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 ④⑥


翌日の午後、言った通りお父さんが帰宅した。

昨日見た無精髭はすっかり剃られていて肌の色艶も良かった。見るからにゆっくりと休めたのがわかった。


僕は午後から少しだけ勉強をした。

その後で軽く宿題をやった。 


お父さんの仕事の後を継ぐには大学を卒業しなければならない。その為に勉強はしておかなければならなかった。


それに夏休みが終わると9月にはテストもある。クラスの中の上くらいの順位な僕だが出来ればもっと順位を上げておきたかった。そうする事でお父さんの印象も良くなると思ったからだ。印象が良くなれば夏休みが終わっても処理人の仕事を手伝わせてくれるかも知れないのだ。その為には嫌な勉強もやらなければならなかった。


夏休み初日に男を解体してから1週間、何も起こらなかった。お父さんに次の死体はいつくるの?などと聞けるわけもなく、勉強してはダラダラして又、宿題をすると言った日々を過ごしていた。


茂木には毎日1度だけLINEをしたけど、既読は付くが返信は来なかった。


たった1週間じゃフラれた傷は癒せないらしい。

飛田に茂木は大丈夫かな?と電話したら気にもかけてないようで、平気平気とあっさりと答えられた。


2人でゲーセンでも行くか?と誘ったが、どうやら飛田は夏休み初日から親の実家に帰省しているらしく無理だと断られた。


つまり茂木があんな状態だから、僕はこの夏休みは1人だという事になる。全く最低だと思った。せめて死体でも届けば気晴らしにもなるのに。そんな風な事を考えながら飛田との電話を切った。


このまま家の中でゴロゴロしているのも流石に疲れたので、映画でも観に行こうかなと思った所で、気持ちがもやついた。


この街にある映画館は2つあってその2つとも駅の反対側にある。1つは駅裏のビルの中に、もう1つは例のミニシアターだった。


つまり駅の向こう側へ行かないといけないのだ。だけどこうして時間を費やすよりはまだマシだと濃い赤のTシャツにベージュの半パンに着替えを済ませ机の引き出しを開けた。


奥に手を差し込み手斧を掴んだ。万が一の備えでタオルで包んだ手斧を持って行く事にした。自転車の鍵を持ちお母さんに出かけて来ると伝えた。


「遅くならない内に帰って来なさいよ」


「わかった」


僕は言った。リュックを背負い玄関でスニーカーを履いていると、家の中からラジオの音声が聞こえて来た。

高校野球の中継のようだった。


アナウンサーが今年は例年より少し早めの開催となったらしい事を告げている。理由まではわからなかった。


玄関を出るとお父さんがタンクトップ姿で植木に水をあげていた。背中の筋肉がやたらと発達していて肩や腕には無数の切り傷の痕があった。きっと処理人の時に出来た傷だろうか。


その傷を見て改めて当たり前の事に気がついた。それは今まで気にもしていなかったが、ごく当然の事だった。死体を処理するだけなのに、何故そのような傷が出来るのだろうか?という事だった。だがその考えが纏まる前にお父さんから声をかけられた。


「遊びに出かけるのか?」


「映画でも観てこようかなって」


「最近、上映してるもので何か面白そうな映画やってたか?」


「わかんない」


「行き当たりばったりってわけだな」


「うん」


「ネットで観れる物もあるだろ?」


「うん。だけど僕、配信系は登録してないから」


「そっか」


僕は返事をかえし自転車に鍵を差し込んだ。


「お金はあるのか?」


「映画観るくらいはあるよ」


「そうか」


お父さんはいいジョウロを地面に置いた。

そしてジーンズのポケットに手を差し込み財布を取り出した。


「これで観て来い、釣りはいらないから小遣いにでもすればいい」


と言って1万円を手渡してくれた。


「映画観るだけだからこんなにはいらないよ」


「これはバイト代だ」


「バイト?」


「そうだ。圭介に頼んだだろ?」


「あぁ!」


そこまで言われて気がついた。要する処理人の仕事をしたからという意味なのだ。僕自身、お父さんの手伝いをしてお金が貰えるとも思わなかったし、貰いたいとも思っていなかったから正直、びっくりだった。


「言われた通りにこなしてくれて随分と助かった。だから遠慮するな」


「わかった。ありがとう」


そういい渡されたお金を財布の中に閉まった。


「まぁ、最初に言っておくが毎回やれる訳じゃないからな?」


そうなんだ?と思ったが口には出さなかった。


「きっちりこなす事はわかったが、だからといって圭介はまだ手伝いの身だ。それに高校生だしな。必要以上のお金を持つのは良くない」


お父さんがジョウロに手を伸ばす。別の植木に水をやり始めた。


「うん。大丈夫」


僕は自転車にまたがった。


「行って来ます」


「あぁ行ってらっしゃい。気をつけるんだぞ」


僕ははぁーいと言葉を返した。


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