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赤津と藤城が血を分けた本当の姉妹だったとは思いもしなかった。その告白に少なからず衝撃を受け驚き興味をそそられたのは事実だ。
と同時に藤城一家を殺害した犯人にも殺したその理由にも興味があった。
けどそれ以上に僕の好奇心を揺さぶったのは残された遺族の気持ち、つまり赤津の方だった。
藤城たつきは事故や病気で家族と共に死んだのではない。誰かの手によって殺され埋められたのだ。
そのような一家がいたというのはある種特別な、稀有な存在と言えないだろうか?興味を持たない方がおかしい。
育った家は違えど実の姉妹である赤津の言葉から考察するならば、恐らく藤城たつきは巻き添え食らったのではないかと僕は思っている。
あくまで赤津の表情から汲み取った推測に過ぎないけど、子供を虐待するような両親だったのなら、社会で何らかのトラブルを抱えていたとしても不思議じゃない。
むしろそっちの方がしっくりくる。そしてトラブル相手の何者かが両親を殺害している現場に偶然にも藤城たつきが出会してしまったのではないだろうか。
勿論、最初から家族全員を殺す段取りが組まれていた事も充分あり得る。何故なら数年間も遺体が見つからなかったという事もあるし、何より藤城たつき一家が、この関東の街から遠く離れた四国で一緒に埋められていたという事実がある。
それを踏まえれば突発的な殺人に巻き込まれたというのも考え難い。ある程度は計画的だったと思わざる終えなかった。
ただその計画内に最初から藤城たつきが含まれていたとは僕は考えたくなかった。
殺されるべきは里子とはいえ子供を虐待していたかも知れない藤城の両親であり、虐待されていたであろう本人は殺されるべきではないと思ったからだ。
それでは余りにも藤城たつきが可哀想だし残酷過ぎる。でも事実は藤城たつきに容赦なかった。
無残にも若くして殺されてしまった。だけど一方で藤城一家が同じ場所に埋められていたという事実があるのは、藤城たつきは殺害される計画に含まれていたと思わざる得なかった。
そう考えれば一家全員が一緒に埋められていたという理由に一応の説明はつくし、納得も出来る。
けどそれなら、斉藤こだまや小野夢子の話にあった藤城たつきがいつも自分へ殺されると怯えていたのはどういう理由からだろうか?
それはあくまで両親の虐待を受け過ぎて死んでしまうという事を指していたのだろうか?
虐待という一面だけをみたら、多分、それで間違いない気がした。でも、とも思う。
中学生にもなって両親からの虐待が原因で頭がイカれた風に見えるほど他人の前で怯えるだろうか?助けを求めていたのは違いないだろうけど、そこまで追い詰められていたというのが本当なら、恐らく当時の藤城たつきは既に精神が崩壊していたのかも知れない。
だとしても藤城たつきは中学2年生だったのだ。そうなる前に武器を持って両親に歯向かう事も出来た筈だ。
近所や友達、学校の先生などに助けを求める事は出来なかったのだろうか?それもせず、藤城たつきはただされるがままに両親からの虐待を受け続けていたのか?そんなのはあり得ない。僕には理解し難かった。
けど、しばらく考えた後で、ちょっと待てと思った。何故逃げなかったのか?と僕が思ったのは、それは恐らく僕が両親から虐待を受け続けて来た人間ではないからに違いない。
経験していない事に対しての理解は当事者でない人間では頭の中で想像するしかない。
けどそこに落とし穴があった。経験していない為に直ぐ何故?どうして?こうすれば良かったのに、なんて考えてしまい当事者に対してへの理解が完全に及ばないのだ。
つまり頭でしか考えられないからこそ否定的な意見が真っ先に思い浮かんでしまうのではないか?
多分、そうだと僕は思った。
虐待を受けた事のない視点でしか僕は藤城たつきを見れていなかったように思う。
そう気付かされた僕は流石にこれでは駄目だと思った。考えを改め直し頭の中を整理し直すべきだ。
しばらく考えを巡らせた結果、虐待を受け続けた人間はその相手の存在を目の前で認めてしまうと恐怖の余り一切、身動きが取れなくなったりする事だってあり得るだろう、と言う事に考えが至った。
多分、あるとするなら藤城たつきはその部類に入る筈だ。でなければ気が狂ったように殺されると言い続ける訳がない。
勿論、その言葉が両親を指していたかは今では分かりようがない。何故なら、残酷にも時は過ぎ去り、藤城たつきを救うにはすでに遅すぎたからだ。
赤津にも僕にも、警察にも藤城たつきを助ける事は不可能だった。藤城たつきは既に殺されている。
彼女は辛い目に遭いながらも必死に生きていたのだろう。藤城たつきには赤津の存在だけが生きている意味だったかも知れない。
にもかかわらず、藤城たつきはたった数十年でこの世の生を終わらせる羽目にあった。
それまで抱えて来た想い全てを誰に吐く事もなく、誰かの手により殺害され四国の山中で発見されたのだ。
白骨死体となって。
身元がわかった今、警察も本腰を入れて本格的な捜査に入っている頃だろうか。
遺体の白骨化を考えれば、起きた事件は恐らく数年前の事だし、今、その証拠となるものが残っているかは微妙だけど、犯人は捕まって欲しいと思った。
何故ならそれがせめてもの生きる救いとなる人間が僕の身近に1人だけいるからだ。
赤津という女の子の為に何かしら情報を得られないかとスマホを手に取った。ネットに繋げた。
けれど地方で起きた殺人事件の詳細はネットで調べても何一つ分からなかった。進展があったのさえわからない。
今の時代、あらゆる情報は簡単に手に入るものと思っていたけど、やはりそこの部分、地方、事件、警察関連などの情報は容易くはわからなかった。
わかるとしたらそれはきっと犯人が捕まった時くらいなものか。検索を止めスマホを机に置いた。椅子の背もたれに身体を預けながら両腕を伸ばした。
あくまで想像の域は出ないけれど、警察はせめて藤城一家が前に関東で暮らしていたという所くらいは把握していて欲しいと思った。でも問題はそこからだ。
約2年以上の空白を埋める為の聞き込みをして、果たして物証や証言は得られるのだろうか。
藤城一家の事を詳しく憶えている人間が今も存在しているか正直怪しい気がした。
その時、僕の頭に未解決という文字が浮かび上がった。今は時効というものが廃止になっているから捜査は続けられるだろうけど、現実問題、警察も藤城の事件だけに人員を割いて捜査する訳にもいかないだろう。
今はいい。今は事件が明るみに出たばかりだからそれも可能だろうけど、もしも何も進展がないままに3か月、半年、9ヶ月と月日経ったとしたら自ずと、動員人数だって減らされるに決まっている。
僕はそうならないように願うしかなかった。
高校生の僕に出来る事といえば、その程度の事でしかない。つまり所詮は他人事ってわけだ。
僕はスマホを手に取り充電器に差し込んだ。椅子から降りてベッドにうつ伏せに寝転がる。
頭に思い浮かぶのは深夜、山中の地面に放り出された積み重なった3体の死体の姿だった。




