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三田に合流する為、泡沢は先ず連絡を入れた。
三田は今、吉祥寺にいるらしく、どうやらそこに写真の中の1人の女の自宅があるらしい。
そこで三田は木下と2人でその女が帰宅するのを待っているらしかった。
一度伺ったが留守なようなので、しばらく待っているつもりだと三田は泡沢に話した。
その間も三田はマンションの管理人に写真を見せその1人が間違いなくそこで暮しているらしい事も名前も確認済みらしかった。
流石、三田さんだなと泡沢は思った。
地道な聞き込みであの人に勝てる者はうちの署にはいない。
それも何日、何ヶ月も地どりを繰り返して、容疑者にたどり着くわけではない。三田は何故か短時間で見つけてしまうのだ。
「戌年だから鼻が聞くんだよ」と三田と一緒に呑んだ時そのように話してくれた。
その時の事を思い出しながら泡沢は田町殺害現場から、電車を乗り継ぎ三田のいる吉祥寺へと向かった。
駅を出て井の頭公園がある方へ向かう。
華やかな駅付近は歩いて数分で閑静な街へと姿を変える。
そんな土地柄のせいか、何年もの間住みたい街ランキングで上位にくる所以なのかも知れないと泡沢は思った。
泡沢自身、東京生まれだが吉祥寺に来るのは久しぶりだった。
高校生以来か。当時、付き合っていた彼女とのデートで吉祥寺へ行ったのだ。
お互い北区赤羽住みだったし、高校も北区内だった為、デートに出かけるといったら、渋谷か新宿だったのだ。
何故そんな2人が吉祥寺をデート場所に選んだのかと言うと彼女が恋人同士で井の頭公園のボートに乗ると別れるという都市伝説が本当かどうか試してみようと言ったのがきっかけとなり吉祥寺へ行ったのだった。
それは見事な程、当たった。吉祥寺デートから二週間もしない内に泡沢はフラれてしまったのだ。
理由は他に好きな人が出来たからだという。
しつこくするのもされるのも嫌な為、泡沢は別れを受け入れた。
それ以来、この吉祥寺という街には来なかった。
来たくもなかった。大学時代もそうだ。
吉祥寺での飲み会には絶対に参加しなかったのだ。
そんな泡沢だが、なんの因果か再びこの街に足を踏み入れる羽目になったのだった。
泡沢は過去の淡い記憶を思い返しながら、三田達がいるマンションへと足を早めた。
場所柄、胸がチクリとするかなと思ったりもしたが、
そんな事もなく、思い出はしっかりと自分の中で整理出来ていたようだった。
少しずつ民家やマンションが増えて来ている。
都心と比べ家々との間が数センチと言うほど密接はしていないが、その正面には決まって交互通行の道路が通っていた。
その道路を挟んだ向かい側も勿論、家々や個人病院などか立ち並んでいた。
泡沢はスマホナビを確認した後、左右を見てから小走りで道路を渡った。




