③⑦
多摩川で水死体が発見されたニュースを知ったのは、教室の掃除を終え箒を片付けている時だった。
先に掃除用具を片付け終えていた片山という生徒がスマホでその事件のニュースを知ったらしい。
「多摩川で男性の水死体が発見されたってさ」
「えー。やだぁ。そんな話しないでよ」
学級委員長の板内が心底、嫌そうな顔で片山に言う。
「めちゃくちゃ腐乱してるらしいよ」
片山は何故か好きな子を苛めてしまう小学生のように板内を見ながら言った。顔が少しニヤている。
「死体遺棄事件として捜査を始めるらしいってさ」
片山の話を聞いてスマホで調べたのか脇坂というサッカー部の男が言った。言葉を続けた。
「でもさぁ。腐乱してたって事はさ、ずっと水の中にいたのかな?それともどっかで捨てられて多摩川まで流れて来て、ようやく見つかったとか?」
「流れて来たはないでしょ」
板内とは違ってこの手のニュースは全然平気という雰囲気を醸し出しながら長谷が言う。
普段から口数が少ない女子なのに、こんな話に食いつくという事は、この手のニュースや事件などに興味があるのかも知れない。
「何でだよ」
脇坂が長谷の言葉に食いついた。
「そんなの誰かしらの目につくからに決まってんじゃん」
「四六時中、川を眺めてる暇人なんていねーよ」
「そういう老人とか沢山居るでしょ」
長谷の言葉に思う所があったのか、脇坂が、「あっ」と言った。
「まぁ、言われてみれば、確かに眺めている年寄りとかはいるけどさ」
「釣りだってしてる人もいるかもだし」
リュックを背負いながら僕が言った。
「うん。そうね 後さ、川沿いならランニングやウォーキングしてる人だっているんじゃない?それなら腐乱する前に見つかるんじゃない?腐るまで流れて来るってのは考え難いと思うんだけどなぁ」
そう話す長谷の目が一瞬光を帯びた。そう言えば長谷はお昼休みなんか良く1人静かに文庫本を読んでいる事が多い気がする。ミステリー小説などが好きなのかも知れない。
長谷は耳たぶを触りながら上目遣いになった。
自分なりの推理を頭の中で展開しているのだろうと僕は思った。
「沈められてたとか?」
長谷が言った。
「あ、それ、あり得そう」
再び片山が会話の輪に入って来た。整頓したばかりの机の上に手を置いてジャンプした。
片山が机に座った瞬間、並べた机の位置が大きくずれる。脚が床に擦れ嫌な音が教室内に響いた。
「自分で直しなさいよ」
学級委員長の板内がいい、先に帰るねーと手を振った。
「バイバ〜イ。また明日ね」
長谷が手を振りかえした。
「沈められていたとしたらさ、それは絶対殺人事件だよな?」
脇坂が言った。
「だとしたら多摩川って相当、深くないと駄目だよな」
片山が言う。
「身体中に何かしらの重石を沢山つけてればそんなに深くない川でもそうそう浮かんで来ないんじゃない?知らないけど」
「どうなんだろうね」
僕が言った。
「片山、お前、実験してみろよ」
脇坂が笑いながらそう言った。
「そういうお前がやってみればいいだろ」
「俺も嫌だよ。自分がやるのは嫌だから誰かにやってみて欲しいんだし」
「なら言い出しっぺの長谷がやれば良くね?」
「何でよ。ていうかどうしてそういう話の流れになるわけ?馬鹿っじゃないの?こういうのは想像したり、推理するのが楽しいんだからね?それを実際にやろうってするのは頭がおかしい奴だから」
長谷はいい、自分の席の椅子をしまいリュックの中を確認する。それを背負った。
「私、帰るからね」
「おぉ。またな」
脇坂がいい
「あーめんどくせーけど、そろそろ部活に顔出してくるわ」
「行きたくないんだろ?」
片山が脇坂を茶化した。
「まぁな。ウザい先輩がいるからさー。てか、お前、っせーよ」
といい長谷の後に続いて教室から出て行った。
「仲野部は?」
「帰るよ」
「そっか」
片山はどこか寂しそうにそう言った。
「じゃあな」
「あぁ。うん。バイバイ」
教室を出る前、チラッと片山の方を見た。
片山は机に座ったまま校庭の方を眺めている。
校庭では多くの運動部が所狭しと入り乱れていた。
サッカー部の連中は校庭をランニングの最中だった。
バレー部と被っているが、サッカー部は右回りでバレー部は左回りに校庭をランニングしていた。遅れて参加する脇坂はこの後1人で、ランニングをやらされるのだろう。
僕は下駄箱で靴を履き替え校舎を後にした。
茂木や飛田は帰り際に今日も又、ゲーセンに行っているからなと僕に言った。
行くべきか止めるべきか。財布を取り出し中身を確認する。しばらくは止めておこうと思った。




