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 ⑤

週に3回、僕はハッキリと久家綾乃の顔と声を思い出す。


その都度、股間は膨れ僕の利き手の左手は下着の中にあった。


毎回、今日だけはゆっくりと妄想の中で久家綾乃の身体を楽しもうとするのだけど、その度に我慢出来ず勢いに任せて果ててしまった。


手の平の上に出た白濁した精液を眺め、臭いを嗅ぐ。


甘い匂いはしないがこの臭いを久家綾乃に嗅がせてみたいと思った事もある。


きっと彼女は嫌な顔をするに違いない。それでも僕は止めず、嫌がる久家綾乃の首や胸、お腹や足に僕の精液を塗りまくる。それが僕にとって、動物でいう所のマーキングだ。久家綾乃は誰のものでもない。妄想の中での久家綾乃は僕だけの物だった。


久家綾乃のクラスメイトから名前を聞いてからそのような気持ちになるのに、大して時間はかからなかった。


恐らく、住所が分からず、居場所を掴めない苛立ちが僕の気持ちを昂らせてしまったのかも知れない。


連絡帳を手に入れる方法も考えてみたが、綾乃のクラスの誰一人、僕に連絡帳を譲ってくれる生徒はいなかった。


きっとあの女子が余計なことを吹聴したのだろう。


お金を出して買う事も考えたが、その場の感情で動き出し値段はあってないような物にそれなりに支払うと、後々、それをネタに変な事に巻き込まれる可能性もないとは思えなかった。だからそれはやめる事にした。


だが、その結果がこれだった。もし早めに久家綾乃に会う事が出来ていたなら、変な妄想をしなくて済んだかも知れない。


勿論、その逆が無いとはいえない。会った翌日から僕の欲望が先走らないとは誰も断言は出来ないのだから。


手の平に出した精子をティッシュで拭き取る為、ベッドから起き上がった。


時計を見ると深夜1時を回った所だった。


階下で寝ているお父さんが起きるまで、まだ3時間近くある。後継ぎになりたいとは言ったものの、どういう仕事内容かもまだ教えて貰えていない。それにまだ鰐も見る事が出来ていなかった。


このまま起きていて日課である鰐の餌を取る為の魚釣りについて行こうか。


いきなりそう言ったらお父さんはどう思うだろう?。嫌がるか?それとも僕が後継ぎになりたいとはいう気持ちが嘘ではないと信じてくれるだろうか?


実際、心から後継ぎになりたいとは思っていないし考えてもいない。僕はただ鰐をどう躾け飼育しているのかを見たいだけなのだ。


拭ったティッシュをゴミ箱に捨てるが、まだ完全に拭き取れていないのか手の平が僅かにベタベタした。


指の間など隅々まで拭きなおした。臭いは微かに残っていたけど、気になるほどじゃなかった。自室のある2階から下に降りた時に手を洗えば済む事だ。


パジャマから私服に着替えた。早い朝はまだきっと肌寒いから薄手のジャンバーを羽織る事にした。ジーンズに赤茶色のロンT、胸には英語の文字のロゴが入っている。意味は確か「家に帰れ、帰れる家があるならな」だった筈だ。


それを着てベッドに腰掛けた。


耳を澄ますが階下からの気配は感じなかった。当たり前だ。動き出すまでの時間にはかなり早いからだ。時間を潰す為スマホを持ち、ベッドに寝転んだ。適当なゲームを始めると急に目蓋が重くなっていった。寝ちゃダメだと思う気持ちを嘲笑うかのように睡魔は僕を眠りの世界へと引き摺り込んで行った。


私服に着替えたのが見事に無駄になった僕はパジャマに着替え直し階下に降りた。顔を洗い歯を磨く。今朝はトーストとベーコンエッグだった。温かいココアを一口啜りトーストを齧る。


「お父さんは?」


「さっき餌やり終えて帰って来たけど…」


お母さんはそういいテレビに向き直る。


朝の情報番組に夢中のようだった。

芸能人の誰かがコロナにかかって亡くなったというニュースが流れていた。


「今時、まだコロナで死ぬ人いるんだね」


「そうね。出始めの頃は沢山、亡くなったけど、今は風邪と同じように飲み薬もあるのに」


「昔も今め毎年インフルエンザで死ぬ人も多くいるからな。コロナで死んでもおかしくはないだろう。特効薬が出た今だから平気というのは慢心だ」


横からお爺ちゃんが口を挟んで来た。


「コロナだって無くなったわけじゃないんだ」


「ですよね。お父さん」


コロナが蔓延していた時代の僕はまだ小学生低学年だった筈だ。マスクをしなさいと言われ随分、嫌な気持ちになった記憶がある。


親にしたら、子供の僕ら以上に面倒な事が数多くあったらしい。それについては興味がないからあえて聞くような事はしなかった。


「コロナだろうと何の病気だろうと、どの道、人はいつか死ぬからね」


トーストを食べ終えた僕がそう言った。


「そうねぇ。だからお婆ちゃんも、もうじきお迎えが来てしまうかしらね。ねぇお爺さん?」


「婆さんより先に俺の方が早く迎えに来るなぁ」


「お爺さんたら何を言うんですか」


お婆ちゃんがクスッと笑った。


「ま、一緒にお迎えされたいなぁ」


「そうですねぇ」


2人の会話をスルーした僕は食器やカップを台所のシンクへと運んだ。2階の部屋に戻り着替えを済ませました。


時間割を見てカバンに教科書類を詰め込む。今日は体育があるから体操着か必要だった。体操着はカバンに入らなかった為、肩にかける。下に降りたらお父さんが食卓に座っていた。


「お父さん、おはよう」


お父さんの背中に向かって僕が言う。

振り返る事もせずお父さんはおはようと返して来た。


「お父さん、少しいい?」


「来年、高校生になったら、その夏休みから教えてやるから、それまではしっかりと学生を楽しでおけ」


まるで僕の心を見透かしたかのような言葉に返す言葉は1つしか思い浮かばなかった。


「わかった。ありがとう」


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