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 ⑨

入学して3か月も経つとクラス全員の名前は完全に覚えていて、一緒に帰宅する友達も数名出来た。


小野夢子と斉藤こだまとはかなり仲良くなった。


赤津奈々とはたまに話す程度で仲良しというまで進展はしていなかったけど、こちらから話しかければ普通に話してくれた。


でも何故か赤津の方から僕に話しかけてくる事は、あの日、僕を廊下に呼び出して以来、一回もなかった。


その理由については憶測ではあるけど何となく想像がついた。


先ずは小野夢子と斉藤こだまの存在だ。この2人は何故か赤津奈々の事をよく思ってないみたいだった。


確かに赤津は美人だから男子からの人気はかなり高かった。わざわざ上級生が1年の僕らのクラスまで来て告白する場面め数回はあった。


下級生から人気のある2年のイケメン男子も赤津にはあっさりと振られてしまっていた。


それが女子の反感を買ったのかも知れない。けどきっと赤津がその2年のイケメンと付き合いでもしたら、絶対により嫌われていた筈だ。これが赤津奈々があまり好かれいない1つの原因かと僕は思っていた。


もう1つは、赤津自身、他人と上手く接するのが苦手なのではないか?と考えている。


3か月も過ぎたのに誰かと仲良く喋っている所を見た事もない。下校の時も確か1人の筈だった。赤津は赤津なりのコンプレックスを抱え込んでいるのかも知れなかった。


あるとしたらその1つがオッドアイだろう。オンリーワンな彼女だけど赤津は集団生活をする中でそのオンリーワンな自分の事が嫌いなのかも知れない。


周りは赤津のオッドアイを羨ましがっているのがほとんどだけど、ひょっとしたらそのように接し方をされる自分がまるで檻の中の動物になった気分になり、嫌悪感を感じているのかも知れない。


産まれた時からオッドアイなわけだから幼少期なんか、目の色が変だぁなんてイジられたのは容易に想像がついた。


もし自分が明らかに他人と異なる容姿を持って産まれていたなら、そのイジりによって嫌な思いをしただろう。その積み重ねがあり、彼女は積極的に他人と関わろうとしないのかも知れない。


授業中、そんな事を考えながら赤津の方を見ていると、視線を感じたのか赤津が僕の方を振り返った。一瞬ではあったけど、笑ったように見えた。


勿論、赤津が何かリアクションを示したわけではなかった。ただ振り返り、すぐまた前を向き直ったに過ぎない。でも僕はそんな赤津が僕に何か話したい事があるような気がしてならなかった。


赤津が美人だからって事で、近づきたいという欲求からのただの勘違い野郎な気もしないでもないけど、僕を廊下に呼び出したあの日以来、藤城たつきの件も話していないし、小野と斉藤から聞いた情報も伝えたいから一度、2人きりで話してみたいと思った。


放課後、最近仲がよくなった飛田(とびた)の帰ろうという誘いを


「悪い、今日は用事があって急ぐんだ」


と断った。


「何だよー。折角ゲーセン行こうと思ってたのによ〜」


「明日行こう?な、明日なら付き合うからさ」


「わかったよ」


飛田はつまらなさそうな表情で渋々承諾してくれた。


「ごめんな!」


僕は再度そのように断って、真っ先に教室を出て行った赤津の後を追った。


歩くのが早いのか、赤津の姿を捉えたのは校舎を出た所だった。


赤津はまるで早歩きのようにスタスタと歩いている。

バス停まで行くとそこで止まった。


ホッとした僕を他所に側をバスが通り過ぎて行った。

慌てた僕は急いでバス停まで駆け出した。その勢いのままバスに乗り込む。


少し切れた息が車内に響き、乗客数名がこちら見た。

僕は頭を左右に振りながら赤津の姿を探した。


赤津は後部座席の方にいて、学校がある側に背を向けて吊革を掴んでいた。


バスの車内は割と混んでいて赤津の側まで行くのに、多くの人に頭を下げて謝罪しなければならなかった。


その間に一つのバス停まで着いてしまい、乗降の際を利用して一気に赤津がいる所まで進んで行った。


側に立ち声をかけた。


「赤津って歩くの早くない?」


「仲野部君が人一倍、遅いんだよ」


赤津は僕が側にいる事には全く驚いていなかった。

僕がバスに乗り込んだのを見ていたのかもしれない。


「そうかなぁ」


「知らないけど」


「駅まで行くの?」


「うん」


「赤津ってさ」


「何?」


「部活とかはやらないの?」


「興味ないし」


「そうなんだ」


「そういう仲野部君こそ、部活やってないわけ?」


「面倒くさいじゃない?」


「それがやらない理由?」


「それもあるけど、クラスの自己紹介の時も言ったように父親の仕事を手伝わなきゃいけないから」


「あぁ。あの時ねぇ。でもごめん、私聞いてなかった」


僕は苦笑いした。


「あ、何も仲野部君の時だけ聞いてなかったわけじゃなくてさ。私、興味があったのって北の丘中学出身の人がいるかどうかだけだったからそれ以外は全員の話も聞いてなかったんだよね」


なるほど。だから赤津はピンポイントで僕を廊下まで呼び出したわけか。つまり興味があったのは僕ではなく出身中学だけって事か。


まぁ。こうもあっさりと興味がないと言われたら、いくら美人だからって容易に恋愛感情を持ってはいけないし、起きて来ない。赤津奈々はこんな風に言い寄って来た男子を振ったのだろう。


「斉藤と小野から聞いたんだけどさ」


「何を?」


「藤城たつきの事だよ」


僕がそういうと赤津は素早くこちらを振り向いた。さっきとは違い目が見開かれその美人の顔がグッと近くに寄って来た。


「何て言ってたの?ねぇ?あの2人はたつきの事なんて?」


僕は2人から聞いた藤城たつきの情報を出来る限り話した。覚えている大体の事を伝えた後でこう言った。


「言いにくいんだけど…」


「構わない」


「藤城たつきって子、転校して来た時からずっと1人でぶつぶついうような子だったらしい」


「たつきが?」


「みたいだよ」


僕がいうと赤津はしばらく黙っていた。何かを考えているようだった。


バスが停車した。数人が降りて誰も乗って来なかった。


正直、藤城たつきが独り言のようにぶつぶつと呟いていた事を、赤津に話すべきかどうか迷った。


何故なら赤津はきっと藤城たつきと知り合いで、下手すると仲が良い友達だったのかもしれないからだ。


そんな赤津に藤城たつきは頭がイカれてたんじゃない?なんて伝えるのは心苦しかった。けど反対に友達だからこそ全てを知って欲しい、知るべきだと思う自分がいた。


それを聞いた上で赤津が何を感じるのか知りたいとも思った。


バスが発車した。後、3つか、いや4つ停留所を過ぎたら駅だ。


「たつきは何を言ってたか聞いた?」


赤津奈々は窓の外を見ながら言った。

正面切って僕の言葉を受け切るのが怖いのかも知れない。


「知ってるよ。けど、赤津が藤城たつきと仲が良かったなら聞かない方がいい気もする」


「いい。私は平気。だから教えて」


「本当に?」


「うん」


僕はわかったと答えた。


「藤城たつきはずっと、私は殺される、殺されるって言ってたんだって。クラスの男子に助けを求めたらしいけど、四六時中ずっと殺されるって呟いていたものだから頭がおかしい転校生って思われて誰も近寄らなかったらしい」


「酷いっ!」


「と、思うけど、僕でも近寄り難いよ。おかしな人とは関わりたくないからね」


「そうだけどさぁ。本人が殺されるって恐れてたなら、せめて先生とか警察に相談してあげるとか出来たじゃん?」


「それを言うなら藤城自身が助けを求めるべきじゃない?頭がイカれた人のようにぶつぶついうくらい恐れているなら余計にそう思うけど」


僕の口からこのような返事が返されると思わなかったのか、赤津奈々はあからさまにかなりムッとした表情を僕に向けた。


「何かに心から怯えている人間は、自ら助けを求める事は中々出来ないものじゃない?確かに中学生に助けてあげてってのは酷な話かもだけど、せめて何かしらの手は差し伸べてあげるのが人としての行いじゃないのかな?私が言ってる事、間違えてる?」


「間違いじゃないよ。DVされてる人なんて中々自分から逃げ出せないって言うし。でもさ。藤城の場合はちょっと違うんじゃない?特殊というかさ。だって考えてみてよ?殺されるって言い続けてる子だよ?授業中も休憩中もずっと1人で、私は殺される殺される殺される殺される殺されるってぶつぶついう奴になんて絶対に近寄りたくはないよ」


「でも、たつきはクラスメイトに助けを求めたじゃない!」


赤津の怒鳴り声はかなり大きく車内にいる乗客の全員がこちらを見た。運転手からは他のお客様にご迷惑がかかるので、会話をするなら小声でお願いしますと注意まで受けた。


「もういい。教えてくれてありがとう」


赤津奈々はそういい降車ボタンを押した。


「駅じゃなくて次で降りるんだ?」


「駅まで行くつもりだったけど、止める」


「どうしてさ?」


「降りたいからに決まってんじゃん」


「降りたい?」


「そうよ」


「なら僕も付き合うよ」


「放っておいて」


「いや。でもさ」


「もうっ!今、仲野部くんと話しても埒があかないじゃん!大体、たつきの助けをスルーした奴がいるって事実だけで、私駄目なの!許せない!仲野部君が関わってないのはわかってるけど一緒にいたら、八つ当たりしちゃうから」


赤津はいい降車口の方に向かった。その背中にかける言葉を僕は持ち合わせていなかった。


バスが止まり赤津と数名が降り新たな客が乗り込んできた。


ドアが閉まり発車しても僕はそれ以上、赤津の姿を追うことが出来なかった。


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