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世の中の赤ん坊の中にはお腹が空こうが、糞尿を漏らそうが一声もあげない、つまり泣かない赤ん坊がいる。
そんな赤ん坊を私は過去に3人ほど見た事があった。
その内の2人は女の子で双子の姉妹だった。
そしてもう1人は男の子だった。この赤ん坊に共通している事は前述にあるように全く泣かないという事だ。
双子の2人は、恐らくお姉さんの方だろう。名前はたつきとつけられていた。そしてもう1人は奈々だった。
この2人は15歳の少女が産んだ子供だった。
少女は幼い頃から素行が悪く小学生低学年の時の遠足の時、同じクラスの女の子のお菓子を欲しがった。
それを断られた為に、その少女は女の子の頭を拾った石で何度も殴りつけた。幸いな事に女の子の命に別状はなかったが、頭蓋骨陥没で長期入院する羽目になったほどだった。
そういう事を平気で行う少女がまともに育つわけもなく、小学高学年の時、2つ離れた町まで行き、見知らぬお爺さんにお母さんと逸れて迷子になったと嘘をいい、人気のない場所まで誘い出し持っていた果物ナイフで何度も刺した。
このお爺さんも運良く死ぬ事はなかったが、刺した少女が補導される事はなかった。そんな少女が産んだ双子の子供だから、正直、生かしておくつもりはなかった。
だが、たつきも奈々も、私の指を掴み、何かを請うような眼差しを向けた為、私は殺す事を躊躇った。
そして母親である少女の刺殺体をキャリーバックの中に詰め込んだ後、私は2人を抱き抱え、少女の死体と共に車に乗せた。
そして他県まで車を走らせ、適当な民家の近くに車を止めた。2人一緒にとも考えたが、この姉妹はあの少女の血を引き継いでいる為に、育つにつれ、2人で協力し悪さをされるかも知れないと考え、1人1人別々の家庭へと捨てて行こうと思った。
幸いだったのはこの双子の赤ん坊は雪が舞い散る極寒の寒空の中でも一言も声を発しなかった事だ。
お陰で不法投棄ではないが見知らぬ人間の玄関先に捨てやすかった。
私はそれなりに裕福そうな民家を見つけその玄関前へたつきを捨てた。今後の事もあるので、つまり母親のようにろくでもない人間になった場合を考えて家の写真と住所をメモし、苗字を確認した。藤城か。藤城たつき。
あの少女の血を引くこの子がこれからどう育つか私はある意味で恐れ、ある意味楽しみでもあった。
良い子に育って欲しいとの願いも少なからずあった。
そしてもう1人の赤ん坊の奈々は同じ町の赤津という名の家に捨てた。
両家ともがこの捨て子を育ててくれるかはわからない。そして育ててくれたとしても、この家の人間が人徳があり優しく包容力の持った人物だとも限らない。
ろくでなしの可能性だってある。私が捨てた為に、悲惨な人生を送る羽目にならないとは言えなかった。
だが恨むならあの母親の子供として産まれて来た自分を恨むしかない。どの道、悪い方向へと向かうのであれば早い方がこちらも処理しやすいというものだ。
だから私のとった選択は一種の賭けでもあった。
もしこの両家が、藤城家と赤津家の2組の家庭が2人を受け入れる事をしなかったのなら保護施設に入れられる可能性が高い。が、そうなったらなったまでだ。
そこまでいけば仕事は私の手を離れ、管理下ではなくなる。私には関係がない事だった。
だが両家共々、2人の捨て子の女の子を養子として養ってくれるとしたら、成長をチェックし続けなくてはならない。その為に私は2人の存在をこの県に住む仲間へメールを送信した。勿論、要観察と付け加えるのは忘れなかった。
そして最後のもう1人である泣かない男の子は私の息子だった。私がこのような仕事を始める前に産まれたのだが産まれた瞬間に泣いた以外、私が息子の泣いた姿を目にしたのは1度もなかった。
そんな息子を私は少し恐れた。何故なら赤ん坊は泣くのが仕事のようなものだからだ。だが息子は違っていた。
あの双子の姉妹と同じく泣かない赤ん坊だったのだ。それが嫌なイメージを私に植え付けた。
つまり親の私の本質はあの双子の姉妹の母親と同じくろくでなしではないのか?本質的な人殺しの遺伝子が受け継がれてしまったのではないのか?と考え悩んだりもした。
実際、世の中の為とはいえ私は殺人を犯しているのだ。もしも殺意という心の傾向が遺伝子として息子に受け継がれていたとすれば、万が一にも私の息子に悪意の兆候が現れたならば、私はラピッドに報告し、息子を殺してもらわなくてはならなくなる。
この子のせいで他者が辛い思いをしたり悲しむような目にはあってはならないからだ。けれどやはり我が子だ。
情に負けてひた隠しにしようとするかも知れない。
だが遅かれ早かれそういう心を持っていたら、いつしかラピッドの目に留まり処理されてしまうだろう。
だから私はそのような人間に育たぬよう毎日毎晩、息子がちゃんとした人間に育つ為に、繰り返し自分の心に願った。
だが悲しいかなそもそも持って産まれた人間の本質というものは決して変えられるものではないのだ。
悪魔のような人間はどこまで行っても悪魔だ。それが幼稚園生や小学生だろうが全く関係ない。兆候を見出したならばラピッドへ報告を上げ要注意人物として扱わなければならない。
そしてとある土地に暮らす仲間へ息子の詳細な情報を提供する為に私自身が私の息子の観察を始める事になる。
万が一にも息子の悪事がエスカレートし始めた時、その時こそ今夜の私のように突如、シェフが現れターゲットの人物を殺めるのだ。
そう。つまりは私達の出番なのだ。何も私達はその筋のプロでも何でもなかった。
だがそれも回数をこなして行けば案外慣れていくものだ。
最初は死体を使って殺害方法を学びそして死体の処理の仕方を習う。ある仲間の人物は地方の地主の息子で大きな山を持っていた。
だからその人物は死体をバラすことはせず埋める専門だった。通称、埋め屋。他のシェフのスクラップ屋は廃車にされた車を潰す時に一緒に死体も潰した。
潰す前には死体を逆さ釣りにして血抜きを行う。抜かれた血は車の排気オイルに混ぜられた。その人は通称、潰し屋だった。
そのような仲間が全国までとはいかないが、とある県や都市に存在していた。彼らの共通点時といえば、みな、家族を理不尽な事故や事件で殺されてしまった遺族の人々だった。そしてそのような事故や事件を起こした加害者達は皆、親の脛齧りのクズだったり地方の有権者の孫や親戚だったりして罪が軽くなった者たちばかりだった。正真正銘のクズだった。
もしその加害者達がまともな人間で深く反省していたのであれば、このような組織は出来ていなかっただろう。
私達の組織の名はラピッドという。RAPID(行動が迅速な、敏速なという意味だ)
つまり世の中に悪の芽が育つ前に迅速に処理するという意味からこの名前がつけられた。そして私達は決して自分が暮らしている土地、市町村や都道府県内では決して処理は行わない事になっている。
交換殺人ではないが、私は今回の未成年の母親を殺した土地は私が暮らす土地から随分と離れた他県での仕事だった。
つまりはそういう事だ。生活に密着するような身近な場所では決して殺人は行わない。行うのは他県から来た仲間の仕事だ。
そちらの方が足がつきにいくからだ。だがそうする為には殺す人間の生活パターンなどを知る必要がある。
そういう場合の観察はその土地の人間がやる事になっている。
大体、3ヶ月から半年の下見を行い、そこで初めて処理が下される。
そこまでは意外と簡単な事だった。1番難しいのは死体の移動だ。
殺されるべき人間がいる場所で処理出来れば楽なのだが、発見を遅らせる為にもその土地で処理するのは禁じられていた。
だから埋め屋や潰し屋などのいる街まで運ばなければならなかった。その時が一番緊張する。
その為に道路交通のラジオは欠かせなかった。
そして意外と思われるかも知れないが、深夜は絶対に車で走る事はしなかった。
処理を急ぐ為にスピードを出しすぎて捕まってしまったり、暴走族を取り締まる検問に引っかかってしまう可能性が高いからだ。
だからラピッドの仲間が死体を処理する場合、必ず朝方から昼間にかけて移動する。そして死体を引き渡すとそこで初めて仕事が完了する。
ラピッドは1人処理したら幾らというものはなく、月給制だった。
仕事があってもなくても決まった金額が組織から手渡しで持ち込まれる。だから1年以上、1人も処理しなくともお金は入ってくるのだ。
プロの殺し屋が1人につきギャラが幾ら出ているのか知らないが、私はこの月給制が気にいっていた。
何故なら月々ちゃんとした給料を貰っているという事だけで本当の仕事内容が家族にバレにくいというのがあるからだ。
それこそ月給制の最大のメリットだった。
なので私は今の私の仕事にとても満足出来ている。
勿論、捕まる危険性はおおいにあるが、それを差し引いても余りあるスリルと快感、そして正義を成しているという自己陶酔がある。
これは他のどんな仕事では絶対に手に入れられないものだ。
だから何ものにも変え難い生き甲斐を私は日々感じていた。
少なからず最近増えて来た仲間の存在や、私や家族、そして社会で真っ当に生きている人達にとっても、
ラピッドという組織はまさに希望であった。
当然、私もそのような希望を持つ1人でもあり、シェフでもあった。




