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 ④③

家に戻ると家族はまだ眠っているようだった。

着替えを持ち風呂場へと向かう。


熱いシャワー浴びると、久家綾乃との事を思い出し下半身が疼いた。初体験の相手は一生忘れる事は無いというのを聞いたことがあったけど、どうやらそれは本当の事かも知れない。


身体の隅々まで丁寧に洗った。着替えを済ませて頭を乾かすといきなり疲労感に襲われた。瞼が重くなり睡魔が僕の全身を犯しに来ているようだった。ベッに横になると、直ぐに眠りに落ちて行った。


午後過ぎに目が覚めると、異常なくらい空腹に襲われた。


部屋を出て階下に降りリビングに行くとお爺ちゃん達が楽しそうに昼の情報番組を見ていた。


「圭介、今起きたのか」


お爺ちゃんが言った。


「うん」


「せっかくの日曜日なのに昼過ぎまで寝てるなんて勿体無くないか?」


「そうだね。けど雨降りだしさ」


余りの空腹に反論するのも面倒でそう答えた。

僕は冷蔵庫から水のペットボトルを取り出しコップに注ぎ一気に飲む。


「雨はとっくに止んでるぞ」


「あ、そうなんだ」


「こんな天気の良い日なのに」


お爺ちゃんが言うと側にいたお婆ちゃんが


「お父さんに似たのよ」


とテレビを見ながらそういった。


「あいつは朝早く仕事だったり、夜勤があったりだから仕方ないだろ」


このまま話に付き合っていると僕だけ否定されそうでムカつくと思い、コップをシンクの中に置いてから洗面所に逃げ込んだ。


顔を洗い歯を磨く。身体の怠さと軽い筋肉痛があるが、気になる程度ではなかった。スッキリとまではいかないけど目は覚めた。


お母さんが僕のお昼ご飯として用意してくれていたナポリタンをレンチンして食べた。

空腹が満たされると頭が働き始めようやく今朝の事に対して深い喜びを感じる事が出来た。


水槽の中のあの鰐は久家綾乃を全部平らげただろうか?

後で見に行こうと思ったが、鍵はお父さんが持っている。施錠するのではなかったと思った。


食器を洗いながら


「ねぇお婆ちゃん、お父さん達は?」


と尋ねた。


「買い物に出かけたよ」


お婆ちゃんに話しかけたのに返事をしたのはお爺ちゃんだった。


いつもそうだけど、どうしてお爺ちゃんって、でしゃばりなのかなぁ。


僕は、「あ、そう」とだけ返した。


部屋に戻りパジャマからTシャツとハーフパンツに履き替える。


扇風機だけでは暑過ぎて、クーラーをつけた。ベッドに横になりスマホでTikTokを見る。音楽に合わせて踊っている女の子だけ見ては次々とスワイプして行く。


見ながらこの女の子は足首から切断したいとか、指を1本ずつ鋏で切り落としてみたいとか、出てくる女の子全員が僕の中では今すぐ死体になって欲しい存在だった。


だからといって生きた女の子が嫌いなわけじゃなかった。耳元で吐く息を感じたいし、目と目で見つめ合いながは舌を絡ませたかった。


その為には彼女を作る必要がある。決してイケメンで高身長ではない僕に彼女が出来るかはわからないが、だからといって彼女になってくれるなら誰でもいいというわけでもなかった。


つまり死体で運び込まれるまで気づいていなかったけど、久家綾乃は僕には特別な存在だった。


その特別な存在と生前中にエッチが出来なかったのは残念だけれど、今はそれ以上の満足感が僕の中で満たされていた。


にしてもどうして久家綾乃は殺されなければならなかったのか。小屋に入れれば多分、久家綾乃の書類がある筈だから、殺された理由もそこに書かれている筈だ。


けどきっと今は中に入ることは出来ない。仕方ないから買い物から帰って来たらその事をお父さんに聞いてみる事にした。


夕方、茂木から電話がありボーリングに誘われたけど、断った。


「今から出るのは面倒くさいよ」


と僕が言った。


「何だよ。ジジイじゃないんだからさぁ」


「面倒くさいのはジジイに限ったわけじゃないだろ」


「そうだけどさぁ。せっかく斉藤こだまと小野夢子も来るってのに」


「そうなんだ?つか、いつの間に斉藤と小野と電話する仲になったんだよ」


「クラスのそこそこ可愛い女子のラインくらい知ってるのは常識だけど?」


茂木は勝ち誇ったような口調でそう言った。


僕は返事をしながら2人のクラスの女子の姿を思い浮かべた。この2人がお父さんの会社の人の手にかかり殺される可能性はあるのだろうか?話している限り、悪い人間じゃない。だからその確率は限りなく低いだろうなと思った。


「そうだよ」


「でも、今日はもういいや」


「圭介付き合い悪りーなぁ。あ、もしかして貧乏だからか?」


笑いながら茂木が言った。


「うっせーよ もう切るからな」


「はいはい。わかったよ。また明日な」


「あぁ。明日な」


「バイブー」


バイビーをバイブに言い換えただけのつまらない言葉に僕はそのまま黙って電話を切った。


夕方、車が戻って来た音がして、部屋から顔を覗かせ駐車場を眺めた。運転席から降りて来たのはお父さんではなくお母さんだった。


後部座席に数個の買い物袋が目に入ったので、僕は部屋を出て駐車場に向かった。


食品の入った袋を2つ受け取る。1つを地面に置いて残りの1つを受け取った。その間、お母さんは再び車に乗り込んで車庫に向かって動かし始めた。そのトランクには朝方、久家綾乃が積まれ運ばれて来た。きっとお母さんはそれを知らない筈だ。もし知ったらどう思うだろう?


旦那と息子が死体を解体しているなんて聞いたら気を失うのではないか。それとも、それを知っててこの生活を続けているとしたら、それはそれで凄いと思った。


夫婦というのは、ただの共犯者じゃないという事になる。そう考えると、じわじわと汗が滲んで来る。恐れから来る汗ではなく、羨望により心を突き動かされた事による汗だった。


「暑いから先に戻ってれは良かったのに」


「あ、うん。大丈夫だよ」


そう言っている間にも汗は全身から吹き出して来る。


僕はお母さんが袋を持ち上げるのを見て歩き出した。


「お父さんは?」


「買い物して駅地下から出たら会社から連絡があって、そのまま仕事にいっちゃった」


その言い方にお母さんなりのお父さんに対する愛情が垣間見えた気がした。確かにお父さんはずっと家にいる時もあれば、今日みたくいきなり仕事に出かける時もある。


お母さんとしては2人きりになるのは何処かに出かけるか、買い物に行く時くらいだから、今日みたいにな日はデート気分だったのかも知れない。だから少しだけ寂しそうな言い方になったのだろう。


全てじゃないけど少なからずお父さんの仕事内容を知っている僕からすれば、お母さんは本当のお父さんの姿は知らないと感じた。そして新たにその世界へと足を踏み入れたお母さんの1人息子として、本当、お母さんにはごめんなさいという感じだった。


結局、その日の内にお父さんが帰ってくる事はなかった。朝早く起きてみたけどまだ戻ってはいなかった。

仕方なく学校に行く支度を済ませて朝食を食べた。


校門の所で茂木と鉢合わせたのが運の尽きだった。茂木は教室に着くまで延々と昨夕のボーリングの話をし続けた。


「圭介も来れば良かったのに、なんて事は言わない」


「散々誘ったくせに何だよそれ?」


「理由が知りたい?知りたいだろ?」


「いや別にいいよ」


「そう言わずに聞けよ」


茂木が僕の身体に腕を回した。


「何だよ」


「誰にも言うなよ?」


「あぁ」


「斉藤も小野も俺のことが好きみたいだわ」


僕は吹き出して笑った


「どういう理由でそう思えるのか、お前のイカれたその頭と自信過剰な心を知りたいね」


「感覚だよ感覚、圭介もその場にいたら俺の言いたい事がわかったと思うんだよなぁ」


茂木の話だと会話の数やボディタッチの回数が一緒に行った飛田よりずば抜けて多かったらしい。


「それだけ?」


「それだけって何だよ?高校生が好きな男子にアピールするのはそれしかないだろ?」


「友達同士なら話もするし、多少のボディタッチくらいは日常的にあるじゃん」


「それが違うんだよ」


「どう違うんだ?」


順番待ちしてる時に隣りに斉藤が座ってだんだけどな」


「うん」


「俺の手に触れてるのに離そうとしなかった」


「今時、それくらい気にしないんじゃないか?斉藤はあんな風だし」


斉藤こだまは明るい性格でよく喋りよく笑う女の子だった。下ネタにも寛容でしっかり返しもしてくるような生徒だ。だから触れたくらいどうって事はないと僕は思っていた。


「馬鹿、学校で俺が斉藤に肩パンしたりした時、アイツは汚ねーって払ったりするんだぞ?そんな奴なのに昨日はさ」


そこまで茂木が言った時、背後からいきなり飛田が抱きついて来た。


「おっはよー」


2人で振り向いた。挨拶を交わした。


「ビビらせんなって」


茂木が言うと飛田はトイレ行くから又、後でなといい、そちらへと向かって行った。


「というわけだよ」


茂木の話は、かなりシチュエーションに左右されている気がしたが、それは言わなかった。


「だからさ。斉藤は俺が好きなんじゃないかなって思うわけさ」


「小野はどうなった?」


「今は多分、私、茂木君が好きかも?って感じだと思う」


おめでたい奴だなと僕は思った。


「けど斉藤の俺に対するアピールで、きっと斉藤は自分の気持ちに気づいたと俺は睨んでるよ」


いい加減聞き飽きたなと思い始めた頃、ようやく教室に辿り着いた。


「これって斉藤に告った方が良くね?」


「そうかもな」


うわついた茂木の気持ちを適当にあしらってから僕は自分の席へと向かっていった。


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