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 ⑦


2時間サスペンスドラマのように現実は次々と殺人事件が起こるわけではない。


勿論、連続殺人事件もそうだ。


同一犯の犯罪となれば、やはり詐欺事件が圧倒的に多かった。

騙された被害者には、多少なり同情はするが命があるだけで良かったじゃないか、と泡沢は思ったりもする。


勿論、騙された人の中にはそのお金を失った事で、命を失うと同様な苦しみを味わい、生活苦に陥れられてしまったような人もいるだろう。


けれども殺害される事よりは寿命が伸びたのは間違いない。


まぁ、だとしても詐欺被害にあう殆どの人間が高齢者だから働いて稼ぐ事も出来ず、微々たる年金生活では生きていくのもやっとの状況というのは分かっているつもりだった。


そんな詐欺事件が多発する中、泡沢が所属する部署では、数名が詐欺事件に駆り出されていた。

その中の1人が同期の木下だった。


木下とは特別、仲が良いという訳ではなかった。


同期というだけで、周りがライバル同士だと煽り立て囃し立ててはいたが、泡沢自身は一度もライバルなどと思った事はなかった。


どちらかというと手柄は誰があげても同じだし、事件が解決すれば良いと思っていた。


しかし、いつしか現場に出向くようになってからは、

むしろいきなり勃起してしまう自分を蔑んだりしていた。


自分はひょっとしたらネクロフィリアな性癖があるのかもしれないと考える事もしばしばあった。


だが、場数を踏んでいくにつれ、勃起する理由に気づき出すと、手柄あげる、あげたいと執着し始めたのは事実だった。


おかげで部署内での泡沢の立場は鰻登りとなった。

勿論、署内の評価も木下との差は開く一方であった。

歴然となったこの差は、警部を含め誰もが2人をライバル同士だとだと言わなくなった理由でもある。


そんな蚊帳の外に放り出されたような木下が詐欺事件へと駆り出されたのは仕方のない事だろう。


田町京太郎刺殺事件の合間に起きた絞殺事件でのとある出来事が警部を呆れさせたとの噂も耳にした。


その後については木下自身も反省はしていたものの、それでもやっぱり最後はこう付け加えるのだった。


「いや、泡沢、マジだって。あのガイシャ、むちゃくちゃチンポがデカかったんだよ 俺もなー。あんなデカいチンポを持った人生を送ってみたかったよ」


こんな調子だから木下は絞殺事件からも外される目にあったのだ。


だがそれは仕方がない。


自業自得というものだけど、そのせいでか木下がいない刑事課はどことなしか静かだった。


事件が起きてないというのもあるが、お馬鹿なキャラが1人いないだけで、こうも雰囲気が変わるとは…1人1人に覇気がない訳ではないのだけど、自分も含め誰もが刑事としての鋭敏な感覚が薄れて来ているようだと泡沢は思った。


こんな時こそ、事件が欲しかった。実際は起こらないに越した事はないのだけど、刑事として生きている以上、やはり事件は必要であった。


木下が外された絞殺事件も直ぐにホシは上げられてしまった為に、手持ち無沙汰は否めなかった。


半グレでもヤクザでも一般市民のいざこざからの殺害でも何でもいい。とにかくチンポの事もあるから、泡沢は出来るだけ早く殺人事件に、その現場に立ち会いたかった。


ひょっとしたら、2度と反応しないかもしれないのだ。そのような恐れがある今は特に現場へ臨場したかった。


でなければ泡沢の刑事としての立場を揺るがすものに成りかねないからだ。もしそうなってしまえば普通の刑事として頑張るだけだ。本来、勃起する方が異常なのだから。


泡沢は警部や他の仲間に挨拶をして自分のデスクに座った。


「今日は所長出勤じゃねーか」警部が嫌味をいう。


「すいません。朝から体調が優れず病院に行っていました」


「風邪か?」


「風邪じゃないみたいです」


「まさか、コロナじゃねーだろうな?」


先輩刑事の三田が続く。


「熱はないので、それも違うと思います。こんな時期なので、一応検査も受けときました」


「それならいいが、だが病院行くなら行くと連絡ぐらいして来い」


当たり前の事だが、泡沢はそんな気分になれなかったのだ。


事実、病院にも行ってはいない。寝起きから、桜井真緒子の事を思って3回もシコってしまったのだ。


中学生かよ!と自分にツッコミながら、勃起が治らないせいで4回目に突入したが、流石に4回目は途中で萎えてしまった。桜井真緒子のあのいやらしい表情が上手く思い出せなくなってしまったからだった。泡沢はその後しばらくの間、睡眠を取ってから出勤したのだった。


「すいませんでした」


「昨日、今日からウチに配属される新人の古玉くんが来るからと言っただろ」


「そうでしたね」


「今はちょっと席を外してるが、直ぐ戻ってくるから、しっかり挨拶するんだぞ?いいな?」


「はい。わかりました」


古玉珠世(こだまたまよ)。彼女は春に交通課に配属された新人のくせに秋にはいきなり刑事課へ異例の抜擢。


親のコネか?もしくは親戚が力のある奴なのだろうか。どちらにしても、こんな異例な事はない。


何かしら裏があるに決まっている。泡沢はそれとなく隣の席の島木さんに小声で尋ねてみた。


「あぁ。何でも偶然、取り締まり最中に、強盗を捕らえたり、窃盗団のヤサを見つけたり、とにかく春から手柄を立てまくったらしいぞ。それで、本人希望の刑事課に配属される事になったみたいだ」


「そんな奴いるんですね」


「女だからって馬鹿には出来ないってわけよ」


「でも、古玉さんの両親も何考えてるんですかね」


「どういう意味だ?」


「いえ、苗字が古玉で、タマがついてるのに、名前にまで珠世ってタマ付ける事はないでしょう。続けて読んだらタマタマになっちゃうし」


「キンタマ繋がりで案外、仲良く出来るんじゃねーか?」


島木がいう。


すると後ろからいきなり


「私のタマは、キンタマのタマではありません。強いて言えばタマタマ、つまり偶然、て方のタマタマですかね」


2人が振り返ると満面な笑みの古玉珠世が勃って、いや、立っていた。


「初めまして。泡沢さんですよね?お噂はかねがね伺っておりますよ」


「あ、あーそうですか…」


「ま、その噂はおいおい聞かせて頂きますが、とりあえず先ずご挨拶をさせて頂きます」


古玉珠世はいい深呼吸をした。


「今日から刑事課に配属されました古玉珠世です。よろしくお願いします。交通課では乳首の珠世、ダブニプ、ブルっと乳首などと呼ばれておりました!ですが刑事となった今、私に合うニックネームがあれば、是非、勃起の泡沢さんにつけて頂きたきたいと思っておりますので、何卒よろしくお願い致します」


泡沢は古玉珠世の笑みを見返した後、乳首へと視線を落とした。瞬間、


「セクハラかよー!」と一閃、古玉珠世から強烈なビンタを喰らう羽目になった。


それをみた瞬間、部署内は笑いの渦に包まれていった。


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