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 ③⑥

最近よく茂木や飛田に突っ込まれる事がある。

それは僕の記憶の事だった。


一緒に遊んだ日や曜日、場所を良く間違えて覚えているらしかった。


2人がいうにはそれは自分の都合の良いように無意識に記憶をすり替え、上書きをしているらしい。


遊んだ日や場所を別な形で記憶したからって何の得もないだろう?ただの勘違いに過ぎないよと言い返したが2人は



「だとしても多すぎる」


と言った。


「他にも思い当たる節があるんじゃないのか?」


そう言われてパッと思い出せるわけがない。


僕自身はそれが正しいと思っているからだ。


けど、考える僕をみて


「思い当たる節があったな?」


茂木が冷やかすようにいい


「だから俺らの言ってる事があってんだって」


飛田が座っている僕の背後にまわり肩を揉みながら言った。


「無いよ。それに飛田、痛いよ」


僕が言うのと同時にチャイムが鳴る。


4時限目が始まる為に2人は自分の席に戻っていった。


最近は中々授業に身が入らなかった。集中出来ないわけではなく、1時間の授業の中でふと気が抜ける時間帯があった。そんな時は必ずあの日の朝の会話を思い出してしまう。


何故お父さんは死体の処理なんかしているのだろう?とかそんな事をしてたら家族に迷惑がかかると考えないのかな?とか、そのような事を考えてしまっていた。


1番わからなかったのは不幸になる人を放っておけないと言った所だった。むしろ死体を鰐に食わしているのだから、どうしても人を不幸にしてるのはお父さんの方じゃないか?と思ってしまう。


でも、処理される死体があるという事はきっと殺された人なのだろうというのは、容易に想像出来た。だから見つかるわけにはいかず跡形もなく消す必要が、あるのだろうと。


でも、殺された人にも家族や友人、恋人だっているかも知れない。その人達の前から居なくなったら、残した人を不幸にしてるのと同じじゃないか?。


と思い出したら、止まらなくなりチャイムが鳴って4時限目の授業が終わった。


3人集まって昼食を食べ終えるとベランダに出て戯れあっていた。そこに斉藤こだまと小野夢子がやって来た。茂木と飛田の2人に斉藤こだまがちょっかいをかける。


「あんたらいっつも一緒にいるけどさぁ。

ガチで、ゲイなんじゃないの?」


「そういうならお前らはレズじゃん」


「夢子は好きな子がいるし」


「マジか!」


僕を含めた3人の男子が同時に声を上げた。


「んなの当たり前じゃん?高校に入って半年近く経つんだよ?好きな子くらい出来るのが普通でしょ」


「そういう斉藤はいんのかよ?」


飛田がいう。


「何が?」


「好きな奴に決まってるだろ」


「そりゃいるわよ」


「いるんだ?」


茂木が言った。


「誰そいつ、もしかしてうちのクラスの中にいるとか?」


「馬鹿?あんたらに教えるわけないでしょ」


「そう言わずにさぁ。なぁ斉藤、誰にも言わないから。な?教えろよ」


茂木が言った。


「まぁ。そこまで言うなら教えてあげなくもないけど…」


「ないけど、何?」


「先にあんたら全員が教えてくれたらいいわよ」


飛田が2次元キャラをいい、茂木は乃木坂46の与田祐希の名前を上げた。


「飛田、テメーそういうのじゃねーつうの」


斉藤こだまが僕に同意を求めた。僕は頷いた。


「いいじゃねーよ。マジ好きなんだから な?」


茂木と飛田が言ってやったぜ!と言わんばかりに互いを見合いハイタッチをした。


呆れた斉藤が首を振る。僕の方を見た。


「仲野部は?」


斉藤こだまが2人から僕にターゲットを変えたらしかった。


「んー」


「茂木はまだわかるとして、まさか仲野部も飛田みたいな事言わないよね?」


「あはは。言わない言わない。アニメもそんな見ないし、YouTubeは見るけどVtuberとかも見たことないし」


「アイドルとかは?」


「見ないよ」


「乃木坂46とか可愛い子居るでしょ?そういうのも興味なし?」


「ない」


「与田ちゃんが、いるだろ!」


茂木が納得しかねるという風に腕組みをした。


「推しは?」


茂木が続けた。


「アイドルとかに興味ないんだから、推しがいるわけないじゃん」


「ならさ、いきなり仲野部の事が好きです付き合って下さいって女の子が来たら付き合う?」


斉藤こだまが割って入った。


「んーどうかなぁ。正直わからないかな」


「どうして?」


「付き合うとかよくわからないってのが、本音」


「お前エッチしたくないの?」


今度は茂木が割り込んできた。


「付き合ってて言われたら誰だろうと付き合うんだって。んで童貞を捨てて自慢するのが高校男子の使命じゃね?」


「でもさ、圭介や俺もそうだけど、もし彼女が出来たらお前と一緒にゲーセンに行く回数は確実に減ると思うぞ」


飛田が言った。


「え?マジで?」


茂木が不安げな顔で言った。


「マジ」


僕と飛田がハモった。


「待って、待って。それはちょっと嫌だわ」


茂木が真剣な面持ちで言う。


そんな茂木の真面目な姿を見た全員が、茂木を見て笑い出した。


指差しながら馬鹿みたいに笑っていると、ふと頭の中にある記憶が蘇った。


フラッシュバックするそれは僕らの笑いの渦の中に巻き込まれながら、僕の心を捉えた。


記憶は直ぐに当時の世界へと僕の心を誘った。少しずつ周りの皆んなの笑いの声が小さくなっていく。フェードアウトして行っているようだった。


茂木と飛田が抱き合いながら何か言ってるが内容までは聞き取れない。斉藤こだまと小野夢子も手を叩きながら笑い、抱き合う2人を囃し立てている。僕の身体は学校のベランダにいて、僕の心は当時の中学校の屋上にあった。


あの日は確か何かしらで学校に遅刻したから次の授業まで時間を潰そうと屋上へ向かい、そこで久家綾乃と出会ったのだ。


陽の光が久家綾乃を纏い全身から煌めきを放っていた。あの瞬間に僕は久家綾乃に恋をしたのだ。


飛田が茂木を突き放す。茂木が冷たくしないでよ!と女の子みたいに言い、また抱きつこうとする。


斉藤こだまはお腹を抱えて笑っている。笑っていた小野夢子が僕の肩を叩く。こちらを向いた。僕を見ながらまるで不思議なものを見つけた時のように首を傾げた。顔の前に手を翳し左右に動かした。


「仲野部君?ねぇ仲野部君?」


「あ、あ、ん?何?」


「大丈夫?」


「何が?」


久家綾乃の記憶が穏やかな午後の風になびいて霧散して行く。


「変な方見てたから」


「そんな、事ないよ。つか茂木って本当馬鹿だよね」


僕は戯れる2人を指した。


小野夢子が僕を見つめながらゆっくりと頷く。


「だよね」


まだ微かに不安げな表情を残しながら小野夢子は僕に向かってそう言った。



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