますからね」
お婆さんは何だか嬉しそうにそう語った。
「毎日お見舞いに行きますから」
「毎日はいらん」
と強がるも、お爺さんは満更でも無さそうだった。
私はお爺さんとお婆さんと妻を乗せて病院へと向かった。圭介は勉強しているのか、いってらしゃいと声だけ聞こえた。しばらく仕事がない以上、圭介に教える事があるだろうか?
そんな事を思いながら私は病院へと車を走らせた。




