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5人目の被害者である20歳の女子大生が、公園のベンチで息を吹き返したのは台風が去った早朝の事だった。
犬の散歩に出かけていた若い夫婦が裸の女子大生を見つけ110番をしたその側でまるで溺れた人のように女子大生は吐瀉部を吐き出し、奇跡的に息を吹き返した。
女子大生の証言により犯人の似顔絵が作成され、容疑者が3名に絞られた。
その3名とも、地味な地取りで三田が容疑者としてピックアップしていた奴等ばかりだった。
そして1人に絞られた。ホシは近所でも元気があって面白いと有名な魚屋の2代目だった。
高校時代まで柔道をやっており、都大会で3位に入った経歴の持ち主だった。ホシは身体も大きく捕まえられ押さえつけられたら、素人では身動きすら出来ないだろう。
「柔道をやってて一度も絞技で落とした事がなかったから、やって見たかった」
殺害の動機について尋ねたら、ホシはそのように答えた。
「相手が経験者だと自分より強いから、絶対に無理だから、だから自分より弱そうな奴を狙った」
だがホシは落とす以上に絞め殺す事に快感を覚えてしまい、絞殺を止められなくなったようだ。
「さすが三田さんですね」
取り調べ室から出て来た三田を迎えた泡沢が開口一番そう言った。
「俺は何もしていねーよ。ガイシャが助かってくれたお陰で、挙げられたんだよ」
「いや。でも聞きましたよ。三田さんが今回の絞殺魔のホシも、容疑者リストに上げていたって」
「たまたまだ」
「自分はそうは思いませ……」
「先輩?タマタマがどうかしましたか?出せって騒いでいるんですか?なら急ぎましょう!私がヌイてあげますから!」
「いや、チッチ、そっちのタマタマじゃなくて……」
「お前らのエロ話に付き合っていられる程、俺は暇じゃないんだよ。今から報告書を書かなきゃいけねーし。あぁ。ダルいな。ったく」
三田は言い、泡沢に向かってありがとなと手を挙げた。そう言って自分のデスクがある部署へと戻って行った。
泡沢には、三田の言ったありがとなの意味がよくわからなかった。
けれど、三田から貰ったその言葉は泡沢の気分が高揚する程、嬉しいものだった。
チッチは三田の背中を見送る泡沢の姿を横目で見つめながら相手が男でも、先輩は勃起するのかな?と思った。
了




