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屋上で出会った女の子の名前を聞かなかったのは人生最大のミスだと感じたのはあの日から10日過ぎた頃だった。
あの後、女の子はメロンパンを咥えたまま、手を振って去っていったのだ。
教室に戻るの?と聞く僕にポカンとした表情で首を傾げる仕草を見せただけで、それ以上は何もしなかった。
そして手を振ってドアから出ていった。あっという間の出来事だった。
それでも後を追わなかったのは同じ学校だから会える機会があると思ったからで、だけどそれが過ちだという事に気づくまで僕は数日も無駄にしてしまった。
その10日間で僕がした事といえば、他のクラスの前を通った時、歩きながら窓ガラス越しにクラスの中を見てあの子の姿を探す程度の事だった。
そんな風に時間を無駄に浪費してようやく9日目になってから僕は自分がどれだけ間抜けだという事を思い知らされた。
毎日のようにあの子の事ばかり考えている事が恋だという事にようやく気がついたのだ。
そして9日目に、あの子のいるべきクラスと名前を知ることが出来た。
他のクラスに特別、仲の良い友達がいるわけでもないから、他のクラスの生徒は尋ねる僕に対して良い顔はしなかった。
それでも話を聞きつけた数名の女子、多分、あの子と友達だったのだろう、名前を教えてくれた。
お礼を言うと僕とあの子が知り合った経緯を聞きたがった。説明すると、その女子は
「会いたかったなぁ」
と寂しそうに話した。
「一緒に会いに行かない?」
と提案するとその女子は良い顔はしなかった。
「ていうか、君、あの子に何の用があるわけ?」
僕はあると正直に答えた。
「告るんだ?」
「そのつもりだよ」
「へぇ」
その女子はそう言いながら僕の頭から爪先まで舐めるように眺めた。
「〇〇は面食いだから、君じゃ無理だと思うけど」
傷つく前にやめときなって言いたいのだろうけど、そんな事が怖くて、この気持ちを抑える事など出来るわけがなかった。
僕はその女子に住所を尋ねた。
「言うわけないじゃん。確かに今は付き合いないけど、だからって知らない奴に教えるわけにはいかない。そもそもあんたが綾乃と知り合いという証拠もないし」
確かにそれはそうだと思った。けど引き下がるわけにはいかない。
「てかさぁ。正直、ハッキリとした住所なんて知らないんだ。よくつるんでいた時だって知らなかったんだし。あんただってそうじゃない?仲良い友達の住所言える?」
僕は首を振った。
「ほらみなよ。みんなそうなんだって。家の場所はわかってるけど住所は知らないの」
「だから一緒に行って…」
「しつこいっ!」
その女子は口調を荒げそう言った。
「久家綾乃 それがあの子の名前だから。後は自分で調べて」
その女子はいい、教室の隅で集まっている女子の輪の中へ向かっていった。
そしてその名前を他人から聞く事になったのは
約1年後の高校1年の夏休みの事だった。




