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 ③⑨

多摩川で見つかった水死体は殺人事件として捜査されるという。


そのニュースを知ったのは翌日の帰宅途中の電車の中でだった。乗り降りドアの上にある電光掲示板にそのニュースが流れて来たのだ。


「やっぱそうだよな」


飛田が茂木に向かって言った。


「腐乱するまで見つからなかった時点で俺は殺人だと分かってだけどね」


まるで犯人を言い当てた名探偵のように胸を張る茂木に思わず吹き出しそうになる。


僕は天才かよと茂木を茶化しながら、詳細が知りたいと考えていた。事件は事件で構わなかった。


ただ直接の死因が知りたかった。捨てたのは奴の仲間達だとしてもあの面子からしてその道のプロとは到底思えないし、いざ、自分の身に捜査の手が伸びて来たら

奴等はミニシアターで起こした事について簡単に口を割るだろう。


何故なら奴等が繋がっている理由はただ一つ、男の身体だと思うからだ。その身体を集団で犯す事に快感を得てるだけで、やってもいない殺人で疑われるくらいなら平気であの日の事をチクるのは目に見えている。


殺人で捕まるよりはレイプや死体遺棄で捕まる方がまだマジだからだ。もしそうなれば芋づる式に僕の存在も気づかれてしまう。そんなのは全くもって勘弁だった。


レイプされた事も、自身の身を守る為に突発的にやってしまったとはいえ殺人を犯した事も、あいつら以外に知られたくないし、何より捕まりたくなかった。


とはいえ、まだあの水死体がアイツだと決まったわけではない。それに身元が判明したとしても顔写真が公開されなければ僕に分かりようがないのだ。だから判断材料として、直接の死因が何なのか知りたかった。


「夏休みどっか行く予定とかあんの?」


吊り革を2つ占領し、電車の揺れに身を任せている茂木がそう言ってきた。


「家族でママの実家に帰るくらいかなぁ」


飛田が言った。


「母ちゃんの事、ママって呼んでんだ?」


ニヤニヤしながら茂木が言った。僕もその事にツッコミたかったが、茂木に先を越されてしまった形となった。


飛田とはまだ数ヶ月の付き合いだけど、本人の口からママという言葉を聞くまで、飛田が家族の事をどう呼んでいるかなんて気にもかけていなかった。


けどママと聞いた途端、急に飛田家の家族構成を知りたくなった。実際、飛田がママと言わなかったらこいつの家族の事は何一つ知らないままでいたかも知れないのだ。


事実、僕は飛田の家にも茂木の家にも1度も家に遊びに行った事もないわけだ。まぁだからといって特別知る必要もないのだけど、イジりたいという欲求も含めこれを機に色々と聞いてみるのも面白いかも知れないと僕は思った。


「普通ママじゃね?」


飛田がいう。


両手で掴んでいた吊り革の一つから手を離し、茂木は飛田に向き直る。


「母ちゃんだろ」


「圭介は?」


「お母さんだよ」


「上級国民家庭かよ」


茂木がいう。


「そうだよ?知らなかった?」


「それなら悪いことやっても大丈夫だな」


飛田がいい、俺がもし何かやらかしたら、助けてくれよな?と笑った。


「あぁ。良いよ。けど高いよ?」


「友達から金取るのかよ!」


飛田が突っ込んで来る。


「当たり前じゃん。罪を軽くする為に裏から手を回すんだからさ。タダってわけにはいかないさ」


「そりゃそうだ」


茂木がいい、ドアの前に移動する。


「今日は1度も負ける気がしねえ」


茂木がオンラインレーシングゲームの事を言い出した。


「それを言うなら1度も勝てる気がしねぇだろ?」


飛田がからかうと茂木は拳を振り上げ殴る真似をした。


いつも通っているゲーセンがある駅につくと僕らはドアが開くなり飛び出した。


階段を駆け下りる。早くいかないと他人に取られてる可能性が高いからだ。


とはいえ走った所で他の人がやってたら身も蓋もないのだけど、いつからか僕らはゲーセンまで走って競争するようになっていたのだ。


小学生の頃、野球をやっていた僕だけど、敵チームにいたこの2人にはいつも勝てなかった。まぁ僕自身、足が速いとは自負してないし、出来るほど早くはないが、やはりこの2人に負けるのは嬉しい腹立たしさがあった。


「今日もビリっけつだな」


切れかけた息を整いながら飛田がいった。


「圭介はいつも勝てないから、今日からビリー圭介って呼ぶか?」


茂木が言った。


「ビリだからビリー?つまらねー親父ギャグ言うなよ」


ビリー圭介が満更でも無さそうに笑みを浮かべる顔を見ながら飛田がいった。僕は2人を見た後、ニヤリと笑いレーシングゲームの所に駆け出した。


「あ、汚ったね!」


茂木が言うが時すでに遅かった。レーシングゲームは4台共大学生らしき人が占領していた。


小銭を積み上げている所を見ると、今日は出来そうにない。僕は追いかけて来た2人に向かって顔を振った。


「仕方ないからUFOキャッチャーでもする?」


「だな」


茂木は残念そうに肩を落とした。


飛田の家は4人家族で、中2の妹と2人兄妹らしかった。茂木が名前を尋ねると、中学校で待ち伏せしそうだから言わないと飛田が言った。


しつこく尋ねる茂木に辟易した飛田が、


「ロリコン野朗に教えるわけないだろ!」


っと少しばかり語気を強め突っぱねた。


「俺はロリコンじゃねーからな。どちらかと言えば歳上好きだ。熟女好きってまではいかないけど、マストな年齢は40前半だな」


「めちゃくちゃ熟女好きじゃねーかよ!」


飛田がツッコんだ。


「だから、お前の妹なんかに興味はねー」


「けどさ。飛田って苗字って珍しいから探せば直ぐ見つかるよな」


僕が言った。


「探すな探すな」


飛田のお父さんとお母さんは2人して大型のトラック運転手をしているそうだ。


意外だった。どちらかといえば、茂木のお父さんの方がトラック運転手をやってるといわれた方が納得が行く。


でも茂木のお父さんは銀行員らしかった。とても茂木に銀行員のお父さんがいるなんてイメージ出来やしない。


茂木は3人兄妹の次男で、お兄さんとは10歳離れていた。妹はまだ幼稚園児らしい。

3人ともかなり歳が離れているのには何かしらの理由があるのだろうか。そう勘ぐりたくなる年の離れ方だった。


「知らねーよ。そんな事、わざわざ親に聞いたりしないからな」


適当なゲームをしながら、時間を見ながらレーシングゲームの所まで見に行った。小銭を積み上げていただけあって未だに占領されていた。


「今日はもう出来そうにないな」


僕が言った。


「そうだな」


しばらく辺りをふらついた後、僕は2人と別れた。電車に乗り一旦家に帰ると私服に着替えた。


自転車にまたがり例のミニシアターのある駅の反対側へ向かった。


100均ショップでサングラスを買い、それをかけ駅裏に向かった。自転車を止めて寂れた商店街を歩く。


ミニシアターに近づくにつれ鼓動が速くなっていく。

心臓が膨張していくような息苦しさを感じる。

今にも膨らんで破裂しそうだった。


ミニシアターの入り口にある下りの階段をチラ見した。看板は出ているからどうやら営業はしているらしかった。


足が震え出し、あの日、僕の身に起こった事が蘇る。

記憶は高速で早送りされているみたいに速かった。


その映像がまるで目の中に映写機があるかのように僕に見せつけて来た。


吐き気を催し僕は足早にそこを通り過ぎて行った。

やっぱり中には入る事も入る勇気も出なかった。


実際、入ったら僕はあの店主に捕まってしまうかも知れないのだ。そんな危険性があるのに、僕はどうしてこの場所に来たのか?自分でも説明出来なかった。


僕は前だけを見て真っ直ぐに歩を進めた。かなりの離れた距離になってようやく一息ついて、そしてわざわざ遠回りして自転車を置いた場所まで戻って行った。


自転車に跨り、なんて愚かな行為だったんだと思った。奴等に見つからない保証は何処にもないし、ひょっとしたら警察だっているかも知れなかったのだ。


まぁ実際、腐乱死体が僕が殺した奴だとしても、昨日の今日で警察がミニシアターまで辿り着くというのはあり得ない。


けど、これから先の未来には充分にあり得る事だ。僕はサングラスを外しポケットに押し込んだ。


自転車を漕ぎながら、自分自身に釘を刺す。


今後ミニシアターに行くような事があるのなら、あの日の事を知っている全員を殺す覚悟で行かなければならない。


僕は自転車のハンドルを握りしめながらそう思った。


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