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 ⑥

泡沢達は真っ先に目撃者である近藤房江の家を尋ねる事にした。制服警官の田所勇に頼み、一緒に近藤房江の家へと向かった。


隣人とはいえ、山田家と近藤家の距離は数十メートルも離れていた。車で現場に到着した時には気づかなかったが山田家の両隣は空き地になっていた。


家と家の間が、これだけ離れていて悲鳴は聞こえるだろうか?ましてや悲鳴をあげたのは年老いた老婆だ。


叫び続けていたなら聞こえる可能性もあるだろうが、実際、強盗犯を目の前にしたら、声なんて出ないものだ。自分の命を守る為に、声は出せない。


黙っていれば強盗が手を出す確率も下がる。犯人は殺害が目的ではないからだ。


なのに山田ミサヨは近藤宅まで届く程、悲鳴をあげた。犯人が逃げた後なら悲鳴を上げらるが、その場合、山田ミサヨは生きていなければならない。


だがミサヨは殺害された。複数回に渡り鈍器で頭を殴られ死亡したのだ。


それでも近藤房江の証言では、山田家は普段から息子と言い争いが絶えなかったという。本当にそうだろうか。家と家とのこの距離が泡沢の足を止めさせた。


「チッチ」


「何ですか」


「田所君とここに立っていてくれないか」


「何を、するつもりですか?まさかホシに繋がる物証がなかったから、もう一度、ひ、と、りでシコるつもりですか?そうはさせません。バディである私をさしおいて、それは絶対に阻止させて頂きますよ」


チッチの言葉に田所がびっくりしたような表情を浮かべた。


泡沢は田所に向かって軽く違うからなと、実際は違わないが、手を振った。


「山田家の中から叫んでみるから、チッチ達は近藤家の前で待ってて俺の声が聞こえたらスマホに連絡してくれ」


「聞こえなかったらどうします?」


「何もしなくていい。何度か大声で叫んでみて、チッチから連絡がなければ出てくるから」


「わかりました。なら、準備出来たら連絡ください」


「わかった」


第一目撃者を疑えというの捜査の上で定石だ。


昨夜起きたばかりの事件の為にその事が頭から抜け落ちていた。空き地のお陰で基本に立ち返る事が出来た。


思わぬ形で思い出せた事に泡沢はホッとした。

こんな事をしなくても近藤房江が疑わしいなら、家に行けばわかる事だ。チンポが、それを教えてくれるからだ。


だが、泡沢はチンポに頼る事なく事件に取り組み解決に至りかった。何故そのような事を、考えたのかと言えば、やはり木下の死が関係していた。


あいつは刑事としては間抜け過ぎたが、それでも真剣に取り組んではいた。


その姿勢は見習わなくてはいけないと出棺の時に感じたのだ。自分の捜査は非常識で非現実的だ。犯人を捕まえられるのだから、構わないと思っていたが、なのに重大なミスも犯した。


2回も桜井真緒子を取り逃す失態を犯したのだ。

なのに自分は飛ばされる事なくまだ刑事としての席がある。こうして捜査に参加させて貰えている。


その間に三田さんや木下のように地道な捜査が出来る刑事を身体に染みつけて起きたかった。


勃起は捜査の手段であり入り口に過ぎないのだ。

捜査とはその後が重要だという事を木下の事件で思い知らされた感はあった。


それにまだ若いとはいえ、いつ勃起不全、つまりインポにならないとも限らない。そうなれば基本的な捜査がまだ出来ない自分は真っ先に首を切られるだろう。


それさ嫌だった。そしていつまでもチッチとパートナーでいられる訳じゃない。自分より先にチッチが出世する可能性だってある。


警察本庁に移動する事もないとはいないのだ。正直、チッチがいなくなった後の事など考えられなかった。


自分が事件に向かうにあたり、シコらなければいけない時、チッチに弄ばれているのはわかっている。


わかっているが、いるからこそ泡沢はチッチに身を委ねるのだ。委ねたいのだ。


何故なら、気持ちいいからだ。それ以上も以下もない。チッチにされるのが気持ち良くて、それが全てだった。


だからそれが無くなった時を踏まえた捜査を身につけておくべきなのだ。


泡沢は、何を今、そんな事を考えているんだと思った。お陰でチンポが勃ち始めたじゃないか。


思考を切り替えながら泡沢は山田家へ入って行った。

ミサヨの部屋に入り襖を閉めた。チッチに連絡を入れ、今から叫ぶと告げた。


合計、4回、喉が痛くなる程、大声で叫んだが、チッチからの連絡は来なかった。


これが答えだと思った。この付近は確かに閑静な住宅街の奥ばった場所にある。午前中にも関わらず、人の行き来する姿も車の往来する所も見ていない。


エンジン音すら耳にしていなかった。それが深夜ともなれば更に人も車の往来も減る筈だ。この辺りはとても静かだろう。だが人々が動き出している時間帯で自分の叫び声が聞こえないとなれば、例えそれが夜だろうが聞こえない筈だと泡沢は思った。


寝静まった世界にあって老婆の悲鳴など、強盗に遭遇したのであれば、咄嗟に大声など上げらるわけがない。それが離れた家の中にいる近藤房江の耳まで届くとは思えなかった。


だが、近藤房江は悲鳴を聞いたと言った。それにそもそも近藤房江は何故、深夜にも関わらず老婆の悲鳴に気づいた?眠れなかったとしても、悲鳴をあげたのは老婆だ。泡沢は近藤房江の証言は嘘だと思った。


泡沢はチッチに電話をかけた。


「今からそっちに戻るよ」


「わかりました。ていうか先輩、本当に叫びました?」


「あぁ。全力で4回もな」


「そうですか」


チッチの言い方で泡沢はチッチも何か気づいたと思った。


「私は正面で、側にいる童貞君には裏を見張らせます。それで良いですね?」


チッチの背後から田所勇の、自分、童貞じゃないですよ!と必死に否定する声が聞こえた。

それに対しチッチは


「君、今日、エッチした?してないよね?なら童貞じゃん。昨日ヤッてても今日はしてないなら、今日は童貞でしょ?でも気にする事ないわ。先輩なんて私という良い女が側にいるのに、もっと長い間、童貞なんだから。ま、それは先輩が早漏……」


「それ以上言うなぁー!って言うか早く田所を裏口に回しておけ!」


「いやん。先輩のドSぽい命令も中々、いけますよ」


チッチはいい電話を切った。泡沢も急いで池田家から飛び出して行った。


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