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神草早苗は何故、殺害されバラバラにされなければならなかったのか。
ラーメン屋の店主と良い仲であったのは間違いないだろうが、店主は撲殺で神草早苗は惨殺であった。
店主はその後、寸胴に入れられ煮込まれ、神草は5体を切り落とされ公園に捨てられた。
その内の胴体だけがトーテムポールの上に飾られてあった。
犯人は恐らく脚立などを用いて、トーテムポールの上まで登り胴体を置いたと思われる。
捜査会議の中、署長はそのような事を語っていた。そんな事は現場に出ている刑事なら直ぐに察する筈だ。
同一犯の仕業か?それとも別にいるのか?単独犯か?もしくは複数か?
何らかの組織的犯罪では無さそうだというのは三田の見解だった。泡沢もチッチも同意見だった。
ただ、今回の犯行はかなりリスキーな筈だ。
深夜から朝方にかけて5体を捨てて周り、トーテムポールに胴体を置くという作業は数分で出来るような事ではない。
それに幾ら公園だからといっても、周りには多くの民家や、マンション、アパートだってあるのだ。
全員が全員、夜には寝ているというのは浅はかな考え方だ。案の定、聞き込みをした班からは作業着姿らしき物を着た人間がゴミ箱や、トーテムポール付近で目撃されていた。定かではないが中には長髪だったという者もいたらしい。
泡沢は長髪はあてにならないと考えた。今の時代、ウィッグなんてどこででも手に入るからだ。
自分が犯人だとしたら確実にウィッグは用意する。
人に対して印象付けるには、それくらい目立つ物があった方が良いのだ。
何故なら、人間はとある目立つ物があれば、必ずそこに注目しがちだからだ。それは全体像や身体的特徴、顔などから意識を逸らす効果もある。他人の注意を散漫にする為には、一つだけ目立つ物が必要とされるのだ。
でもこれで第3の女の犯人説は薄くなったなと、別の班の奴らがこれみよがしに言い放った。
泡沢はそれを無視したが、チッチは気が強いせいか、そいつらを睨みつけた。
三田にほどされ、前に向き直ったがイライラは治らないようだった。
確かに薄くはなったが、人体をバラバラにする為に力はいらない。小型のチェーンソーだって売っている。
時間をかけて切り落とす事だって可能だ。それは誰しもがわかっている事だが、手柄を三田達の班に取られてばかりだから、嫌味の一つくらい言いたかったのだろう。
明日の早朝から全員総出で都内の工具店などを周り工具の特定を急ぐと共に、購入者のリストアップに急げいう話で会議は締めくくられた。
「特定って、まだ検死の結果は出てないから特定は難しくないですか?」
部署に戻る最中、チッチがそう言った。
「そうだな。難しいな。ただ、明日の朝までには検死結果が出るとふんでんだろう」
「でも、今は小さな町工場でもレーザー加工機がある時代ですよ?それで切り落とすくらいは簡単じゃないですかね?」
「あ、なるほど。それはあり得るな。チッチ、お前は明日、区内の工場をしらみ潰しに当たってみてくれ」
「先輩は?」
「2人とも指示に逆らうわけにはいかないから、俺は工具店周りをする」
「わかりました!」
チッチは大仕事を任されたと感じ意気揚々と部署へ戻り帰宅の支度を始めた。
泡沢も帰宅の為の準備をした。流石に飲みに誘う人はいなかった。きっと内心は不安で仕方がないのだ。
怒りに燃えてはいるものの、犯人逮捕に至る自信がない、そういう表情が泡沢を含めた全員の顔に滲み出ていた。
今夜は早く休もうと泡沢は思いながら地下駐車場へと急いだ。




