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 ①⑦

1週間が過ぎても僕がミニシアターで起こした殺人が事件としてニュースに流れる事はなかった。


発覚しないという謎は僕を不安にさせたが、どう考えてもあのトイレに倒れた死体が1週間もの間、誰にも見つからないわけがない。


受付の、多分あのミニシアターの店主だってトイレ掃除くらいするだろうし、それに客だって来る筈だ。


僕みたいに餌食になる客や、僕を犯した奴等のような常連が来ないわけはない。


となれば自然、考えがまとまっていく。

やはり餌食になる者は最後に殺されてしまうのかも知れなかった。


ゾッとして背筋が震えてくる。おまけに僕はその中の1人を殺してしまったのだ。

それについてはもう起きてしまった事だから、思い出して手が震えたり怯えたりする事はなかったけど、ただ1つ嫌な事があるとすれば、それはアイツらにも警察にも絶対に捕まりたくはないという事だった。


僕1人であればありったけのお金を持って直ぐにでもここから出て行くけど、今の僕は高校1年で両親がいる。


お爺ちゃんとお婆ちゃんも元気だ。その家族を捨てて逃げ出す訳にはいかない。逃げるとするなら、3年後、つまり大学生になってからだ。


そうすれば誰にも何も疑われずこの街から出て行く事が出来る。だから後、3年。


3年を(奴等が報復を考えているとしたら)逃げ切る事が出来れば恐らく僕は普通の生活を取り戻す事が出来るような気がした。


油断せず、絶対に駅の反対側へ行かないようにしながらこの3年を逃げ切ってやる。


強い気持ちを胸に秘めて、僕は朝食の後片付けをして学校へと向かった。


この1週間、僕は赤津の事をほったらかしにしていた訳ではなかった。僕自身、いきなり不登校になる訳にはいかないから一応、学校に行ってはいたけど、心ここに在らず状態で不安で仕方がなかった。


だから3日休んだ後に登校して来た赤津に話しかけようとした。


けれど赤津自身が、ずっとイライラしていて他の女子と話すのを聞いても明らかに声や言葉が刺々しかった。


因縁をふっかけてくるヤンキーみたいにだ。おまけに誰も私に近寄らないで!というようなオーラを出していたので僕は話しかける事はしなかった。


それがあまりにも露骨な感じだから、生理中なのかとも思った。


勿論、僕自身のメンタルもまともじゃなかったし、お尻が痛いのを悟られないよう我慢するの大変だった。


だから飛田と茂木の誘いも断って来た。勿論、2人は急に付き合いが悪くなった僕に良い顔はしなかった。


けれど、もし、この2人が僕と一緒にいる所を奴等に見つかりでもしたら、拉致され僕がされたように犯され、下手したら殺されるかも知れないと考え断っていた。


そうなることを恐れてもいた。だからといって僕の身に起きた事を2人に言える筈もなく、悪いなと思いながら一刻も早く時が過ぎ去って行くのを待つ事しか出来なかった。


だけど、あの日から1週間が過ぎた今、メンタルはかなり回復していた。油断は禁物だけど、いつまでまピリピリしていると精神上良くもない。


そう思った僕は放課後、自分から茂木と飛田をゲーセンに誘った。2人は破顔して喜んだ。


ようやくかよ、みたいに僕に抱きついて来てこの1週間で起きたゲーセンでの話を早口で捲し立てたのだった。


「圭介さぁ」


「何?」


正門を出た所で茂木がそう切り出した。


「お前、何かあったのか?」


「別に何もないよ」


「この1週間、ずっと思い悩んでるみたいな暗い顔してたからさ」


「そうか?僕は至って普通だったけど」


「普通に何もない奴が、唇を腫らして学校くるかよ」


確かにそうだった。明らかに見た目は酷く殴られたであろうと思われる腫れ方をしていたのだ。今はそこそこ腫れは引いてはきているけれど、切り傷は未だ完全に治っていない。カサブタになって来てはいたけど、まだ見た目にはかなり痛々しかった。


言い訳として真っ先に思いついたのはお父さんの事だった。


「父親と喧嘩して殴られたんだ」


「殴られるほどの喧嘩ってどんなのよ」


飛田が興味津々と言った風にニヤケ顔で聞いてくる。


「夕食の時、高校卒業したら、大学行かないって言ったら口喧嘩になってさ。それでついカッとして出された食事をテーブルから払い落としちゃったんだ。それが父親の逆鱗に触れたみたいでさ。いきなり立ち上がって無言で殴られたんだよ」


飛田はニヤニヤしながら馬鹿だなぁと言った。

茂木は茂木で、昭和のドラマじゃないんだか、父親もテーブルから食事を払いのけるなよとゲラゲラ笑った。

咄嗟に思いついた嘘だったが、上手く2人を騙せたようだった。


「で、本当に大学は行かないつもりでいんの?」


「ん〜今は考え直してるよ」


「そりゃ、そんな顔になるくらい殴られるなら大学行った方がマシだって」


と飛田が言った。


「ま、色々あったみたいだけど、圭介が元気になった記念で、俺達にハンバーガーな」


「お前ら殴られた奴からたかるのか?」


ニヤけた顔で僕がそう言った。


「当たり前だろう、俺らに心配かけたんだからさ」


茂木は言うと、横にいた飛田がバス来たぞ!といい1人駆け出して行った。直ぐに茂木が後に続き、その後を僕が追って行った。


久々に我を忘れたかのように茂木と飛田の3人で馬鹿みたいに遊んだ。


レーシングゲームやUFOキャッチャー、それに格ゲーなどオンライン対戦ゲームで存分に楽しむ事が出来た。


茂木と飛田の2人には僕の格ゲーの下手さを散々に弄られたが嫌な気持ちにはならなかった。


様々な言い訳をしながら、下手じゃないアピールする僕をみて2人は馬鹿みたいに笑った。


散々大騒ぎした後、UFOキャッチャーでゲットしたフィギュアやぬいぐるみ、そして茂木がシャレで取った長髪のウィッグをつけてゲーセンを後にした。


「これなら腫れた口も隠せるよな」


ピンク色のウィッグをかきあげる真似をしながら僕は言った。


「隠せねーよ!」


と2人が同時にツッコンで来る。


「そうかなぁ?」


「ていうよりさ、圭介?」


「何?」


「お前、自分の顔、ちゃんと見てみろよ」


「何か変か?」


「変というか、似合わな過ぎ」


飛田いい、スマホで僕の顔の写メを撮った。


見せて貰うと自分が写っているくせに、

あまりに不細工過ぎて笑っちゃうくらい似合っていなかった。


「これは酷くね?」


僕が言うと茂木が口を開いた。


「圭介がとんでもなく不細工過ぎて一緒にいる俺達まで、恥ずかしくなるよ」


「本当、よくそれで駅まで歩いたよな?普通の人なら自殺ものだよ」


と笑いながら飛田がそう言った。


確かに久々のゲーセンでテンションが上がり調子に乗ってウィッグなんか被ったけど、まぁそれでも2人が喜び僕自身も楽しかったから、それはそれで良しだ。


それでも流石にこれをつけて電車には乗れないから駅に着く前に外し、飛田に返そうとした。


「いらねー。ていうか圭介の不細工な顔、Twitterで晒してやろうかな」


2人にからかわれなが、貰ったウィッグをリュックにしまい、駅のホームで別れた。


帰宅中、僕はゲーセンでの事を思いながらずっとニヤニヤしていた。


そして家に着くと玄関にお父さんの靴があって長い出張から帰って来てたのだと思い、慌てて靴を脱ぎ捨てた。リビングに入るとお父さんと目が合った。


「お父さんお帰りなさい」


「ただいま」


お父さんは言いながら自分の口元を指で突いた。その仕草にお父さんが僕の怪我の事を言いたいのだとすぐにわかった。


「お母さんから聞いたぞ。まぁ。男なら人生で1度くらい殴り合いの喧嘩も必要だからな。でなければ相手の痛みもわからない大人になってしまう」


お父さんはいい、少しだけ微笑んだ。

僕も照れくさそうに笑った。この時、唇に出来たカサブタが剥げて、少しだけ血が出た。


舌で舐めると必死に傷口を押さえながら噴き出す血飛沫を止めようといたあの男の顔が脳裏に浮かんだ。


あの男の血も、僕の血と同じ味がするのだろうか?そんな事を思いながら口の中に広がる鉄錆っぽい血を飲み込んだ。

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