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 ②⑧

結局、ラピッドへの私の依頼は引き伸ばすだけ引き伸ばされ、挙句、自ら命を絶つという形で、ひとまずは幕を下ろした。


何故こうも引き伸ばされたのか、私には理解出来ず会社へ問い詰めたが、詳細は答えて貰えなかった。


もしかすると、会社が新任のシェフに任せてしまい、当人が怖気付き実行出来なかったのかも知れない。


私は少なからず憤慨していたが、室浜家の奥さんが死んだ事で妻も安堵し、精神的にも安定して来ていたので、とりあえず自殺により実行不可という結果を受け入れる事にした。


旦那や将来的には要君の殺害も行わなければならないと考えてはいたものの、現時点での私はその事についてどうでも良くなっていたし、会社からも完了という説明をされた以上、より深くは問い詰めなかった。


私自身、要君や旦那には何の恨みもなかったから、同時期にその2人が殺されていたら決して良い気分にはなれなかっただろう。


そのような連絡を受けてしばらく経ったある日、鰐を受け取った時に会った娘のいった事が現実となり始めた。


鰐の受け渡しが終わって数日後から異常な程の繁忙を極めだしたのだ。


その頃、私は処理人としての作業をし始めたばかりであったのにも関わらず、あの娘の仕業か、会社からかなりの処理の依頼を受けさせられた。


私は殺害にはそこそこ慣れてはいたが、人体の解体に関しては全くの無知であり、ずぶの素人だった。


だが、娘の言った通り、処理人の絶対的人数が足らない為に、仕方なく私がこなす他なかったようだ。


せめて解体した人体を運び込んで貰えれば、後は鰐が処理してくれるので、依頼主や同業者には解体するようお願いしたが、それを行う為の時間や場所に労力を割くのは危険が伴うとして、誰1人としてやってくれる者はいなかった。


私も同業者故にその気持ちは充分わかっているつもりだった。だが、処理人としての私は全くの素人なのだ。


将来的な事を考えいつかは処理人に移行するつもりでいたので、解体する為に必要な道具はある程度は揃えてあるものの、やはり手解きは欲しかった。


それを会社にお願いするも、人員不足だと一蹴されてしまった。

仕事となれば先ず他県へ死体を受け取りに行かねばならない。つまり出張となるのだ。中には処理を依頼して来たものの、車両の用意や、道路情報、つまりその土地のメイン道路の工事日程などの情報を全く理解していない依頼主も増え始め、細心の注意を払っても払い足りないくらい、慎重に仕事をしなければならない事もしばしばあると会社から聞かされていた。


それに加え新たに追加として、他県から運び込まれ来る死体の処理をしなくてならない事もあるという。つまり死体を乗せたまま、又、別な土地へ死体を引き取りに行けというのだ。とてもじゃないがこなせやしない。


だが会社は私を処理人として育てる為の人材を派遣する事は出来ないと言った。


会社は


「鰐に食わせるだけだろ?何の練習の必要がある?」


と言い放ちそこで電話は切られた。幾ら鰐がいるとはいえ、そのまま食べさせるわけにはいかない。


あの新潟の処理人の方もそう言っていたのだ。それに全くの素人がいざ人体を解体するとなればどれだけ時間がかかるか想像出来なかった。


私の小屋は防音性が高いわけでもない。出来れば機械工具は使いたくなかった。その理由は息子の圭介にある。


もうすぐで中学生になる息子は最近、頻繁に私の仕事場を覗こうとしていた。そんな所に機械音を立てでもしたら、より息子の好奇心を掻き立てるだけだ。


だからとりあえずは数本購入していたノコギリで死体は処理しなくてならない。人一人の身体を解体するのに一体、どれほどの時間がかかるのか想像も出来ないがとにかく、呑気にしている場合ではない。


初めてだからといって誰も助けてはくれないのだ。


だからやるしかなかった。何故なら既に4体もの死体の処理の依頼が来ていたからだ。


この時はさすがによくもまぁ、こんなにも殺さなければならない奴と、そいつを殺したい奴ら、そして殺される奴らがいるものだと思ったものだった。


暴れないという点では殺害するより、処理する方が楽かも知れないなと、横一列に並べた男女含めた4人の絞殺死体を眺めながらそのように思った。新潟のあの処理人の方の言いつけ通りに全員をバラす事から始める事にした。


最初は身体の1番小さい女子高生を選んだ。

この子が運び込まれた時、私は何故こんな若い子が殺されなければならなかった、その理由を尋ねようとして、止めた。


何故ならそこにどんな理由があったにしろ、会社が処分を決めたのだ。つまり、このまま生かしておいても周りに迷惑をかけ社会にも悪影響を与えるからという理由があるのだ。


この女子高生が誰に何をしでかし、目をつけられたのかは私が知る必要のない事項なのだ。


私は上下ジャージで身を包んだ女子高生の頭の上に周り、両脇に手を入れた。上半身を起こし上を脱がせた。フロントホックのブラを外すと小ぶりの胸が微かに揺れた。


このような格好で運ばれて来たという事は、夜中に徘徊していたか、コンビニに買い物へ出かけた時に捕まり殺されたのだろう。一旦、上半身を寝かせた後、ズボンと下着を脱がせた。


衣類をまとめて袋に入れると私はマジマジとその裸体を見下ろした。子を持つ親として、自分の子供が行方知れずになった事を知ると思うと僅かに胸が痛んだ。


だが現実は私のように胸を痛めるかどうかなんてわかりはしない。


中には悲しむ所かホッとする親もいるだろう。出来ればこの子の親はそのタイプであって欲しかった。これから解体するに辺り、この女子高生の生きてきた人生を顧みて想像する事で、この子の慰みにでもなるかと思い、渡された書類を手に取ってみた。


桜井さやか。それがこの子の名前だった。詳細は省かれている為、細かい事はわからない。私は口に出して名前を呼んでみた。


「桜井さやか」


数度、呼び返してみたが、私の中に痛みや悲しみといった感情は微塵も沸いてこなかった。


私は良しと呟き1番大きなノコギリを手に取った。

感情移入をする事がなければ、首を切り落とそうが、胸を触ろうが淡々と作業に集中出来る筈だ。


この時、私は女子高生の解体はスムーズに進められると感じた。残りの3体の死体もそうであって欲しいものだ。私は簡単に書類に目を通した。残り全員の苗字が桜井と記入されているのをみてこの女子高生と他3体が家族だという事に容易に気がついた。


「なるほど」私は書類を机の上に置いてから、女子高生の首にノコギリの刃を立てた。


押す時は力を入れ過ぎず、引くときに力を入れた。殺されて幾日過ぎたかは知らないが、女子高生の首からは血が噴き出すような事はなかった。


私は一定のリズムでノコギリを引き女子高生の首を切り落としていった。ノコギリの刃が骨に当たると流石に切りにくくなった。おまけに血や肉片が刃にくっつくと、ノコギリの切れが悪くなり、力を入れ直さなければならなくなった。


要するに人体を解体するにあたり、苦労するのはこの辺の所だという事を私は女子高生の肉体によって教えられたようだ。


ただこの行為に救いがあるとするならば、それは腹を切り裂き内臓を引きずり出さなくてすむ事だ。


私はその事に安堵をしながら、残りの部位を切り落としていった。私は切り落とした部位から順番に鰐の入った水槽に投げ入れた。最初、鰐は女子高生の頭に興味を示さなかった。


腕を投げ入れるとようやくそれが餌だと気付いたのか、鰐はあっという間に女子高生の腕を平らげた。その流れで鰐は女子高生の頭に噛みついた。


水の中であっても鰐が噛みついた女子高生の頭蓋骨が砕ける音が聞こえ、私は一瞬、背筋が凍る思いがした。


水槽の中に落ちたらどうなるのか?といった余計な想像をしてしまったのがいけなかった。それが凍る思いにさせられた原因だった。


私1人の手で4人の身体をバラバラにするには2時間近くかかった。正直、全部の部位を水槽に投げ入れたかったが、鰐がそれらを全て食い切るとはわからない為に、私は一旦、バラした身体を袋に詰めた。臭いが外に漏れないよう口はキツく縛った。その後で、私はタイルの床に広がった大量の血の海の掃除を始めた。


一旦、水で洗い流し、その後に塩素系の洗剤を巻き、ブラシで擦った。


擦りながら私は、初めてにしては我ながら上手いじゃないかと、自画自賛しながら掃除を進めて行った。


そして残った小屋の隅に積み重ねて起き、一通り終わった事に心底ホッとした。だが、これが夏だった場合、幾日もほったらかしには出来ないなと思い、近い家に冷蔵庫を買いたそうと思った。


そうして処理人としての初めての作業を、私は何とか無事に終わらせる事が出来たのだった。


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