⑤③
「さっき買った本のタイトルって何ていうの?」
本屋を出て駅ビル内を散歩しながら赤津がそう言った。
「めっちゃ怖かったんじゃないの?」
「だから私ホラー嫌いって言ったじゃん」
「人が読む物だと思って適当に選んでさぁ、ツマならなかったら弁償だからな」
「決めるのが遅いのがいけないんじゃん」
「そういう赤津だって直ぐには決められなかった癖に」
「私はいいの」
「何だよそれ」
「女の子を待たせるのが悪いの。そういう所、治さないと女子にモテないよ?」
「選んでる最中だったじゃん」
「知らな〜い」
赤津のとんでもない逃げ方に辟易したが、嫌な気持ちにはならなかった。
「喉渇いた」
「マックでも行く?」
「サーティワンが良いな」
「アイスなんか食べたら余計、喉渇くだろ」
「女の子には順序ってものがあるの。渇いた喉はアイス食べた後で潤すから先にサーティワンで良いのよ」
「そうなんだ」
「そうなのよ。仲野部君」
アイスを買って駅ビル中のベンチで食べた。
その途中、僕は買った文庫本を袋から取り出した。
「カリバヤの司祭だってさ」
「カリバヤって何だろね?」
「さぁ、読んでみないとわからないよ」
「裏側みたら、少し解説ぽいの書かれてるでしょ?」
「あぁそうだね」
僕は文庫本を裏返した。
カリバヤとは狩場屋の事らしい。
「わざわざカタカナにしなくても良いのにね」
「確かに」
「てことはさ、狩場に司祭が住んでて、そこで布教して行くって話かな?」
裏表紙にある文章を読むと赤津の言ったまんまの事が書かれてあった。
「まんまぽいよ」
「えー。まんま?ならそれつまんないかもね」
「赤津が選んだんだからな?」
「私、1時間前後の記憶がないの。あれ?どうして仲野部君がここにいるの?私、アイスも食べてるじゃない。きっと仲野部君が食べているアイスも私が奢ってあけたんだね」
「奢ってもらってはいませんが」
「あぁ記憶がぁぁ」
「わかったよ。わかったから」
僕は笑いながらそう言った。
言葉を続けた。
「でも真夏のホラー小説特集の中にあったんだから、それなりに面白いんじゃないかな」
「え?私そこからは取ってないよ」
「違うの?」
「うん、だってホラー嫌いだし。だから、側の棚から適当に抜き取っただけだよ」
「ホラー小説でもないのか!」
「そうみたいだよ!」
「いや、赤津がビックリする必要はないからね?」
「そうなの?」
「そう」
「いや、仲野部君がビックリしてたから、私もビックリしてあげなきゃいけないと思ったからさ」
「ホラーコーナーじゃないなら期待出来ないな」
「そういう事は全部読み終えて言ってよね?作者に失礼だし、それに仮にも私が適当に選んだ本なんだから」
「その適当が厄介なんじゃん」
「そうとも言えないとは言えない」
赤津がアイスを頬張る。美味しいと呟いた。
適当に選んだ事に対して全く反省していないようだった。まぁ僕も怒っているわけじゃないから別に良かった。
「ま、読んでみるよ」
「うん」
僕らは駅ビルを出てカフェにより赤津はラテを、僕は何が美味しいのか分からなかったからアイスコーヒーをテイクアウトした。
「仲野部君の家ってここから近いの?」
歩きながら赤津がそう言った。
「自転車で15分くらいだから近くはないかな」
「そうなんだ」
「うん」
「ならここまで自転車出来たの?」
「そうだけどどうして?」
「不死身階段に、行かない?」
「不死身階段?何だよそれ?」
「この辺に住んでるくせに不死身階段知らないの?ビックリだよ」
「悪かったな」
「で、そこまではここから近いの?」
「近いよ」
「そうなんだ」
近くにそのような階段があっただろうか?考えてみたがさっぱりだった。
「その不死身階段ってのはさ。お寺の裏道みたいな場所なの」
「裏道?」
「そう。お寺に直接向かう道じゃなくてさ、住職の人達がプライベート所用で使う階段なんだけど、それがお寺の裏側にひっそりとあってさ。何でも噂じゃその階段が243段あるらしいのね」
「243で不死身ね。くだらねー」
「でしょ?そう思うよね。だけど実際には243段もないんだって」
「なのに不死身階段って呼ばれてんだ?」
「そうなんだ。不思議じゃない?」
「都市伝説的なものかな」
「多分ね。だからこれからそこに行って階段が何段あるか調べてみない?」
「赤津はホラー的なもの嫌いじゃなかったっけ?」
「これはホラー的なものじゃなくて、ミステリーだし」
「似たようなもんじゃん」
「うるさい」
「ま.暇だから行ってみようか?」
「よしっ!」
「ところで、そこまではどうやって行く?」
「チャリンコ2ケツに決まってますが?」
「あ、そうなんだ」
「そうよ」
「勿論、運転は…」
「いうまでもないでしょ」
「ちなみにその、不死身階段って場所はどこにあるわけ?」
赤津がその地名を言った。
「何だよ、近いって話だったじゃん。そこだとめっちゃ遠いじゃんか!」
「歩きだとね」
赤津がニヤニヤしながらそう言った。
まるで、これから悪戯をしようとしている子供のような表情だ。
なるほど。そういう事か。だから赤津は最初に僕の家が近いか聞いて来たのか。そして自転車と聞き、不死身階段まで近いと言ったのか。
まんまと嵌められたようだった。
「わかったよ。2ケツで行こう」
「そうこなくっちゃ」
「夏休みだしな」
「そうね。夏休みだから羽を伸ばさないとさ」
「だな」
「でなきゃ、その羽じゃいつか飛べなくなるかもしれないからさ」
確かにそうかも知れない。
「自転車はどこにとめてあるの?」
「あっち」
僕がとある方向を指差した。すると赤津がいきなり僕の肘の関節辺りを掴んだ。
「行くよ」
そういい自転車置き場の方へと歩き出して行った。




